26
屋上で彼方と拝んだ太陽が、真上に差し掛かる。3人の疲労も色濃くなりつつあった合宿2日目の昼のこと。
「歌詞、できた」
彼方の口から、待ちわびた朗報。歌詞の完成を喜んだ一同は、作業を中断して彼方と歌詞の書かれたルーズリーフに群がった。
「すごく、恥ずかしい……」
と、そこで察した梨音。
「よし、部長とソウ、ステイ!」
「ん?」
「ホワイ?」
「彼方も一斉に見られるのは心の準備が必要だろうから、まずあたしがチェックする。それで手直しが必要なら指摘して、それもできたら完成形をみんなに見せる。彼方、それでどう?」
「うん。そのほうが、いい」
「まあ、それがいいって彼方が言うなら」
「うむ……一理ある。オーケー、俺は待つ」
そして、彼方と梨音が部室からログアウト。それから5分経たずに戻ってきた梨音は。
「いい……これすっごくいい! 良きかな!」
目をキラキラさせて戻ってきた。
覚悟が完了したらしい彼方の許可を得て、ジェロムが、続いて奏介が歌詞に目を通す。
「これは……」
真剣な目で歌詞を見るジェロムが唸った。
「これ、本当に彼方が作ったの?」
「そう」
「……無理してない?」
「大丈夫、素直な気持ち」
今まで、彼方は音楽を嫌っていた。音楽で心を消耗し、傷つけられていた。
だけど、今彼方が作った詞は、そんな過去との決別。そこからの、音楽への全肯定だった。
音楽を歌うことができる喜び。歌い続けることの希望。
彼方の、音楽にかける眩しいくらいにポジティヴな思いが、歌詞の中に凝縮されていた。
「……この歌詞は、絶対に形にする」
重くつぶやいたジェロムの言葉。そこには、鋼のように固い意志が宿っていた。
「これはもう、一字一句変えちゃいけねえ。このままの歌詞で彼方のハートが、一番リスナーに伝わる音楽にする。それが俺達に課せられたミッションだ!」
「そうね、あたしも異議なし!」
「俺も!」
緩やかに下降しつつあったモチベーションが、再び燃え上がる。みんなが再び今灯った炎を消すまいと持ち場に戻ろうとしたところで。
「待って」
彼方に呼び止められた。
「みんな…………ありがとう」
「何よ今さら、水くさいじゃない」
「そうだベリオンの言う通り!」
「ベリオンて言うな!」
奏介は何も言わず、自然と顔がほころんだ。すると、ぼんっ、といきなりジェロムが奏介の肩を叩いた。
「でも彼方が一番感謝したいのは、奏介だろ」
「え、俺ですか」
「本当に彼方の歌詞見た? 明らかに音楽とソウのことしか書いてないじゃない?」
「いや、でも俺はそんな――」
「奏介」
真正面で向き合った、奏介と彼方。
「私、一番感謝してる。……ありがとう」
奏介は思い出す。桜色に染まった邂逅の日を。ジェロムが彼方を無理矢理部室に連れ込んだ事件を。初めて彼方の歌と合わせた瞬間を。4人で練習に打ち込んだ日々を。オーディションの舞台を。屋上でのMV撮影を。一緒に見た朝日を。
全ては、今このステージに繋がっていた。




