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「どうしてですか!? どうして彼方が急に転校になったんですか!?」
衝撃の事実を知った、ホームルームの終了後。
梨音がショックで動けなくなっていた奏介を引っ張っていくような形で、2人は職員室へと乗り込んだ。それから梨音は担任を見つけると、今にも噛みつきそうな勢いで吠えた。
「どうして、って言われてもなあ……」
担任は言葉を濁す。ジャージ姿の似合う体格のいい男性教諭。怒ったら怖いと評判の人だが、今は梨音の勢いが完全に押していた。
「俺としても突然だった上に、情報が少なくてな。逆にこっちが聞きたいくらいだ」
「情報が少ない、ってことは全くないわけじゃないんですよね? だったら見せてください! その情報全部!」
「さすがにそりゃ無理だ。個人情報の漏洩になる」
2人のやりとりを見守っていた奏介としては、とてもはらはらする。気持ちが昂ぶった人の隣にいると、不思議と冷静になるものだ。
しかし、転校の真相を知りたい。このまま黙っては引き下がれない。この気持ちは間違いなく、梨音と同じだった。
どうして、彼方は転校しなければならなかったのか。
彼方に、転校する意志はなかったはずなのに。
「何でですか! そんなの納得いかない!」
「納得いかなくても仕方ないだろ!」
と、一瞬物思いにふけっている間に2人はヒートアップしていた。徐々に職員室内の注目が集まってくる。
「梨音、ちょっと落ち着け――」
「落ち着いていられるわけないでしょ!」
宥めようとして出した手を振り払われる。もはや奏介1人では止められそうになかった。それでも、早く何とかして収拾をつけなくては。
「ヘイヘイ、ユーアーノイジー」
どこからともなく、思いがけない援軍がやってきた。野太く、はっきりと通る声。流暢な英語。姿を見なくても、誰なのかはすぐにわかった。
振り返ればそこにいたのは案の定、アフロの巨人。我らが軽音部部長、岸田ジェロム。
「取り込み中申し訳ない。こいつらをしばらく借りていっていいか?」
「ああ……そうしてもらえると助かる」
「そうか、すまんな」
担任は、ほっと胸をなで下ろした様子で快諾した。
「何すんのよ! 離しなさいよ!」
「黙ってついてこい」
耳を貸さないジェロム。梨音は抵抗むなしく、首根っこを掴まれた猫のように職員室から引きずり出された。奏介も、それに黙ってついていく。
ひとまず安堵した奏介だが、胸の奥にはまだざわざわした落ち着かない感覚が残っている。
ふとした拍子に、底なしの暗闇に落っこちてしまいそうな気分だった。




