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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
4.旅立ちの歌姫
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 行ってみようと答えたものの、ライブが始まるのは15時。会場で待機するにはまだまだかなりの時間があった。

「さて、どこで暇を持て余すか」

「そうねー」

 こういう場合の時間の潰し方となると大体3つくらいにパターンが絞られてくる。よくある選択肢としては、買い物、カラオケ、それからゲーセン。

「買い物か?」

「あたしは別に欲しいものないし……ソウは?」

「俺もない。じゃあカラオケ?」

「歌いたい気分じゃないし、近頃の熱すぎるMiX推しが気に入らない」

「ああ……ならゲーセン行くか」

「賛成」

 そんなわけで、消去法でゲーセンに決定。

 一歩ゲーセンに足を踏み入れてみると、やはり店内は夏休み真っ盛りの学生で賑わっている。メダルゲーム界隈で盛り上がる小学生。クレーンゲームに悪戦苦闘する中高生。奥のアーケードゲームで1人孤独な戦いを挑み続ける大学生。

 それぞれのコーナーを回遊魚のようにふらついていると、奏介があるものを見つけた。

「あ、カシワニだ。これ梨音も持ってるやつ?」

 クレーンゲームの中で、無数のカシワニが愛嬌のある横棒の目でこちらを見ている。

 夢中になってカシワニを見つめていた彼方の背中が重なった。

 そういえば、彼方と一緒にカシワニを取ったのもここだったっけ。

「梨音」

 はっと梨音は我に返る。隣に奏介の心配そうな表情があった。

「ぼーっとしてるけど、大丈夫か?」

「うん、ごめん……大丈夫」

 本当は大丈夫なのかどうか、自分でもわからない。でも今は大丈夫と言うしかない。透明な壁の向こう、カシワニの表情は変わらない。

 ふと、思いつく。

「奏介、これやってみる?」

「これって、カシワニの?」

「1回だけでいいから」

「んー……まあ1回だけなら」

 奏介は100円玉を1枚投入する。

「どれ狙う?」

「手前の……一番前に出てるやつなら落とせそう」

 アームを動かす。その真下、今にもカシワニの崖からずり落ちそうなやつが1体。そこに照準を合わせ、アームを降ろした。

 掴んだ。

 落ちたな、と梨音は思った。

 しかし、狙われたカシワニはアームからするりと抜け落ち、なおかつそのまま落下することなく斜面にしがみついていた。

「えー落ちない!」

「マジか……今の落とせただろ絶対」

「このままじゃ終われない! あたしもやる!」

 1回だけのつもりだった2人の負けん気に火がついた。続いて梨音も100円を投入。よくよく狙いを定めてアームを投下するが、しぶとく逃れるカシワニ。

「な――っ!?」

「よし、また俺が行く」

 結局、ちょろい2人はお互いに500円ほど費やして、ようやく狙いの1匹を奏介の手で捕獲することができた。1回だけ、の口約束はどこへやら。それでも、2人の間には妙な達成感があった。こういう気分は、久しぶりかもしれない。

「ソウよくやった!」

「まったく、手間かけさせやがってなー」

 そう言いながら、景品の取り出し口に手を伸ばす奏介。 何だかんだ言って嬉しそうなその様子に、またクレーンゲームで遊んでた彼方の姿が重なった。大事にすると言って、両手でぎゅっとカシワニを握りしめた彼方。 

 まだ彼方は持ってくれているだろうか。あの時のカシワニ。

「ほれ」

「ん?」

 差し出された奏介の手。その中には手に入れたカシワニ。

「あげるよ」

「いいよ、あたし持ってるもん。気持ちだけ受け取っとくから、ソウが飾りなさいよ」

「そうか……」

 奏介が差し出した手を引っ込める。

「ソウならどこにつけても似合うと思うよ、カシワニ」

「……こいつが似合うと言われても微妙な気持ちになる」

「ありがたく褒め言葉として受け取っときなさいな」

「んー、じゃあありがたく。どこにつけるかな?」

「携帯とか?」

「携帯はさすがに邪魔くさいだろ……」

 と、その時。

 近くで、ガラスの割れる音がした。

 フルフェイスのヘルメットをかぶった人が1、2、3、4人。音のした方向から押し入ってくる。手にはナイフやバール、金属バット、鉄パイプ。自動ドアは割られ、足下には大小砕け散ったガラス片が散乱している。そのまま、一番手近にあったゲーム機に1人が凶器を振り降ろした。重い打撃音。それを合図に、他の仲間も片っ端からゲーム機を壊していく。

 逃げまどう足音。重なる悲鳴。鳴り響く警報ブザー。

「え……」

 突然のことで呆然とする梨音。その間にも、暴力の集団は近づいてくる。

「こっちだ!」

 声と同時に、腕を引っ張られた。

 奏介の力と声と、体温を感じた。

 だけど、まだ今の状況は飲み込めない。梨音は、まるでアクション映画のワンシーンを見ているような気分で、思う。

 ――ソウ、なんかカッコいいじゃん。

 奏介に引っ張られるがまま、梨音は非常口から外へと逃げ出す。

 その一瞬、梨音は見た。

 2人が飛び出すとほぼ同時、カシワニのクレーンゲームが金属バットで叩き割られる一部始終を。

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