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「オーケー、話をまとめよう」
彼方の長い話の後で、まだ銃を構えたままのジェロムが言った。
「まず、今の彼方には責任がある。MiXとして音楽で世界にラブ&ピースを取り戻さなければならない、という責任だ」
彼方は黙っている。
「それから、今の彼方には負い目がある。俺達に自分がMiXであることを隠し続けていた、という負い目だ。この2つが、彼方がジェロムズへ戻ることにストップをかけている。違うか?」
彼方は何も言わない。
「だが、一方で彼方には相反する気持ちがある。本当のところ、お前はジェロムズに戻りたいんだ。今では彼方自身、MiXとしての在り方に疑問を持っている。何より、ジェロムズで歌っていたときの体験が、いい意味で強烈すぎたんだろう?」
彼方はまだ何も言わない。が、下唇を噛んでいる。
「4人での初めてセッション。コスプレしながら遊び尽くしたオーディションライブ。自分達の音楽に本気で向き合った合宿。そしてフェス本番、彼方が一番輝いていたステージ。ここまで駆け抜けた数ヶ月は、MiXとして歌った数年間よりも、ずっと楽しくて濃密な――」
「じゃあどうすればいいの!!」
一瞬、響いた叫びが誰のものなのか、奏介はわからなかった。
「私は……どうしたらいいの……!」
でも、それは間違いなく彼方の、心の叫びだった。彼方は両手で顔を覆い、その場に崩れ落ちる。そこで初めて、ジェロムは銃の構えを解いた。
「最終的な判断は、彼方に任せる。ただし、今ここで決めろ。それで戻らないと言うのなら、俺ができるのはここまでだ」
ジェロムは一歩後ろに退いた。同時に奏介の肩を叩く。
ここから先はお前の仕事だ。
奏介は、そう言われた気がした。入れ替わる形で、一歩前へ。
奏介は言った。
「こんな世界、滅べばいいと思う」
嘘ではなかった。本気で、心の底から真剣に、消滅してほしかった。彼方を犠牲にして成り立つ世界平和なんて、クソくらえだ。
「元々、人間は戦争をしたくて仕方なかったんだよ。彼方がどんなに心をすり減らして歌おうと、戦争は先送りされるだけ。根本的は解決にはならないんだ。今世界中で起きてる戦争や事件は、元々起こるべくして起こったものなんだよ、きっと」
「それじゃあ……!」
彼方が顔を上げる。その表情は、涙と葛藤でぐちゃぐちゃだった。
「私の、MiXとしての今までは何だったの!? 自分の気持ちを全部押し殺して何もかもを犠牲にしてMiXのためだけに捧げてきた毎日は無意味だったの!?」
「無意味なわけないだろ!」
奏介もしゃがんで、なるべく同じ高さで彼方に語りかける。
「それがあったから、俺達は会えたんだよ! それがあったから、彼方は軽音部に入って、合宿してライブして新曲作って、最高に楽しかった2ヶ月があったんだろ!」
「……っ!」
「もう、人のために歌わなくていいんだよ。自分のために歌えよ。それで世界が滅びるんだとしたら、気が済むまで滅びればいい。それで彼方のせいだと責める奴がいるなら、俺が代わりに責められてやる。俺が、彼方が背負ってきた分の世界を背負ってやる」
奏介は手を差し出した。
「だから一緒に行こう。遠くまで行こう。音構の人間が、追ってこれない場所まで」
そして、彼方は奏介の手を取った。
彼方を守っていた、仮面の無表情はとうに剥がれ落ちた。泣き腫らしてみっともなくてぼろぼろでも、希望を見いだした純粋な笑顔がそこにあった。
「パーフェクト! それじゃあ最後にもう一暴れだ!」
いつの間にか、ジェロムは拳銃をタブレット端末に持ち替えていた。
「奏介、さっき俺の正体はテロリストだと言ったな」
そのタブレットで何かを操作した、その数秒後に。
「あれは嘘だ。ただし、半分だけな」
電力が落ちた。




