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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
4.旅立ちの歌姫
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10

 最初はカフェライナーに行こう、という話だった。

 だけど、そこはいつもの安らぎ空間ではなかった。

 考えてみれば当然の話で、今はランチタイムのかき入れ時まっただ中。そして、夏休みを満喫している学生以外はごくごく普段通りの平日である。だから店内は昼休みに突入したサラリーマンやOLで満員御礼。食欲に街の治安は関係なく、店の外にまで長蛇の列を作っていた。時々「っしゃいませーっ!」という半ばやけっぱち気味なバイト店員の挨拶も聞こえる。

「やっぱ、別のとこにするか」

「……そうだね」

 そんなわけであっさりと妥協した2人は、東口側、ハウディモール沿いのファーストフード、通称「三角マック」に入店した。

 三角マックの由来は至ってシンプルで、その名の通り三角形の建物の中に店舗があるから。外見ではぱっと見狭そうな造りだが、3階まで座席が確保されているため意外と昼時でも座れたりする。おかげで梨音達も余裕を持って3階窓側の席に陣取ることができた。

「ポテトうまーい。ソウのもちょっとちょうだい」

「ああ俺の貴重なポテト! 梨音はLサイズなんだから自重しろ!」

「だったらソウこそMじゃなくてLにすればよかったのに。絶対足りないでしょそれ?」

「逆にお前は食いすぎ! なんでLサイズのセットにさらにチーズバーガー追加してんの?」

「あたしは欲望に忠実なのです」

「……太るぞ」

 シメた。

「げほっ……人がポテト食ってる時に頸動脈押さえるのやめろ!」

「一言余計なソウが悪い」

 すると、突如外から響くサイレンの音。また眼下で暴走族と警察のバイクによる鬼ごっこが始まっていた。歩行者天国の道を我が物顔で走り抜けていく。

 駅の方向に目を向けると、反戦デモの横断幕が掲げられ、群衆の行進に合わせて揺れている。拡声器越しのシュプレヒコール。

 それに混じって、MiXへの署名運動が続いている。誰かが反戦デモに負けじと演説している。

 片づけられず、至る所に散乱する空き缶。ちり紙。ペットボトル。閉まったままのシャッターには、悪趣味な落書き。

 カオスにカオスを上書きしたような街の光景。梨音が好きだった柏の街は、こんなんじゃなかった。

「なんか、みんな変わっちゃった……」

 うんざりしてハンバーガーをかじっても、それでも梨音は傷だらけの街並みを見つめている。

 きっとまだ探している。いるはずのない、彼方の姿を。

 すると、隣の奏介がバッグの中をがさごそと探り始めた。そこから取り出したのは、A4サイズの一枚の紙。

「さっきカフェライナーに置いてあったから、1枚もらってきた」

 いつの間に。

 奏介から受け取ったそれは、モノクロでコピーされた手作り感満載のフライヤー。

『久々にやります! 夏樹&冬馬によるSeasons路上ライブ 本日15:00~ 柏駅東口前ダブルデッキ2階にて』

「最近、ライブとか見に行ってないし……久しぶりにそういうのもどうかなって」

 奏介の表情は、前髪に隠れてよく見えない。ただ、自分を気遣ってくれているのはわかった。

 いろいろな感情がよぎる。だけど、なぜかはっきりと脳裏に映ったのは、歌う彼方の背中だった。

「行ってみよっか」

 梨音は短く答えた。

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