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4曲目『Singer』
奏介は拳を突き上げた。共鳴した観客との距離が近づく。真上に掲げられた何人もの拳。会場の一体感と熱狂を纏って。
夢のような景色。
でも、夢の終わりはまだここじゃない。
「行くぞ!」
自然と出た、マイクなしで叫んだ言葉。ギターで力強く鳴らすイントロ。自然と観客から涌き上がるコール。オイ! オイ! オイ!
彼方の歌声が加わる。魂の声だ。いわゆる言霊ってやつか。
それは奏介の腕や手のひら、指先までにも染み込んでくるようだった。
完璧だった。
コンマ1秒のタイミングで、全くの狂いもなく、音と歌声がシンクロしているこの感覚。
不思議な感覚だった。
ステージが、全部「見えて」いた。
梨音が、ジェロムが、奏介が、そして彼方が、1つの生き物のように共有している「感覚」。
自分が。ハイハットとスネアでリズムを刻み。
自分が。ベースの4弦を震わせて。
自分が。ギターの6弦で旋律を奏で。
自分が。心の底から伝えたいメッセージを、自分の言葉で歌っている。
私は、音楽が大好きだと。
彼方はきっと、音楽に愛された人間だ。
だからこそ、音楽は彼方に試練を与えた。押し寄せる名声。理不尽な要求。そして時には、容赦ない誹謗中傷。
その全てを受け入れるには、彼方という存在はあまりにも小さすぎた。だから、彼方は嘘をついた。
私は、音楽が嫌いだと。
言葉にしたところで他人に嘘はつける。だけど、自分に嘘はつけない。
そして今、彼方は受け入れた。
どんなに音楽に傷つけ翻弄されても、それでも音楽を愛して愛されたくてたまらない自分を。
ようやく、心の底に押し込んで見ない振りをしていた本音と、向かい合ったんだ。
彼方は、自分が大好きな音楽とともに輝ける場所を見つけた。
1人の『Singer』として、遠野彼方の居場所はここにあったんだ――
♪
歌声が導いた運命は
私を新世界に連れていって
だけど歌い続けた夢色の毎日は
私が私じゃなくなるようで
立ち止まったら
消えてしまいそうだったから
夢じゃなくなった夢に
私は縋り付く
ずっと歌っていた
あの頃から
わからないまま歌っていた
だけど君が教えてくれた
私が歌うことの意味を
歌声が紡いだ必然は
桜の花とともに舞い上がって
君が拾い上げた言の葉の欠片
パズルをはめ込むように
時計の針は
ずっと止まったままだったから
動き出したその瞬間に
旋律は脈を打つ
もっと歌うんだ
今ここから
素直にありのまま歌うんだ
そして君が望んでくれた
私が歌い続ける日々を
ずっと歌っていた
あの頃から
もっと歌うんだ
今ここから
♪
それは、ザ・ジェロムズにとって史上最高のライブだった。
同時に、遠野彼方にとって「最後の」ライブだった。




