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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
4.旅立ちの歌姫
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 話は現在に戻る。つまり全ての期末テスト返却を終えた教室にて、帰りのホームルーム前。

「もう無理~~今回マジ散々やった~~」

 奏介の隣から、鈴木の魂が抜けきった声。鈴木は他の科目でも安定の低空飛行を続け、結果的に赤点科目は3教科に及んだ。夏休み中の補習は確定である。哀れ鈴木。

「確かに今回ひどいよな。何かあったか?」

「それはこっちの台詞じゃ多田ぁ! お前らいっつも俺とどっこいなはずやのに今回何でそんな成績ええんや!?」

「たまたまよ。鉛筆転がして埋めたところが偶然にも全部当たったのよ」

「そんな高精度なマグレがあってたまるか渡部ぇ!」

 鈴木のエセ関西弁が吠える。確かに鈴木の言う通り、奏介と梨音は、どちらも全教科平均して80点台の高得点を連発していた。2人にとってはこれ以上ない好記録。

 だけど、奏介は嬉しくない。勉強に打ち込むことで、大切なことから目を逸らしていたような気がして。

 この何ともいえない居心地の悪さのようなものは、奏介と梨音の間で共通しているようだった。

「はあ……これもMiXが聴けないせいかー? もう最悪……」

「あ?」

「お?」

 鈴木から発せられたMiXという単語に、目ざとく反応する2人。はっとして思わず口を塞ぐ鈴木だったが、時すでに遅し。

「奏介殿、聞いたか?」

「ああ聞いた。しかと聞いた」

「この男、まだMiXなんぞにうつつを抜かしとるようじゃぞ」

「いかん、これはいかん。綿密な取り調べの上、市中引き回しの打ち首獄門じゃな」

「ひっでぇ! お前らには血も涙もないんか!」

「そうねー。で、MiXが聴けないとは、どういう意味よ?」

 さらっと鈴木のツッコミをスルーして、いきなり本題に迫る梨音。すると、鈴木は怪訝な表情を浮かべて言った。

「何だ知らんのか? 今月発売予定だったMiXのアルバム、また延期になった」

 奏介と梨音が顔を見合わせる。

「ソウ知ってた?」

「いいや」

 最近、お互い音楽の話題には意識して触れないようにしていた。だから、最新の音楽事情には疎くなっているところがある。もともとアンチだったMiXの話ならば、なおのこと。

「もうこの際言わせてもらうと、最近のMiXはもうマジでひどい」

 大きなため息とともに、脱力した様子で鈴木は言う。

「前々から、それこそもう年明けあたりから近いうちにアルバム出しますーて言うとったのに、それでいざ発売の時期が近づいたら延期しましたー、の繰り返し。それで待たされ続けて気づいたらもう7月。それなのに、今度こそと思ってたらまた延期で……ええ加減にせえ! って話にもなるわ」

 もはや、居酒屋でくだを巻く酔っぱらいの愚痴のようだった。中途半端な関西弁が、余計にそれっぽさを演出している。

「しかし鈴木、お前そんなにMiXにハマってたか?」

「そらお前らアンチの前で話したら叩かれるからなー。ただ今回の件についてはもう辛抱ならん。ほれ、周りの人の話題もよーく聞いてみ。MiXの話題で持ちきりよ」

 鈴木の言葉に従い、周囲の会話に耳を傾けてみる2人。

「またMiXアルバム延期って……何でだ?」

「よくある話だとスランプ、とかじゃないか?」

 ある人は、延期の理由について言及する。

「もうこのままMiX消えるんじゃね?」

「そしたらアタシ生きていけない……」

 またある人は、活動終了の可能性を嘆く。

「今回成績悪いのはアルバム出さないMiXのせいだ!」

「俺もそんな気がする……なんかイライラして集中できなかった」

 別のある人は、MiXに責任転嫁する。

 どこもかしこも、MiXの話題で埋め尽くされていた。そして程度の差はあれ、ほぼ全員がMiXの現状に対しての不満をつぶやいていた。ぶつけようのない小さなネガティヴが積み重なって、狭い教室の中で膨れ上がり、渦を巻いている。

 奏介は内心後悔する。耳を傾けなきゃよかった。MiXの恨み言ばかりでうんざりだ。

 他力本願な恨み言をポイ捨てするのはやめろよ。そのエネルギーは、もっと前に向けろよ。

 ――でもそれは、自分も同じか。

 教室のドアが開いた。

「ホームルーム始めるぞー」

 教室の全員が大人しく、しかし緩慢な動作で席に着く。

 奏介と梨音は、一刻も早くこの教室から出たかった。

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