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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
4.旅立ちの歌姫
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23

「オーケー、話をまとめよう」

 彼方の長い話の後で、まだ銃を構えたままのジェロムが言った。

「まず、今の彼方には責任がある。MiXとして音楽で世界にラブ&ピースを取り戻さなければならない、という責任だ」

 彼方は黙っている。

「それから、今の彼方には負い目がある。俺達に自分がMiXであることを隠し続けていた、という負い目だ。この2つが、彼方がジェロムズへ戻ることにストップをかけている。違うか?」

 彼方は何も言わない。

「だが、一方で彼方には相反する気持ちがある。本当のところ、お前はジェロムズに戻りたいんだ。今では彼方自身、MiXとしての在り方に疑問を持っている。何より、ジェロムズで歌っていたときの体験が、いい意味で強烈すぎたんだろう?」

 彼方はまだ何も言わない。が、下唇を噛んでいる。

「4人での初めてセッション。コスプレしながら遊び尽くしたオーディションライブ。自分達の音楽に本気で向き合った合宿。そしてフェス本番、彼方が一番輝いていたステージ。ここまで駆け抜けた数ヶ月は、MiXとして歌った数年間よりも、ずっと楽しくて濃密な――」


「じゃあどうすればいいの!!」


 一瞬、響いた叫びが誰のものなのか、奏介はわからなかった。

「私は……どうしたらいいの……!」

 でも、それは間違いなく彼方の、心の叫びだった。彼方は両手で顔を覆い、その場に崩れ落ちる。そこで初めて、ジェロムは銃の構えを解いた。

「最終的な判断は、彼方に任せる。ただし、今ここで決めろ。それで戻らないと言うのなら、俺ができるのはここまでだ」

 ジェロムは一歩後ろに退いた。同時に奏介の肩を叩く。

 ここから先はお前の仕事だ。

 奏介は、そう言われた気がした。入れ替わる形で、一歩前へ。

 奏介は言った。

「こんな世界、滅べばいいと思う」

 嘘ではなかった。本気で、心の底から真剣に、消滅してほしかった。彼方を犠牲にして成り立つ世界平和なんて、クソくらえだ。

「元々、人間は戦争をしたくて仕方なかったんだよ。彼方がどんなに心をすり減らして歌おうと、戦争は先送りされるだけ。根本的は解決にはならないんだ。今世界中で起きてる戦争や事件は、元々起こるべくして起こったものなんだよ、きっと」

「それじゃあ……!」

 彼方が顔を上げる。その表情は、涙と葛藤でぐちゃぐちゃだった。

「私の、MiXとしての今までは何だったの!? 自分の気持ちを全部押し殺して何もかもを犠牲にしてMiXのためだけに捧げてきた毎日は無意味だったの!?」

「無意味なわけないだろ!」

 奏介もしゃがんで、なるべく同じ高さで彼方に語りかける。

「それがあったから、俺達は会えたんだよ! それがあったから、彼方は軽音部に入って、合宿してライブして新曲作って、最高に楽しかった2ヶ月があったんだろ!」

「……っ!」

「もう、人のために歌わなくていいんだよ。自分のために歌えよ。それで世界が滅びるんだとしたら、気が済むまで滅びればいい。それで彼方のせいだと責める奴がいるなら、俺が代わりに責められてやる。俺が、彼方が背負ってきた分の世界を背負ってやる」

 奏介は手を差し出した。

「だから一緒に行こう。遠くまで行こう。音構の人間が、追ってこれない場所まで」

 そして、彼方は奏介の手を取った。

 彼方を守っていた、仮面の無表情はとうに剥がれ落ちた。泣き腫らしてみっともなくてぼろぼろでも、希望を見いだした純粋な笑顔がそこにあった。

「パーフェクト! それじゃあ最後にもう一暴れだ!」

 いつの間にか、ジェロムは拳銃をタブレット端末に持ち替えていた。

「奏介、さっき俺の正体はテロリストだと言ったな」

 そのタブレットで何かを操作した、その数秒後に。

「あれは嘘だ。ただし、半分だけな」

 電力が落ちた。


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