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それから本番までの日々もまた、あっと言う間の毎日だった。
奏介に不安はなかった。期待ばかりが、胸の中で膨らんでいった。弾丸のように過ぎ去っていった一週間。
中間テストのことが頭をよぎるようになって。バンド練習と並行にみんなで付け焼き刃のテスト勉強をこなして。いつしか制服は夏服に変わって。
ついにやってきた6月最初の日曜日。本番当日。
最初に目を覚ましたのは聴覚。けたたましく鳴り響く目覚まし時計のノイズ。音のほうへ手を伸ばす。反射的に停止ボタンを押す。
次に覚醒したのは触覚。掌で把握する目覚まし時計の位置とフォルム。肌を照らす暖かな光の熱。心地よい、お布団の感触。
そして、視覚。窓から差し込む直射日光は、目覚めたばかりの身体には眩しすぎる。それでも少しずつ慣れてきた目で時計の針を確認する。午前9時10分。ちょうどいい頃合いの時刻。
「んー……」
声にならない声を出して。布団の中でぐっと伸びをして。のそのそと上半身だけ起こしたところで、奏介は携帯の小刻みな振動に気づいた。
震えては止まり、また時間を置いて震えては止まりの繰り返し。きっと、これは携帯のメッセージ。
当日とはいえ、やけに騒がしい。集合は10時に会場のライブハウス前で、という予定だったから、まだ余裕があるはずなのに。
ぼんやりしているうちに、再び携帯が震えた。今度は規則的な振動。梨音からの電話だった。
「……もしもし」
『おはよー。いかにも寝起きって感じの声ね』
一方、電話越しの梨音の声はしゃきしゃきしている。
「……どうした?」
『ちょっと窓の外見てよ』
「は? 何? もしかしてうちに来てんの?」
『いいからいいから』
梨音に言われるがまま、奏介は視線を窓の外へ。
結果は、奏介の予想通りだった。いや、予想以上と言うべきか。
窓の外、家の前には梨音がいた。さらに、その隣には彼方も一緒に待機していた。こちらの窓に向かって手を振っている。思わず窓を開ける。
「…………何で!?」
『フェス当日だし特別感出したいじゃない? だからみんなで合流して一緒に会場まで行きましょ、って話になったの。てかもう窓開けたし電話いらないね』
ぶつっ、と携帯が切れる。
「そういうことだから、早く準備して降りてきなさいよー!」
「……事情はわかったけど、俺は誰からもそういう話は聞かされてないぞ」
「それは当然! 奏介にはシークレットにしてたからな! ちょっとしたサプライズだ!」
と、割って入ってきた声はジェロムのものだった。しかし、窓の外にジェロムの姿は見えない。
まさか、と思って振り返ると。
「グッモーニン、マイブラザー」
「……部長と兄弟になった覚えはないんですが」
いつの間にか部屋のドアが全開になっていた。そこにジェロムが気障なポーズで寄りかかっている。どうして下にいるはずの家族は彼を易々と家に上げてしまったのか。小一時間問いつめたい。
「さあ、のんびりしている暇はないぞ奏介! そうだな、せっかくだから一度言ってみたかった台詞をここで言ってみるか……40秒で支度「準備するから出てってください!」
ジェロムの台詞を最後まで聞く前に、奏介はジェロムを部屋から追放した。
「ソーリー、奏介。だが最後に1つ聞かせてくれ」
「……何ですか?」
「本当に今日はメイド服着ないのか?」
「出てけ!」




