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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
3.ライブハウスの歌姫
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17

 なかなか寝付けない夜だった。

 部室の床で寝るという環境のせいもあるだろう。だけど一番の原因は、きっと屋上で鳴らした音の余韻が冷めないせいだ。

 腕時計の時刻は午前4時を指している。もうあのPV撮影から8時間以上が経とうとしているのに、まだ静かな興奮が全身を駆け巡っている。

 遡ること数時間前。屋上から戻って各々トイレで着替えてから、一番張り切っていたのはジェロムだった。

「さあ今夜は寝かさんぞ! 宴だ! パーリィーだ! サタデーナイトフィーバーだ! アフロだけにな!」

 そうやって盛り上がっていたのは最初の1~2時間だったか。日付が変わる頃には、ジェロムは床に雑魚寝の形で撃沈していた。まさかの最初の犠牲者だった。

 しかも、その後がまた面倒くさかった。ジェロムのいびきが破壊的にうるさかったのである。

「部長があたしらのこと寝かせないってこういう意味だったの!?」

「ジェロム、うるさい……」

「とりあえず、何とかして止めないとな。このままじゃマジで寝れない」

 苦肉の策として、とりあえず丸めたティッシュをジェロムの鼻に詰めてみる。するとジェロムが目覚めることなくいびきが止まった上、何より絵面が最高だった。みんなで何枚も写真を撮ったのはここだけの話。

 かくして部室には平穏が訪れ、ほっとしたらしい彼方が、続いて梨音がソファーの上で眠りの中に落ちていった。

 とうとう一人だけ残った奏介は、電気を消し新聞紙を敷いた床に横になった。そして、ごく浅い眠りと覚醒を繰り返して今に至る。この調子だと、明日のコンディションに響きそうだ。

 だけど人間というのは不思議なもので、寝ようとすると全然眠れなくなってしまう。だから結局、奏介は携帯のニュースアプリを開いて暇を潰すことにした。これでさらに目が冴えるとわかっていても、つい見てしまう。ありがちな悪循環。

 幽霊のように白く光るディスプレイ。深夜だというのに、ニュースサイトには最新のトピックが並ぶ。

『北朝鮮、次回のミサイル実験中止へ』

『MiX新作、自身最速で全世界1億DL突破』

『中国、臨時政府樹立。治安安定に前進か』

『アメリカ、ロシアとの首脳会談を年内開催で調整』

 サイトのトップページには国際情勢と、時々MiX。最近は、平和的なキーワードがよく目につくようになった。

 今日も世界は回っている。戦争と平和を釣り合わせた天秤の上で。

「どうしたもんかな……」

 と、奏介がほぼ無意識的に独り言をつぶやくと。

「奏介?」

 ささやき声とともに、暗闇の中でもぞっと動く人影があった。

「彼方か?」

「うん」

「眠れない?」

「うん」

 内緒話のように交わす言葉。残りの2人は眠りの中で、それに気づく様子はない。

「ギターのことを考えてたら、寝れなくなった」

「そっか……」

 すると、彼方の影がソファーの上から縦に伸びた。窓の外は月明かりのせいか薄明るく、曖昧なシルエットが切り取られる。

「奏介、屋上に行きたい」

「今から?」

「今から」

「一緒に?」

「一緒に」

 彼方の表情は暗くてよくわからない。ただ、その屋上に行きたいという彼女の言葉には、ちょっとやそっとじゃぶれなさそうな意志を感じた。それに、彼方の手にはいつの間にかギターの影が寄り添っている。

「……ん、わかった」

 奏介は特に反対することなく了解した。ずっとここにいても眠れなさそうだし、何より誰もいない学校の屋上で眺める明け方の空は、気持ちよさそうでワクワクする。

 眠れなくてもそれなりにぼんやりした頭と身体を起こし、奏介はそっと部室のドアを開けた。


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