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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
3.ライブハウスの歌姫
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62/177

25

 2時間後。

 踏み出した先、そこは今まさに始まる本番のステージだった。

 挨拶代わりの拍手が散発的に聞こえる。観客の姿がよく見える。ざっと10~15人といったところか。きっと次に登場する出演者を待っている人達だ。

 最前列に立つ人はおらず、全員がライブハウスの壁に沿って立つか、脇のベンチに座っている。審査員のような目で、こちらの様子を伺っている。かろうじて3人ほど真ん中に立っていた。そのうち1人はクラスメイトの鈴木。ステージに向かって大げさなくらい手を振っている。あとの2人がジェロムズを見に来てくれた人なのかどうかはわからない。

 しかし、どちらにせよやるべきことは1つ。

 このライブを、全力で演りきるだけ。

 10人だろうが100人だろうが、ここにいる全員が楽しくなるライブにする。もちろん、自分達も含めて。

 全員が、全員を見た。それぞれが、1秒に満たないアイコンタクト。それで十分だった。

 第一声。奏介のマイク越しの声が反響した。

『トップバッター、ザ・ジェロムズですどうぞよろしく!』

 奏介のギター。重なる彼方の歌。

 からの、最初の一撃。

 1曲目『Arrow』

 手加減なんていらない。全ての音が重なって生まれる音の爆発。力押しの瞬発力から、いきなりフルスロットルの疾走感。タイトルの通り、矢のように駆け抜ける。これで、停滞する空気をかき回す。どんどん渦を巻け。音の嵐を起こせ。そしてその中心に立つのは、彼方だ。

 さあ、歌を聴け!

 彼方の歌を聴いて、俺達の音楽に身を委ねて踊れ!

 今、ここでは、それこそが正義だ!

 徐々に、座って聴いていた人達が立ち上がる。その調子だ。MCを挟まず次の曲へ。

 2曲目『あの夏と僕らは』

 初期衝動をそのまま具現化したような王道ギターロックで、駆け抜けていく。1曲目の力強さと勢いをそのままに、彼方の歌声を存分に響かせる。さらに音の波を加速させながら、彼方の歌で聴き手を引きつける音楽になっている。この時点で、座っている人はいなくなった。

 その後のメンバー紹介を含めたMCに差し掛かる頃には、アウェーの空気は消えていた。

『今回、あたし達がこのステージに立てたのは応援してくださったみなさん1人1人のおかげです。ありがとうございます!』

『じゃあその感謝を気持ちを込めて、ここにいる来場者全員に俺のホットなキッスを!』

『それ罰ゲームでしょ! あたしだったら全力でお断り!』

 追い打ちをかけるように、リズム隊の2人MCがさらに会場を笑わせて盛り上げる。もはやこのライブハウスは、ジェロムズのホームグラウンドと化していた。

『次の曲は、ちょっとしっとりな感じでいきますね』

 3曲目『ナイトフライト・フリーバード』

 合宿でMVも作成した、思い出深い曲。ふわっと膨らんで、無限の広がりを見せる彼方の歌声。ライブハウスには収まりきらないくらいのスケールを感じさせる。奏介自身、隣で演奏して鳥肌が立った。ライブハウスの薄暗い空間に、星空が見える。

 きっと、奏介のボーカルだったらこうはいかない。遠野彼方というピースが最後にはまったことで、初めてこの曲の本質を開花させることができた。これはまさに、遠野彼方の歌だった。

 そして、遠野彼方のための歌は、もう一つ。

『それでは、次が最後の曲なんですけれど――』

 まだ3曲目の余韻も残る中で、奏介が語る。

『これは、俺達が今日のライブの前に合宿を決行して、その間に作った音楽です。俺と梨音とジェロムの3人で作曲して……ボーカルの彼方が詞を書きました』

 彼方が奏介の方をわずかに見て、はにかんで笑う。照れくさそうに。

『彼方、何か言いたいことある?』

 すると、彼方はただ一言だけ。

『……楽しかった。あとの気持ちは、全部歌に込める』

 彼方らしい、これ以上ない答えだと思った。

『じゃあ……最後の曲、歌いますか!』

『オーケー、レディース・アンド・ジェントルマン! ラスト、盛り上がっていくぜ!』

 ジェロムの煽りで、わっと再燃するリスナーの熱気。人数が心なしか増えている気がする。いいこと。だけど、些細なこと。

 そして、照らされたスポットライトで目がくらみそうになりながら、奏介は合宿でのワンシーンを思い出した。 

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