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話は1ヶ月前に遡る。つまり、ミューサン当日。
最強のライブを大舞台で見せつけた4人は、最高に浮かれきっていた。
他のバンドの音楽を楽しみ、食べ歩き、フェスの空気を余すところなく満喫した。ジェロムに至っては、ライブハウスでたまたま出くわした外国人と意気投合。最後にはお酒を奢られそうになっていた。その現場を目撃した3人が全力で止めたのは、言うまでもない。
結局、フェスはライブハウスでの打ち上げまで楽しんで、締めくくりはもちろんカフェライナー。
「今日はいいライブ見せてもらったから奢るよ!」
という夏樹さんのお言葉に甘え、それぞれが食べたいメニューを食べたいだけもりもり食べる。食べる。食べる。
みんなここぞとばかりに皿を空け、一番ガタイのいいジェロムはもちろん、一番小柄で少食な彼方の前にも大皿が積み重なっていた。
そして、最後は終バスに乗って帰る彼方を3人で見送った。
「ありがとう。今日は……最高の1日だった」
「何言ってんだ、これが俺達ジェロムズのスタートだ!」
「そうそう、新曲も増やさないとだし、今日のライブをきっかけにライブとか音源リリースのオファーが来るかもだし!」
「急にそこまでおいしい話はないだろー?」
「何今さらちっちゃいこと言ってるのよ! 夢は大きくでしょ!」
「そうだベリオンの言う通りだ! ドリームズ・カム・トゥルー! ネバー・ギブアップ! イエス・ウィー・キャン!」
「いろいろツッコミ入れたいけどまずベリオン言うな!」
やたらとやかましい3人(主犯は2人だと奏介は主張したい)に対抗してか、「間もなく発車します」というどこまでも平坦で事務的なアナウンスが響く。
「それじゃあ彼方、また明日」
奏介の別れの言葉に、彼方はうなずいた。控えめだけど、屈託のない笑顔で。
「うん、また明日」
バスのドアが、炭酸の抜けたような音を立てて、境界線を引く。二度と開かないまま、彼方を連れていく。
最後、確かに彼方は「また明日」と言っていた。
だけど、その明日がジェロムズに訪れることはなかった。
翌日、彼方は学校を休んだ。
さらに次の日、その次の日も。彼方とはずっと連絡がつかず、学校に来る気配もなく。
そして、休み始めて4日目。帰りのホームルーム。
担任から無情な宣告が突きつけられた。
「残念なお知らせだが……遠野彼方さんは家庭の都合により、転校することになった」
ジェロムズの、終わりの始まりだった。




