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会場は、いまだジェロムズの余韻に満ちていた。
「あのバンド、なんて名前だ?」
「ザ・ジェロムズだってよ、聞いたことねえ」
「これからが楽しみだな」
会場がざわついている。彗星のごとく現れた高校生バンドの圧倒的なパフォーマンスに、誰もが驚きを隠せないらしい。もうすぐ次のバンドが始まろうとしているのに、ザ・ジェロムズは万人の想像を遙かに超えた爪痕を残したようだった。
しかし、1人だけ。周囲の浮ついた雰囲気から切り離されたような男がいた。
「……ライブの件だ。高倉に代われ」
彼はじっとステージを見据えたまま、携帯で誰かと話している。
異様な男だった。
痩身かつ長身。余計なしわのないグレーのスーツ。銀縁のメガネと切れ長の目。オールバックの黒髪。まるで存在そのものが鋭利な刃物のような男。カタギとは思えない、危険な香りのする人間だった。
「ああ、あの様子だったら大丈夫だろう。そろそろ、彼女を本格的に『復帰』させる。……ああ、そうだな。じゃあ、そろそろ切るぞ」
男が通話を切る。そして、足早に会場を出て行く。
その姿を、偶然夏樹は見かけた。
「何だろう、あの人……?」
観客の誘導を行いながら、夏樹はその異彩を放つ男の背中を見届けた。




