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さっきまでの眩しい明かりが途絶えた、6階の通路。
3人は薄明かりの非常灯と、ジェロムの小さいペンライトを頼りに走った。
「しっかし、奏介はよくやったぜ。よくもあんなティーンエイジャーなスメルプンプンな青臭い啖呵を切れたもんだ」
「部長それ褒めてないですよね!? 俺だって今思うとめっちゃ恥ずかしいですよ!?」
「でも、さっきの奏介、かっこよかった」
「…………あ、ありがと」
「ヒューッ!」
「やかましいわ!」
奏介は走りながら茶化すジェロムを珍しくどついてから、会話の軌道修正を図る。
「そ、それにしても、この電源を落とすのってどうやったんですか?」
「ああ、これは別に俺がやったんじゃない。俺はGOサインを飛ばしただけさ」
「GOサイン? どこに?」
「外部の協力者……というか、俺の親父だがな。そいつが『デウス・エクス・マキナ』の正体よ」
「お父さんが近くにいたんですか? そもそも部長の父親って一体……?」
合宿の時だったか。父親が何者かを訊いた覚えがあるが、確かその時は聞いたこともないような国を飛び回っていると言っていたような気がする。
「親父が何者か、知りたいか?」
「はい」
「それはな……」
そこからたっぷり3秒くらい間を空けて。
「禁則事項だ」
「えっ」
「ソーリー、外部の人間には言えないんだ。そもそも、俺が知ってることだって限られてるしな。さて、そろそろ階段だ。足下に気をつけろ」
非常階段の前では、幽霊のようにぼんやりと非常口の標識が光っている。3人は誘蛾灯に引き寄せられる羽虫のように導かれ、足音と段差に細心の注意を配って駆け下りる。
「ちなみにもし今回の作戦が成功したら、俺は一時的にほとぼりが冷めるまで国外へ逃亡する手はずを取っている。どうだ、もしよかったら彼方と奏介も一緒に来ないか?」
「そんなことできるんですか?」
「うちの親父を頼れば何でもオールオーケーだ。親父のコネクションは世界中にいくらでもある。行き先のリクエストもできる限り受け付けるぜ。常夏気分な南のハワイやグアムでもいいし、涼しさを求めて北のカナダや北欧なんかも悪くない。お前らはどっちがいい?」
「えーっと……」
あまりにも現実味のない二択に奏介が迷っていると。
「北にいきたい」
先に彼方が答えた。迷いのない返答だった。
「MiXの音楽も聞こえない、世界の果てに行きたい」
そこには、空と海しかない。
波音もなく広がり、一直線に凪いだ水平線の景色。
周囲には誰もいない。あるのは長い年月をかけて朽ち果て木々の名残と、冷たい風の音ばかり。
そこはあまりにも寂しく、だけどこれ以上ないくらい安らかな世界。
彼方の言葉から思い浮かんだ世界の果ては、何故かそんなイメージだった。
「オーケー、そのオーダーで親父に手配してもらおう」
「でも、どうしてそこまでしてくれるの?」
「そんなの、決まってるじゃないか」
すると、ジェロムは不敵な笑みを浮かべて。
「俺達は、仲間だからな。4人揃って初めてジェロムズになるんだ」
頼もしい言葉だった。奏介も心の中で同意する。だけど、足りないものもある。
この場には今、3人しかいない。
するとジェロムは奏介を横目に見て、言いたいことを察したようだった。
「オフコース、梨音も大事な仲間だ。だがあいつは今回のミッションのことについて、きっと何も知らない。音構も梨音にコンタクトは取っていないようだから、このままずっと知らないままでいるのがベターだろう」
「部長、それじゃあ梨音は……」
「心配するな、またすぐに会えるようセッティングしてやるさ。音楽をやるときは絶対に4人揃って、フルメンバーで、だ」
奏介と彼方は同時にうなずいた。ジェロムの熱のある言葉を記憶に、いや、心に刻んだ。
いよいよ階段は途切れ、3人は1階のフロアに躍り出た。
エレベーターホールは別の電源で動いているのかそれとも光源の差か、通路や階段に比べて明るい光に包まれていた。周囲の暗さとのコントラストで、行きで通り抜けた時よりも広く感じられる。
そして、3人が進むべき道の先には、2人の男が立っていた。




