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最初はカフェライナーに行こう、という話だった。
だけど、そこはいつもの安らぎ空間ではなかった。
考えてみれば当然の話で、今はランチタイムのかき入れ時まっただ中。そして、夏休みを満喫している学生以外はごくごく普段通りの平日である。だから店内は昼休みに突入したサラリーマンやOLで満員御礼。食欲に街の治安は関係なく、店の外にまで長蛇の列を作っていた。時々「っしゃいませーっ!」という半ばやけっぱち気味なバイト店員の挨拶も聞こえる。
「やっぱ、別のとこにするか」
「……そうだね」
そんなわけであっさりと妥協した2人は、東口側、ハウディモール沿いのファーストフード、通称「三角マック」に入店した。
三角マックの由来は至ってシンプルで、その名の通り三角形の建物の中に店舗があるから。外見ではぱっと見狭そうな造りだが、3階まで座席が確保されているため意外と昼時でも座れたりする。おかげで梨音達も余裕を持って3階窓側の席に陣取ることができた。
「ポテトうまーい。ソウのもちょっとちょうだい」
「ああ俺の貴重なポテト! 梨音はLサイズなんだから自重しろ!」
「だったらソウこそMじゃなくてLにすればよかったのに。絶対足りないでしょそれ?」
「逆にお前は食いすぎ! なんでLサイズのセットにさらにチーズバーガー追加してんの?」
「あたしは欲望に忠実なのです」
「……太るぞ」
シメた。
「げほっ……人がポテト食ってる時に頸動脈押さえるのやめろ!」
「一言余計なソウが悪い」
すると、突如外から響くサイレンの音。また眼下で暴走族と警察のバイクによる鬼ごっこが始まっていた。歩行者天国の道を我が物顔で走り抜けていく。
駅の方向に目を向けると、反戦デモの横断幕が掲げられ、群衆の行進に合わせて揺れている。拡声器越しのシュプレヒコール。
それに混じって、MiXへの署名運動が続いている。誰かが反戦デモに負けじと演説している。
片づけられず、至る所に散乱する空き缶。ちり紙。ペットボトル。閉まったままのシャッターには、悪趣味な落書き。
カオスにカオスを上書きしたような街の光景。梨音が好きだった柏の街は、こんなんじゃなかった。
「なんか、みんな変わっちゃった……」
うんざりしてハンバーガーをかじっても、それでも梨音は傷だらけの街並みを見つめている。
きっとまだ探している。いるはずのない、彼方の姿を。
すると、隣の奏介がバッグの中をがさごそと探り始めた。そこから取り出したのは、A4サイズの一枚の紙。
「さっきカフェライナーに置いてあったから、1枚もらってきた」
いつの間に。
奏介から受け取ったそれは、モノクロでコピーされた手作り感満載のフライヤー。
『久々にやります! 夏樹&冬馬によるSeasons路上ライブ 本日15:00~ 柏駅東口前ダブルデッキ2階にて』
「最近、ライブとか見に行ってないし……久しぶりにそういうのもどうかなって」
奏介の表情は、前髪に隠れてよく見えない。ただ、自分を気遣ってくれているのはわかった。
いろいろな感情がよぎる。だけど、なぜかはっきりと脳裏に映ったのは、歌う彼方の背中だった。
「行ってみよっか」
梨音は短く答えた。




