表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
4.旅立ちの歌姫
69/177

「だいたいの話はもう伝わっている」

 空調の効いた部室に入ると、重々しい口調でジェロムが言った。それに合わせるかのように、室内の空気も心なしか重苦しいものになる。

「じゃあ何で止めたのよ!」

「ステイ、クール。梨音は少し、頭を冷やした方がいい」

「頭を冷やせって……じゃあどうすればいいのよ?」

「そうだな……」

 数秒の沈黙。それから、重大な決断を下す軍人のような面持ちでジェロムは言った。

「軽音部、及びジェロムズの活動を当分の間休止する」

 気持ち悪い鳥肌が立った。この一言は、さすがに効いた。

「……部長、それマジですか?」

「ウソでしょ……今……活動休止って……」

「本当だ。今決めた。どのみち彼方なしじゃ、今の俺達は活動できない。梨音はもちろん、俺達全員が一度頭を冷やすのがベターだ」

 奏介は頭を抱えてうなだれた。ジェロムは腕を組んで、それ以上何も言わなかった。そして、梨音は。

「もういい……やってらんない!」

 目の前のテーブルを蹴り飛ばしそうな勢いで立ち上がると、2人には見向きもせずに部室を出た。ジェロムは動じなかった。奏介も、動けなかった。

 虚無が、空間を支配した。どうしようもないくらいに重苦しい時間が、工業廃水のごとくどろどろに濁って流れている。夕焼けに近づきつつある窓からの西日が、なおさら空しい。

「……部長」

「……何だ?」

「活動休止、本当に今決めたんですか?」

「……どうだろうな」

 釈然としない返事。解決の糸口が見えない会話。

 こんな状況、今はどう考えたってジェロムズの、軽音部の危機だ。

 そして奏介は、どうにかしてこの状況を打破したかった。

 だったら、今「あれ」を使うしかないんじゃないか。

「俺、ロッカー開けます」

 奏介の言葉に反応して、ジェロムの動揺が垣間見えた。

「こんな状況が続くなら、今ここで使います」

「よせ、今はその時じゃない。今開けたところで、何の解決にもなりゃしないんだ」

「でも何もしないでじっとしてるなら、開けた方がましだ!」

 奏介が立ち上がる。足がロッカーに向く。

 その動作に反して、背後から掴まれた肩が力強く後ろに引っ張られた。捕まえたのは、もちろんジェロム。

「なぜ止めるんです? 鍵を渡された以上、決定権は俺にあるんじゃないんですか?」

 膠着。しかし、ジェロムの握力が徐々に弱まっていく。

「そうだな……その通りだ。開けるかどうかは、お前に任せる。その代わり、俺は出ていく」

「部長……」

「一番頭を冷やさなきゃいけないのは、俺のほうなのかもしれないな」

 静かにジェロムは手を離し、その手でドアノブを掴む。開く。その一連の仕草に、いつもの自信と力強さは感じない。

 奏介は、何か言わなきゃいけないと思った。でも、思いつかない。今、ジェロムに伝えるべき言葉は何なのか。奏介自身が、何を伝えたいのか。

「グッバーイ」

 軽い挨拶とは裏腹に、笑顔はなかった。

 ジェロムの姿がドアの向こうに消えて、重い扉は閉ざされた。

 4人が濃密な時間を過ごした場所。

 そこには今、奏介以外に誰もいない。何もない。

 結局、奏介はロッカーを開けなかった。

 そして、ジェロムもこれっきり姿を見せなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ