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昼過ぎまで休みなしで、新曲製作に打ち込んだ。
冷房をガンガン効かせているはずなのに、額から汗がにじみ出た。買ってきたばかりの1・5リットルのコーラがあっと言う間に空になった。追加で買い足してもすぐに消えた。それだけ、今の4人は熱量に溢れていた。
そして、そのボルテージは最高潮へ。
最後の総仕上げ。新曲も含め、ライブで演奏予定の曲をぶっ通しで鳴らした。部室に充満する空気は、間違いなくライブハウスのそれになっていた。
約20分弱続いた、興奮と祝祭の坩堝。その中心には、彼方が自分の言葉で、歌声で紡ぎだした歌詞があった。ハンドマイクを手に、自由に歌う彼方。何にも例えることはできない。ただただひたすら最高だった。
ギター、ドラム、ベース。それぞれが奏でる奇跡の音。全てが彼方の歌に収束。彼方と共に魂の躍動。
最後の曲、最後の音が終わった時。奏介はその場で燃え尽きていた。いや、奏介だけではない。梨音も、ジェロムも、そして彼方も。全員が完全燃焼だった。
時計を見る。午後2時を少し過ぎたところ。RPGのMP切れって、もしかしたらこういう感じなのかもしれない。奏介の回らなくなった頭では、そんな思考しかできなくなっていた。
「終わったな……」
「終わりました」
「完成、したね……!」
「完成した」
完成。その一言が、再び4人にエネルギーをもたらす。それぞれの目に灯がともり、生き返る。それすなわち、達成感。
ジェロムが大きく息を吸い込んだ。
「終わったあああああああああああああああああっ!!!!」
そして、みんなの感情が爆発した。
奏介は感じた。この空気、オーディションの通過を知らされた、あの時に似ている。
あの瞬間も、同じだった。同じ部室で、同じ4人で同じような喜びを分かちあったんだ。
「終わったんだああああああああああああ!!!!」
「おわったんだ――――」
「部長は窓開けて叫ばない! 彼方もまねしちゃダメ!」
オーディションを通過した日から、まだ1週間ほどしか経っていない。さらに言えば、まだ彼方が仲間に加わったのだって、ほんの1ヶ月前のこと。
それなのに、随分と遠くまで歩いてきたような気がする。特に彼方とは、まるでもう入部当初からメンバーに加わっていたかのような、そんな錯覚を覚える。
それだけ、今となっては彼方のいる軽音部が、ジェロムズが当たり前だった。
こんな未来は、想像以上だ。音楽を嫌っていた彼方が、再び音楽を好きになって。今だってジェロムの隣で窓を開けて、あんなにも感情を表に出して、アホみたいに叫んでいる。こんな未来を、誰が想像できただろうか。
「みんな、これからどうする?」
「とりあえず俺は腹が減った! 飯だ飯! 打ち上げだ!」
「私もお腹すいた。カフェライナー行きたい」
「いいねカフェライナー! 今ならたぶん空いてるし、あたしらには上手くいけばサービスしてくれるかも!」
これからも、想像もしない未来がどんどん扉を開けて待っているような気がする。ジェロムズが次のステージに向かうための扉。ちょうどオーディションを通った時も同じようなことを考えていたかもしれない。でも、今はその時よりも確実に扉は大きく、近く見える。
「奏介、大丈夫?」
相変わらず考えごとの中にいた奏介を引き上げたのは、彼の視界の中を覗き込んできた彼方だった。
「ごめん。ちょっと疲れただけだ、大丈夫」
嘘はついていない。ただ、それは事実の半分だ。
今、奏介の心にあるのは疲労よりも、感動だ。
「ソウ、なんかニヤニヤしてて気持ち悪いんですけど」
「え、マジで?」
「気にするな奏介! 女のことを妄想してる男はいつだって気持ち悪いもんだ!」
「何勝手に決めつけてるんですか部長!?」
「梨音、奏介ってもしかして変態?」
「そりゃあもうソウはド変態よ、しかもむっつりの」
「むっつり?」
「むっつりってのはね――」
「梨音はこそこそと余計なことを吹き込むのやめろ!」
前言撤回。
疲れなんてのは、もうどこかに消えてしまった。




