18 不相応な勇気
詠唱とは、魔法を発生させるための専用言語。
その音の波長に反応した魔石から、魔力の放出が始まり、特定の作用を引き起こす。
なぜ、その言葉がその現象に繋がるのかは、当の魔法使いたちにもよくわかっていない。
またそんな言語を誰が編み出したのかも――。
「Laminus」
ブルーがまず口にしたのは、《水の顕現》と呼ばれる魔法。
大気、土壌、周囲の有機物等に含まれる水分を集積、結合して、“水”を生み出す。
「Kirama」
さらに、腰帯にはめ込まれた魔石が反応し、追加の魔力作用を発動する。
円錐状に圧縮された水は、気泡で内部が白濁し、白い槍のように見えた。
ブルーはそれを、向かい来る賊たちに投げ放った。
爆発的な破裂音とともに、斧を振りかぶった一人の胴に突き刺さる。
「がっあ!!?」
背中から突き出た水は、さらに数人の胴をまとめて貫通する。
後方におびただしい鮮血を噴射した彼らは、何に殺されたのか分からないという顔のまま息絶えた。
「やっぱり海辺はゴミだぜ……頭が痛い~……気分が悪りィ……」
この魔法の基本原理は、ウォーターカッターと同じである。
超高圧に加圧した水を、音速を越える速度で噴射すると、金属をも貫く威力になる。
しかも、朝の港町で空気に含まれる水分が多いこともあり、弾となる水はほぼ無尽蔵に生み出せる。
「俺はなァ……こういう湿度高い空気がクソ嫌いなんだよ!!」
魔法使いにとって最高の状況だった。
爆音を轟かせる白線が、賞金稼ぎたちの体を乱裂くとともに、周囲の建物も破壊していく。
「自律神経が!! ブッ壊れちまう! だろうが!!」
停泊中の漁船、道具小屋、酒場、竜舎……。
ブルーは自身の苛立ちを町全体にぶつけるように、ひたすらに切り刻んだ。
「ブルー!! 騒ぎを無駄に広げるな!」
その様子を見たゼドが命じるが、「誰の許可! 得てんだッ! ボケが!!」まるで聞こえていない。
「クソッ、あの獣……」
舌打ちとともに彼が空を見上げると、小柄な青竜が飛び去っていくところだった。
しかし、その背中にパシパエがいない。
「突っ込むな! 囲んで仕留めるぞ!」
一方、ブルーと交戦する賞金稼ぎたちに、エフェクタが廃屋の影から指示を飛ばす。
「こっちは寄せ集めの戦力だ。一人ずつ戦っても勝ち目はねえ!」
対角にある建物に隠れたオリブと目配せする。
「わかってるな~……ダーリン」
魔法使いには弱点がある。
彼らのエネルギー源である魔石は、ある一定量の魔力を放射しきると、ただの石ころになってしまう。
だから替えの魔石を杖に入れ直す。
リロードの隙が必ず生まれる。
ちょうど、轟音が止む。
エフェクタは物陰から覗き見た。
瓦礫の中に立つ上裸の少年が、腰帯のバックルを開く。
黒ずんだ魔石を排出するところを。
「今だ!」
瞬間、隠れていた賞金稼ぎたちが一斉に飛び出した。
「オラァああ――!!」
振り向いたブルーは、斬りかかってくる男の剣を半身をそらして避けた。
「あっ?」
掴んだ手首を軽くひねり、返した切っ先を、男の喉に突き刺す。
「ごぷ――」
「ッ――!?」
嫌な予感をおぼえたエフェクタが立ち止まるも、
残りの者たちは勢いそのままに突っ込んだ。
「がっ!!」
「ごはっ!」
「ああが!」
ブルーは奪った剣で、襲い来る賊たちを次々切り伏せていく。
最小限の動作で的確に急所を奪る。
明らかに、訓練された者の動きだ。
「……クソ……魔法なしでもいけるタイプかよ」
「あたりめえだろ。馬鹿が」
ブルーがこちらに振り向く。
「魔法使いへの理解が古いんだよ」
誰が指揮をしているのか勘づいたようだ。
「ハニー!!」
オリブの怒声に、我に返ったエフェクタが逃げる。
血に濡れた剣を投げ捨てたブルーが、ズボンのポケットに手を突っ込む。
新しい魔石をバックルに装填。
解放された水が襲いかかってくる。
建物の影へ、必死に走るエフェクタの前に、オリブが飛び込んでくる。
「――ダーリンッ!」
巨体で小さなエフェクタを抱きしめて庇う。――やられる。
最愛の人の鮮血を予感し、彼女が身を固くした。
その時、空から黒い鎧が割り込んだ。
射線上に、無骨な鎧の腕が、無造作に振われる。
ゴアンッ! と甲高い音を立て、高圧水が弾かれた。
傍らにあった家々が破砕し、木片が降り注いでくる。
「あァ……?」
眉をひそめるブルー。
破片と水雫の中、防御に使った腕をだらんと下げた鎧は、
反対の手で抱えていたジローとパシパエをゆっくり地に下ろした。
「ジローさん……あっあの人は」
「わかってる」
少女の決意の眼差しに、少年はただコクリとうなずく。
それから自分の持っていた杖を渡した。
「お爺さんのがあるだろうけど……もし壊れたら、二本目に使って!」
「あっ、いっ、いえ」
するとパシパエは、取り出しかけていた小杖を慌てて仕舞い、受け取る。
「こちらの杖の方が……使いやすいです。あ、つ、使いたいです!」
ジローの杖には、性能以上に、彼女の心に深く結びつく意味がある。
「そっか」ジローはうなずき、鎧とともに下がった。
「よォ……はは、あんたが家出王女か」
ブルーは、少年がターゲットから離れるのを待っていた。
「噂通り弱そうなナリだな。だが、純正“鍵の目”とやんのは初めてだ……」
フルフェイスの兜で覆われていても、その下に嬉々とした表情を浮かべていることは、パシパエにも伝わった。
いまの自分が、王国の精鋭魔法士に勝てるかはわからない。
だが、これ以上傷つく人を増やさないためには、自分が戦うしかない。
「ッ……」
周囲に散らばる賞金稼ぎたちの死体が、視界の端に入る。
反射的に、顔を背けかける。
が、踏みとどまった。
「どうして……あなた方は」
その時、湧き上がった、不条理に立ち向かう意思。
「関係の無い人たちをこうも傷つけるのですか」
怒りという後押しが彼女にそうさせた。
「あァ……?」
ブルーは兜の顎に手を当てて答える。
「関係はあるだろ。俺の邪魔をした」
なぜこの女は、そんな当たり前のことを聞くのか、という口調で。
「俺の前に立ち塞がった。奴らの意思でな」
「…………あなたを……止めます」
議論を今しても意味など無いことにはすぐ気づいた。
パシパエは眼帯をずらし、右目をあらわにする。
「いいねェ……」
ブルーにとっても、それは好感だった。すぐに応えるように両の掌を前に向ける。
その兜のスリットから紫の光がわずかに溢れる。
「Laminus…… Kirama!!」
対物水攻撃魔法、《水貫》。
極限まで細く鋭く研ぎ澄まされた高圧水が放たれる。
「Irisha!!」
迎え撃つ彼女が選択したのは《石槍》。
杖の魔石が反応し、地面上の土粒子を寄り集めて、“槍”を形成する。
『――石槍は基礎的な対物土魔法のひとつ。仕組みが単純な分、技術の差が明白に現れます』
爺やから最初に教わった魔法だった。
『あなた様の技はまだ荒い。これから私とともに、一から鍛えて参りましょう』
幼少から無意識に“目”で魔力を操っていたパシパエは、その力をコントロールする訓練として、魔法を学んできた。
『成形した槍を、的に一直線に射出する。その単純なことがあなたはまだ完璧にできていない。
だからいつも制御が効かないのです』
「まっすぐ……」
威力は拡散させない。今までのように周りに被害は及ばせない。
『ただ、真っ直ぐに飛ばす。まずは、これを覚えるのです』
「まっすぐ……!!」
反発力を解放された《石槍》が飛翔し、ブルーの《水貫》と真正面から衝突する。
高圧の水に触れた槍は――カリッと小さな音を立てて、あえなく消失した。
「あれっ――?」
呆然とするパシパエの頬を、《水貫》がかすめる。
切り飛ばされた数本の髪がはらりと肩に落ち、背後の家屋が轟音を立てて崩れた。
「……何してんだよ」
手を下ろしたブルーが、困惑した声を投げかけてくる。
パシパエの白い頬に、一筋の血が垂れる。
「どういうチョイスだ? その程度の魔法で俺に対抗できると、思ったのか? 本気で?」
「あっ、や……は……」
肯定も否定もできない。そこまで深く考えていなかった。
ただ爺やの訓練通りに、周りに被害を及ぼさないことだけに、意識を割いた。
結果として真っ直ぐ撃つことには成功した。
が、代わりに粒子の結合など他要素すべてが疎かになり、かなりお粗末な威力となってしまったようだ。
「舐めてるってこと?」
パシパエが、恥ずかしさに言い淀む一方。
ブルーは別の感情で声を荒らげ始めていた。
「いえあの、なっ、舐めているというか……わっ、わたしの……想像力がふ不足していま……」
「よく考えなくても勝てる相手だって!!!」
「あえ――??」
唐突な怒声に、肩を跳ねさせるパシパエ。
「思ってたって、ことだよなァ!!!!」
「え……え??」
凄まじい殺気が押し寄せて、「あ……」パシパエはとっさに杖を握りしめた。
クーデターの記憶。あの日向けられた数々の殺意がよぎり、
感情に支配される。
『だから言ったろう。お前では無理だ』
右目から涙と光が溢れ出しかける。
「パシパエ!」
寸前、ジローが、黒鎧とともに飛び込んできた。
「Laminus Tokarukh!!」
ブルーの手元で生成された水が、空中に薄い扇状になって放射される。
ガラスのように煌めく透明な線が、凄まじい速度で、人や家、あらゆる物を通過する。
直後、世界は真っ二つになる。
物質の均衡が破られ、音を立て崩れていく。
「相ッ変わらずむちゃくちゃだな!」
パシパエとジローは、黒鎧によって上空へ逃れていた。
スラスターでさらに飛翔し、運ばれた先には、エフェクタとオリブの姿もあった。
「無事か! 小僧! 小娘!」
灰色の巨人が駆け寄ってくる。一方、猫娘はそっぽを向き、地べたで爪を噛んでいた。
「鎧さんはこのまま町の人の救助を続けて。まだ瓦礫の下にいるはずだ」
山に続く高台から港町一帯を見回し、ジローが指示する。
『私はマスターからあなたを守るようにと』
「大丈夫。さっき見たでしょ。僕は多少の傷なら治るんだ。
どれだけ最悪に転んでも死ぬことは無い」
鎧はまだ動きたくなさそうだったが、
「それにこの役目は、君の力でしかできない」
『……承知しました』
ジローがしつこく言うと、観念したように後退り、スラスターを点火。飛び立っていく。
「お前ら……なんで戻ってきた!?」
それを見送るジローの背中に、エフェクタが怒声を張り上げる。
「さっさと逃げろ! あいつらに狙われてんだろ。なに正面から戦ってんだ!! それじゃ……」
と、続けかけて、また気まずそうに顔を背ける。
「……アタシらのやり方が気に食わないんじゃなかったのかよ」
「うん……でも、極力、誰にも死んでほしくはないから」
振り向いたジローは、性懲りも無くそう言い切った。
「お前な……」
「ガハハハ! いいぞ小僧。それでこそ男子だ」
肩の力が抜けるエフェクタ、一方、気持ちよさそうに笑うオリブ。
「よし。じゃあ、僕たちであいつを止めよう」
簡単に言って、少年はパシパエに振り向く。
「ジローさん……私っ……」
「さっきはどうして力負けしたんだろう。パシパエの魔法だって相当強いはずだよね」
冷静に尋ねてくる。
責める意図はないと分かってはいるが、その真っ直ぐすぎる目に、「すみません……」と彼女はうつむいた。
「ま、周りの物や人を、傷つけないように……頑張ってみたんですけれど……まだ上手くいかなくて」
「そっか。それで威力を抑えたんだね」
ジローは、彼女が本気を出せば核爆発並の火力を生み出せることを知っている。
個人で戦略兵器級の力がある魔法使いたちの中でも、彼女の能力は明らかに規格外だった。
「何か方法を考えないと……」
全員が沈黙したその時、『方法ならあるだろう』パシパエのみに聞こえる声がした。
「っ……」
『もっと強い魔法を使え。奴らを町ごと葬るのだ』
それは、彼女の中にいる、もう一人の声。
「…………」
「パシパエ?」
うわの空で沈黙する少女は、ジローに見つめられながら、
「わ私は……いやっ……でも……」
『あのホワイトとかいうヤツも言ってただろう。
いまのお前に、他人の命を気にするだけの強さがあるのか?』
周りを巻き込みたくない。とは言っても、それで敵を止められなければ元も子もない。
わかってはいる。
でも、
「…………っ……ダメ……」
喉が強ばる。
身体が拒否している。
他者を傷つけることは、もはや本能に刻まれた恐怖となっていた。
『だからいままでは、妾が肩代わりしていたのだろう。
妾なら上手くやれるからな』
まぶたの裏では、そんな誘いがある。
そう、“彼女”に委ねてしまえば、自分は決断しなくてもいい。
いままでそうやってきた。
自分のせいで誰かが傷ついても、
どこか、責任を転嫁できた……。
「パシパエ」
また自己嫌悪の沼に陥りかけたとき、ジローの顔が目の前にあった。
彼は大きな瞳でただ少女の目を見つめて、
「じゃあこうしよう。君はこれから全力を出す。ただし、僕と一緒にだ」
と、杖を持つパシパエの手を、包み込むように上から握った。
「もし制御が効かなくなったら、僕が杖を奪る。これなら恐くないでしょ?」
「……でも……ジロー、さん。それは……」
パシパエの近くにいるということは、最も危険な場所にいるということだ。
「じっジローさんが……」
守り切れる自信が無い。敵の魔法使いからも、自分からも。
「大丈夫。まァ……最悪、僕なら巻き込まれても、死ぬことはないからね」
ジローは性懲りも無くそう言う。
ただ、今回はもう、慰めや精神論を言われているのではないことはわかった。
「それで君が心置き無く戦えるなら」
「何が“大丈夫”だバカ!」
エフェクタがもどかしそうに口を挟む。
「なんの根拠があんだよ!」
「落ち着け。ハニー」
オリブが彼女を捕まえらる。
「ダーリンまでッ、あんなのに勝てるわけねぇだろ! 逃げりゃいいんだよ!
分不相応な戦いに挑むマヌケは、この世界じゃ真っ先に死ぬんだ!」
「まあ、そうだがな。俺たちがこやつらの生き方に口出しする権利もないだろう」
大きな手でエフェクタの小さな肩を包み込むように抱いて、言い聞かせる。
「こやつらは俺たちと同じだ」
「はぁ?? どーゆー意味だよ」
ジローは、いつだって彼の論理に従っている。
希望的観測かもしれない。しかしどれだけ滑稽で無謀に思えても、彼は、それが実現すると本気で信じているのだ。
「何者にも縛られない生き方を選んだということだ。その危険も、責任も、すべて自分で背負ってな」
実現する強さが自分になかろうと関係なく。
権利も義務も越えて、どこまでも理想を求める。
「はたから見ればマヌケかもしれんが、突き詰めればそれもまた気骨となりうる」
オリブはそう言ってニヤリと笑い、「いいぞ小僧!」とジローの背中を豪快にぶっ叩いた。
「いッだあ!! なんで叩くの!!」
「気合いを入れたのだ! お前はこれから、とんでもないイバラの道に突っ込んでいくのだからな!」
「…………もう知らねえよ」
そういうノリに入られたことで拗ねたのか、エフェクタはもう言い返すことなくそっぽを向く。「……ありがとう」ジローはふたりに、気兼ねなく笑った。
「…………わかり、ました」
パシパエはようやく自分の意思で、うなずく事ができた。
「よし」
ジローの手の体温が伝わると、不思議と身体の強ばりが抜ける。
この人といると、自分もなんだってできる気がしてくる。
なんの根拠もないが……
故郷で独りだったあの日、誰かにかけてほしかった言葉を、
差し伸べてほしかった手を、この人はいとも簡単に、くれるのだ。
だからこそ……
『お前に守り切れるのか?』
すぐ耳元には囁く声がある。
「ジローさん……これから……もしかしたら……私の振る舞いや言葉遣いが下品になってしまうかもしれません。ごめんなさい」
ジローは目を丸くしたが、すぐに「わかった!」とうなずいた。
「ふぅ……」
だからこそ、可能なかぎり自分の意思と力で、彼の期待に応えたいと思う。
※
「遅えじゃねえか……」
港町はほとんどの建物が倒壊し、廃墟同然と化していた。
そんな中、瓦礫を踏み越えて、全身血にまみれたブルーが姿を現す。
彼は戻ってきたパシパエと、その傍らに添い立つジロー見ると、
「何をしてんだ王女……そんな足手まとい退けて、本気でやれ!! 全力で来い!!」
また怒声を張り上げた。
「あっ、足手まとい、なんかじゃ、ありませんッ!」
今度は、パシパエも引かずに否定した。
「ジローさんは、私の……」
と続けようとして、言葉を失う。
「あ……や……」白い肌を紅くして、口をパクパクさせた後、
「ジローさんは足手まといなんかじゃ!!」
「そー言ってくれるのはめちゃありがたいんだけどパシパエ! 前見て前!」
隣のジローに肩を叩かれ我に返る。ブルーの手元には、既に“水”が生成されている。
「あ――――」
迎え撃つため、少女も自然に詠唱を選択した。
「Yatabuts Vaimeats」
瞬間、ジローの手にも振動が伝わった。
「うわっ……」
杖の先にはめ込まれた石から“光”が溢れる。それと共に熱気が発して、手の中にじんわり汗がはる。
光は、見えない“力”となって、ふたりの周囲にある瓦礫や小石を独りでに浮き上がらせた。
さらにパシパエは、力を収束させ、それらの物体を頭上に集める。
「すごい……」
大小さまざまな破片たちがないまぜになって渦巻く。
改めて真近で体感する魔法にジローが目を奪われている間、「まっすぐ……まっすぐ」パシパエは力の方向にひたすら集中していた。
次の瞬間、力場を解放する。
瓦礫片たちは無数の弾丸となって射出され、
魔法を発動したブルーへと一直線に殺到した。
「ッ――」
凄まじい土煙と轟音が、町中に響き渡り、地面が揺れた。
彼がいた地点は、まるで削岩機で掘られたように大きく陥没していた。
「お――」
間一髪で空中に飛び退いていたブルーは、「オイオイやればできるじゃねえか!!」嬉々として振り向く。
「――Laminus!」
間髪入れず、再び詠唱を張り上げる。
「……いいねパシパエ! さっき言ったシュチュエーションを作るんだ!」
「はい!」
空中の敵に、パシパエも照準を定め直す。
隣で杖を握るジローの体温を感じて、震えは既に止まっていた。
先ほどより、少しだけ気兼ねない気分でもう一度、
「Yatabuts――」
少女はその言葉を唱えた。




