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それから、3人は買い出しに出たり彼方にコーラを差し入れたり弦を切ったりスティックをへし折ったりしながらも、どうにか新曲のコードとベースライン、AメロからBメロ、サビの部分まで仕上げることができた。
すっかり薄暗くなった部室の中、3人が同時に伸びをする。
「うーっし、まあまあ順調だな!」
「んー、確かにこの調子なら明日には人前に出せるくらいにはなりそうね」
「長かったような、短かったような……」
「いやいや、圧倒的に短いだろ。ところでベリオン今何時だ?」
「だからベリオ……」
いつものツッコミが入るかと思ったら、止まった。
「ねえ、今の最終下校時刻って、何時だっけ?」
「俺の記憶が正しけりゃ5時半だな」
「今、5分前なんだけど。5時25分」
3人の動きが、ぴたりと固まった。
「見回り、もうすぐ来るじゃん」
梨音の言葉で部室に緊張が走る。奏介はとっさに外を確認した。
薄暗い校庭。向かってくる人影。間違いない、それは用務員の見回り。
「校庭から来る!」
「屋上へ待避だ! とりあえず置いていけるもんは全部置いてけ!」
奏介はジェロムの指示通り携帯と財布だけ持って逃げようとして、止まった。
「彼方は……彼方はまだ外ですか?」
「そうだ、あいつまだ練習してんのか!?」
「俺、行ってきます」
奏介は、ほぼ本能に近い動きで部室を飛び出した。
階段を駆け降りる。まだギターのストロークが聞こえる。
降りると、さっきまでと同じ場所でギターを弾き続ける彼方がいた。絶対、周りなんて見えていない。
「彼方!」
その呼びかけで、ようやく彼方の演奏が止まった。きょとんとした表情で奏介を見た。
「どうしたの?」
「見回りが来た、早く逃げるぞ!」
「えっ……」
次に彼方が何か言う前に、奏介は彼方の手を掴んでいた。地面に転がる、飲みかけのペットボトル。置きっぱなしのタブ譜。でも今は気にしている場合じゃない。ギター以外は、後で取りに行けばいい。
ギターを抱えたままな彼方の手を引いて、部室棟の階段を駆け上がる。時折背後を確認する。見回りの姿はない。ただし、彼方と目が合った。思わず視線を前に戻した。
その瞬間に見た彼方の瞳は、なぜか少し楽しそうに映った。
最後の階段を上ると、ジェロムが屋上のドアを開けて待っていた。
「奏介、急げ!」
ラストスパートで、奏介と彼方は外から漏れる夜の薄明かりの中へ。
「間に合った……!」
2人が屋上に飛び出して、すぐにジェロムが音を立てないよう静かにドアを閉める。
「よし、こっちに来てしゃがめ」
ジェロムに誘導されてたどり着いた先では、すでに梨音がベースを抱えた状態でフェンスに寄りかかり座っていた。
「よかった2人とも間に合った……って手繋いでる!?」
言われて、奏介はそのことを思い出す。急に触れ合う指先の肌を意識する。とっさに引っ込めようとしたら、きゅっと彼方の握力が強くなった。逃げられない。
「あ、いや、これは……」
「不可抗力。だから問題なし」
「手を繋いだまま反論されても説得力ないんですけどー!」
「シャラーップ! 俺も言いたいことはいろいろあるが今は静かにしとけ! ここまで来てバレたらどうすんだ!?」
騒がしい会話が、屋上からトワイライトの空に溶けていいく。
それでもジェロムズの合宿作戦最大の山場は、無事誰にも見つからずに過ぎていく。部室棟に閉じこめられたジェロムズの夜は、ゆっくりと更けていった。




