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行ってみようと答えたものの、ライブが始まるのは15時。会場で待機するにはまだまだかなりの時間があった。
「さて、どこで暇を持て余すか」
「そうねー」
こういう場合の時間の潰し方となると大体3つくらいにパターンが絞られてくる。よくある選択肢としては、買い物、カラオケ、それからゲーセン。
「買い物か?」
「あたしは別に欲しいものないし……ソウは?」
「俺もない。じゃあカラオケ?」
「歌いたい気分じゃないし、近頃の熱すぎるMiX推しが気に入らない」
「ああ……ならゲーセン行くか」
「賛成」
そんなわけで、消去法でゲーセンに決定。
一歩ゲーセンに足を踏み入れてみると、やはり店内は夏休み真っ盛りの学生で賑わっている。メダルゲーム界隈で盛り上がる小学生。クレーンゲームに悪戦苦闘する中高生。奥のアーケードゲームで1人孤独な戦いを挑み続ける大学生。
それぞれのコーナーを回遊魚のようにふらついていると、奏介があるものを見つけた。
「あ、カシワニだ。これ梨音も持ってるやつ?」
クレーンゲームの中で、無数のカシワニが愛嬌のある横棒の目でこちらを見ている。
夢中になってカシワニを見つめていた彼方の背中が重なった。
そういえば、彼方と一緒にカシワニを取ったのもここだったっけ。
「梨音」
はっと梨音は我に返る。隣に奏介の心配そうな表情があった。
「ぼーっとしてるけど、大丈夫か?」
「うん、ごめん……大丈夫」
本当は大丈夫なのかどうか、自分でもわからない。でも今は大丈夫と言うしかない。透明な壁の向こう、カシワニの表情は変わらない。
ふと、思いつく。
「奏介、これやってみる?」
「これって、カシワニの?」
「1回だけでいいから」
「んー……まあ1回だけなら」
奏介は100円玉を1枚投入する。
「どれ狙う?」
「手前の……一番前に出てるやつなら落とせそう」
アームを動かす。その真下、今にもカシワニの崖からずり落ちそうなやつが1体。そこに照準を合わせ、アームを降ろした。
掴んだ。
落ちたな、と梨音は思った。
しかし、狙われたカシワニはアームからするりと抜け落ち、なおかつそのまま落下することなく斜面にしがみついていた。
「えー落ちない!」
「マジか……今の落とせただろ絶対」
「このままじゃ終われない! あたしもやる!」
1回だけのつもりだった2人の負けん気に火がついた。続いて梨音も100円を投入。よくよく狙いを定めてアームを投下するが、しぶとく逃れるカシワニ。
「な――っ!?」
「よし、また俺が行く」
結局、ちょろい2人はお互いに500円ほど費やして、ようやく狙いの1匹を奏介の手で捕獲することができた。1回だけ、の口約束はどこへやら。それでも、2人の間には妙な達成感があった。こういう気分は、久しぶりかもしれない。
「ソウよくやった!」
「まったく、手間かけさせやがってなー」
そう言いながら、景品の取り出し口に手を伸ばす奏介。 何だかんだ言って嬉しそうなその様子に、またクレーンゲームで遊んでた彼方の姿が重なった。大事にすると言って、両手でぎゅっとカシワニを握りしめた彼方。
まだ彼方は持ってくれているだろうか。あの時のカシワニ。
「ほれ」
「ん?」
差し出された奏介の手。その中には手に入れたカシワニ。
「あげるよ」
「いいよ、あたし持ってるもん。気持ちだけ受け取っとくから、ソウが飾りなさいよ」
「そうか……」
奏介が差し出した手を引っ込める。
「ソウならどこにつけても似合うと思うよ、カシワニ」
「……こいつが似合うと言われても微妙な気持ちになる」
「ありがたく褒め言葉として受け取っときなさいな」
「んー、じゃあありがたく。どこにつけるかな?」
「携帯とか?」
「携帯はさすがに邪魔くさいだろ……」
と、その時。
近くで、ガラスの割れる音がした。
フルフェイスのヘルメットをかぶった人が1、2、3、4人。音のした方向から押し入ってくる。手にはナイフやバール、金属バット、鉄パイプ。自動ドアは割られ、足下には大小砕け散ったガラス片が散乱している。そのまま、一番手近にあったゲーム機に1人が凶器を振り降ろした。重い打撃音。それを合図に、他の仲間も片っ端からゲーム機を壊していく。
逃げまどう足音。重なる悲鳴。鳴り響く警報ブザー。
「え……」
突然のことで呆然とする梨音。その間にも、暴力の集団は近づいてくる。
「こっちだ!」
声と同時に、腕を引っ張られた。
奏介の力と声と、体温を感じた。
だけど、まだ今の状況は飲み込めない。梨音は、まるでアクション映画のワンシーンを見ているような気分で、思う。
――ソウ、なんかカッコいいじゃん。
奏介に引っ張られるがまま、梨音は非常口から外へと逃げ出す。
その一瞬、梨音は見た。
2人が飛び出すとほぼ同時、カシワニのクレーンゲームが金属バットで叩き割られる一部始終を。




