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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
3.ライブハウスの歌姫
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64/177

27

 4曲目『Singer』

 奏介は拳を突き上げた。共鳴した観客との距離が近づく。真上に掲げられた何人もの拳。会場の一体感と熱狂を纏って。

 夢のような景色。

 でも、夢の終わりはまだここじゃない。

「行くぞ!」

 自然と出た、マイクなしで叫んだ言葉。ギターで力強く鳴らすイントロ。自然と観客から涌き上がるコール。オイ! オイ! オイ! 

 彼方の歌声が加わる。魂の声だ。いわゆる言霊ってやつか。

 それは奏介の腕や手のひら、指先までにも染み込んでくるようだった。

 完璧だった。

 コンマ1秒のタイミングで、全くの狂いもなく、音と歌声がシンクロしているこの感覚。

 不思議な感覚だった。

 ステージが、全部「見えて」いた。

 梨音が、ジェロムが、奏介が、そして彼方が、1つの生き物のように共有している「感覚」。

 自分が。ハイハットとスネアでリズムを刻み。

 自分が。ベースの4弦を震わせて。

 自分が。ギターの6弦で旋律を奏で。

 自分が。心の底から伝えたいメッセージを、自分の言葉で歌っている。

 私は、音楽が大好きだと。

 彼方はきっと、音楽に愛された人間だ。

 だからこそ、音楽は彼方に試練を与えた。押し寄せる名声。理不尽な要求。そして時には、容赦ない誹謗中傷。

 その全てを受け入れるには、彼方という存在はあまりにも小さすぎた。だから、彼方は嘘をついた。

 私は、音楽が嫌いだと。

 言葉にしたところで他人に嘘はつける。だけど、自分に嘘はつけない。

 そして今、彼方は受け入れた。

 どんなに音楽に傷つけ翻弄されても、それでも音楽を愛して愛されたくてたまらない自分を。

 ようやく、心の底に押し込んで見ない振りをしていた本音と、向かい合ったんだ。

 彼方は、自分が大好きな音楽とともに輝ける場所を見つけた。

 1人の『Singer』として、遠野彼方の居場所はここにあったんだ――


   ♪


 歌声が導いた運命は

 私を新世界に連れていって

 だけど歌い続けた夢色の毎日は

 私が私じゃなくなるようで


 立ち止まったら

 消えてしまいそうだったから

 夢じゃなくなった夢に

 私は縋り付く


 ずっと歌っていた

 あの頃から

 わからないまま歌っていた

 だけど君が教えてくれた

 私が歌うことの意味を


 歌声が紡いだ必然は

 桜の花とともに舞い上がって

 君が拾い上げた言の葉の欠片

 パズルをはめ込むように


 時計の針は

 ずっと止まったままだったから

 動き出したその瞬間に

 旋律は脈を打つ


 もっと歌うんだ

 今ここから

 素直にありのまま歌うんだ

 そして君が望んでくれた

 私が歌い続ける日々を


 ずっと歌っていた

 あの頃から

 もっと歌うんだ

 今ここから


   ♪


 それは、ザ・ジェロムズにとって史上最高のライブだった。


 同時に、遠野彼方にとって「最後の」ライブだった。

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