表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
4.旅立ちの歌姫
PR
70/177

 やっぱり、ここにいた。

「梨音」

 奏介が名前を呼んで、体育座りになって俯いていた梨音が顔を上げた。少し、目が赤くなっている。 

「何で……ここにいるってわかったの?」

「そりゃわかるわ。俺らどれだけのつき合いだと思ってんだ?」

 梨音がいるとしたら、機関車公園。

 奏介はすぐに察しがついて、行ってみたら予感は的中。梨音は機関車の影に隠れてうずくまっていた。

「隣、座るぞ」

「……ん」

 再び俯いて、小さく曖昧な返事。それをOKと受け取った奏介は、梨音の隣に座った。

「……あの後すぐに部長も出ていった」

「そう……」

「……頭を冷やさなきゃいけないのは俺の方かもしれない、って言って。らしくないよな」

 不意に、辺りが暗くなった。見上げると、さっきまで快晴だったはずの空が、分厚い雲に半分以上塗りつぶされていた。

「とりあえず、今日は帰ろう。夕立が来るかもしれない」

「…………ってた」

「え、何て?」

「……彼方のこと、友達だと思ってた」

 最初は、犬猿の仲にしか見えなかった2人。それが、いつの間にか一緒にいるのが当たり前な2人になっていた。

「それなのに、どうして……何も言わずにいなくなっちゃったんだろう……」

 だからこそ、今回の事態で一番打ちのめされているのが梨音なのかもしれない。

「どうして……こんなことになっちゃったのよ……!」

 梨音は奏介の肩にもたれかかった。梨音が、人の目も気にせずにさめざめと泣いている。乾いたコンクリートに、水滴の跡。

 奏介は、自分の肩に顔を埋めた梨音の頭を、そっと撫でた。普段なら、こんなことをしたら有無を言わさず振り払われるかもしれない。だけど、梨音はそのまま受け入れた。奏介の、温かい掌を求めた。

 少しずつ、梨音の涙は鳴りを潜める。すると、梨音の両手が頭を撫でる手首を優しく包んだ。

「奏介は……いなくならないでね」

「大丈夫」

 奏介は答えた。もう片方の手を、梨音の両手に添えて。

「俺は、いなくならないよ」

「……ありがとう」

 俯く隙間からわずかに見えた表情は、涙目のまま、笑っていた。触れたら、今にも砕けてしまいそうな笑顔。

 曇天の色が濃くなっている。

 もし夕立が来るのなら、梨音の涙はきれいさっぱり洗い流してほしい。

 奏介は、思った。


 ここまでが、遠野彼方がいなくなった日の話だ。

 それから、残された3人の時計の針は止まったまま、今に至る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ