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アンダー・アース 終末姉弟死線記  作者: 遁遁拍子
第2章 黒界・日本
31/37

18 狂淑女討伐

 数分前。


「うあ……あ……!! なんなのよっ!」


 黒鎧(ベルムヘロス)によって、数十メートルの上空まで飛び上がったアキラは、真っ逆さまに落下しながらなんとか体勢を整えようとしていた。


『それは……マー……の推……装置!』


 ヘルメットの通信越しに、ノイズ混じりのベスの声が聞こえる。『……先に……って! あと……私達も…………』次第にノイズは激しくなり、黒鎧が再び森に入ると同時に、途切れてしまった。

 幾つもの木々を破砕させながら、地面に降り立ったアキラは、周囲の被害に対して自身の体にまったくダメージを感じないことにまず驚いた。


『マスター、目的地をご命令ください』


 電子音声が耳元で響く。たしかベスがサポートAIとか言っていた。


「……えっと…………あの黒煙が昇ってる場所に行きたい」

『周囲の環境から最短ルートを設定します』


 視界に投影されるディスプレイ上で周囲のマップが作成される。


「べつにこんなことしなくても普通に……」

『ルート設定完了』

「ちょっと、待っ……おい!!」


 全身に配置されたスラスターが勝手に噴射を始める。黒鎧は再び凄まじいスピードで跳躍した。


 そのまま一気に滑空し、さらに数度の噴射を使って加速。わずか数十秒で、黒煙の下に到着する。

 そこは少し開けた場所で、黒焦げた機体の残骸が転がっていた。

 アキラが先ほどまでいた残骸のもう片割れ。どうやら爆発したのはこれらしい。


「うぅ……」


 すぐ側でうめき声が聞こえて、装甲のボロボロになった兵士が木陰にうずくまっていた。

 そしてその背後に、あのトカゲ型の異獣が迫っている。


 痛みと出血で朦朧とした意識の中、兵士は自らに覆い被さってくる巨体を見上げ、死を覚悟した。

 だが直後、その巨体は突如飛来した“黒い塊”によって弾き飛ばされていた。


「何があったの?」


 勢いのまま木の幹に激突し、アキラはなんとか黒鎧を停止させた。「ク……グ……」絶命したトカゲの頭から銃剣を引き抜き、兵士に駆け寄る。


「なんだ……」


 謎の黒鎧に抱きかかえられた兵士は、困惑とともになぜか強烈な安堵を感じていた。


「ほかの仲間は?」


 温かみのある声音が尋ねる。


「…………三人っ……死んだ」


 兵士はもうろうとした意識で答えた。


「……そこのもう一人は……まだ生きてる」

「そう、わかった……」

「アンタは……誰なんだ……もう援軍が来たのか」


 アキラは彼と近くに倒れていたもう一人の生存者を抱えて、機体の残骸の中に運び込んだ。


「ここなら異獣にも見つからないわ。グレンとベスも……仲間もすぐに到着する」

「殺ったのは魔法使いだ……女の…………。早く奴を追ってくれ。隊長と……少年が、まだ逃げてる」

「…………」

「大丈夫だ。俺はここで耐えられる。行ってくれ」


 兵士は悔しげに後押しする。アキラはうなずいて、残骸から出た。

 教えてもらった方角へ急ぐ。


 その先で目撃したのは、弟が豪勢なドレス姿のケバ女に拘束され、今にも変態的行為に及ぼうとしている光景。


「……は?」


 幾人もの命を吸ったであろう血まみれた鎖が目に入り…………彼女の理性は一瞬にして吹き飛んだ。


「何してんだ……クソババアッ!」


 息荒く背負っていた銃剣を抜き放ち、鎖の魔法使い――ドロメタスに向かう。


「…………はぁああ??」


 突如現れた漆黒の鎧。その強大な力を目の当たりにしてなお、ドロメタスの感情は、危機感よりも不快感が上回った。


「いきなりなんですかあなたは?

 どこの誰か知りませんが、初対面の相手に失礼ですわよ」


 鎖で拘束したジローを傍らに保持したまま、金の眼をひん剥いて言い返す。

 侮辱には全身全霊をもって対処するのが貴族家に生まれた彼女の流儀だった。

「うっぐあ……!」締め付けが強くなり、ジローの悲鳴が漏れる。


「……いいから、放せよ……」


 アキラは静かに銃剣を構えた。甲冑的なシルエットをした黒鎧の内側で、人工筋肉がミシミシと振動する。


「は?」

「そいつは……私の弟(わたしの)だッ!!」


 アキラの高い身体能力が、黒界最新鋭のパワードスーツでさらに増幅された結果。

 その踏み込みは地面を大きく陥没させた。

 舞い上がった砂粒が落下を始めるよりも速く、敵に肉薄する。瞬間的に反応した鎖の迎撃を、紙一重かわし、ジローの拘束鎖を切り刻んだ。


「なッ――」


 ドロメタスが再びアキラを捉えたのは、彼女が鎖の攻撃範囲外に離脱し、弟を地に下ろした後だった。


「……あなた……」


 そのスピードに驚愕しながら、数秒遅れで理解する。


「……そう、あなたが……白騎士(ホワイト)を倒しかけた魔人。姉の方ですわね」

「……あ? マジンだ?」

「人と魔物の狭間(はざま)にある者…………それが二人ともここに……。

 これは燃えてきますわぁ」


 口元に喜色を浮かべたドロメタスは杖を構える。先端に淡い光が集まっていく。


「何が面白えんだよ」


 そう言うアキラの脳裏には鎖に貫き殺された兵士たちの姿が浮かぶ。

腹の底からグツリとくぐもった音がした。


「ジロー、離れてろ」

「うん……」


 ジローは、まだ見慣れない姉の黒鎧姿に困惑しながらうなずく。

「ねえ……アキラ。ホントに大丈夫?」姉の表情は、無機質なヘルメットに隠れて伺えない。


「……あんたが思ってるよりは平気よ」


 ただ、ヘルメットには二つのセンサーがあり、穏やかな瞳のようにジローを見つめ返した。

 その声音は想像よりも気楽なものだった。付きものが落ちたような雰囲気に、少し安心する。

 ジローがカイダの元へ行ったのを見送ると、アキラは再び攻撃態勢をとった。


Rinetuリネツmekatitarメカチタル Katinai(カティナイ)


 ドロメタスの詠唱に応じ、杖から放射された魔力が、周囲の物質に干渉を始める。

 土粒子を構成する鉱物たち。それら結晶を高密度に再結合させ、生成された8本の鎖が地面から這い出てきた。


「アンヘルは私のモノですわ。返してもらいますわよ」


 《植鎖》はここからさらに、発動者の意思に同期した力場を鎖の節ごとに付与し、伸縮・方向転換などの可動を行う。

 鎖たちの切先がアキラに狙いを定める。


「少しは理解できること喋れよ。ババア」

「小娘が……そう呼ぶのはおよしなさい!!」


 甲高い唸りを上げ、一斉射出する。

 瞬間、アキラは走り出した。


 まず、巻き添えを避ける――。

 ジローたちが逃げた方とは逆方向へ。襲い来る鎖たちを木の裏に滑り込んで回避する。

 鎖は、アキラの隠れた周囲を手当たり次第に破壊してくるので、そのまま足を止めず、撒き散る枝や木くずの中を駆け抜けた。


「6、7……」


 走りながら銃剣のフィンガーレバーを操作し、薬室に弾を装填。


「……8本」


 すべての鎖を避けた――と確認した瞬間、木の影から顔を出し、スラグ弾を撃ち込む。

 ギイイン!

 金属音が響き、ドロメタスの足元から伸びた2本の鎖が防御していた。


「そこですか」

「チッ……!」


 すぐさま回避行動へ。木々の間をぬって狙いを撹乱する。

 だがアキラが逃げた先に、さらに別の鎖が回り込んでくる。


「ッ――」


 とっさに近くの木の根元を銃剣で斬り飛ばす。太い幹が轟音を上げながら倒れ、無数の鋭利な鎖に貫かれて、バラバラに砕かれた。


「あっはははははは!!」


 ドロメタスはなおも絶えず制圧射撃を続けてくる。


「まさかこんな上物に出会えるなんてッ……!! 最高の気持ちですわぁ!!」


 一本一本が生きているかのような鎖たちは、障害物もものともせず、正確無比にアキラだけを追尾する。

 彼女の反射神経と、黒鎧の機動力をもってしても避けるのが精一杯だった。


「クッソが……ッ」


 こうなると近づく隙がない。

 不意打ちの射撃も防がれるとなると、もはや捨て身で突進するくらいしか思いつかない。

 鎧の耐久力は未知数。兵士たちのアーマーをいとも簡単に破壊したアレを、果たして何発耐えられるか……。


『――アキラ! 聞こえる!?』


 と思った時、ノイズ混じりの声が入ってきた。


「ジロー――?」

『そいつは確実に、全員で倒そう、いったん退却して!』


「こっちだよ~!」走行音がして、ジローたちが逃げた方向から無骨なバギーが疾走してくる。


「お~いっ!」


 荷台から朱色のアーマー、ベスが手を振っていた。運転しているのはグレン。ジローとカイダ、他に負傷した二人の兵士も乗っているようだ。


「おい、アーマー……! さっきの飛ぶヤツ!」

『イエッサー』


 主人の号令により、黒鎧(ベルムヘロス)の全身各所に配された小型ノズルが青白い光を点火する。

 不可視の反発力によって、アキラはブワリと宙に跳ね飛ばされ、一気に木の影から離脱した。


「それは……?」


 不可解な挙動に眉をひそめるドロメタス。すかさず鎖たちが追撃してくるが、空中噴射で身をひるがえして避け、そのまま攻撃圏外に逃げ切る。

 バギーの荷台に勢いよく着地した。


「おわっ!」


 ゴズン、と重い音がして、車体が大きく沈み込む。

「ぷはっ……!」ヘルメットを解除して、アキラは息を吐く。


「おいっ、急に落ちてくんなよ! 怪我人もいんだよ」


 グレンが運転席から怒鳴った。「このままいって!」ジローが荷台にしがみつきながら叫ぶ。

 バギーはひび割れた道路を走り抜け、草木の中に佇む古びた建物の前にやって来た。


「ここは……」

「指令所だ。僕たち、ここを目指してたんだ」

「あの魔法使い、すぐに追ってくるよ」

「わかってるよ!」


 グレンはそのまま門をくぐってバギーを建物の前に停める。


「迎撃って……どうやってやんのよ」

「弟くんに策アリだって」


 黒鎧を駆動させ地面に降りるアキラ。ベスは折れていない方の手をジローの肩に置いた。

「ムン」自信ありげにうなずく。


「まあ策と言えるほどのモノでもないんだけど……」

「……ここは……」


 一方バギーの荷台では、カイダが目を覚ましていた。


「隊長。よかった、気分はどうですか?」

「グレン……」


 カイダは上体を起こし、負傷した腹と砕かれた右足の状態を確かめた。


「まだ寝ててくださいよ。あなたも重傷だ」

「……」


 止血措置はされている。車上からの射撃くらいなら、まだできる。

 彼の隣には、二人の部下が寝ていた。


「エリックと……ベンか……他の三人は」

「…………」

「そうか」


 自分の選択にケジメを付けなければならない。カイダは脇にあった小銃に手をかけた。


「奴らに報いを受けさせる。」

「……はい」


 同じく決意した様子のグレンは、運転席から出て、荷台に積んだ武器を降ろしに行く。

 アキラたちの元へ、大量の武器類をガチャガチャと持ってきた。


「なあ、どれを使う?」

「そんなにいらないよ~。邪魔でしょ?」

「えっ……」

「そのアーマーにはどれくらい慣れた?」


 ジローは装甲を着込んで少し背が高くなった姉に尋ねる。


「どのくらいって……」


 アキラは黒鎧を見下ろし、


「まだあんまり……コイツパワーはすごいけど……細かい動きはやりづらいっていうか……」

「つまりまだ動きはぎこちない?」

「まあ……これ何の確認?」

「早く策を教えろよ。もう時間はねえぞ」


 余分な武器を片付けたグレンがもはや当然のようにジローに指示をあおぐ。

 アキラ、ベスが向き直る。銃を杖代わりに、荷台から降りたカイダも、黙って彼を見つめた。


「うん。じゃあ、作戦はこうだ」

 

 それから数十秒後。

 ドロメタスが、発令所の門をくぐり中庭に入ってきた。


「どこにいったのかしらー?」


『準備完了だ』


 各員がそれぞれの配置に着き、アキラは建物の影から様子を伺っていた。


「ぼうや。なぜ私が貴方を求めているのか……教えてさしあげますわ」


 雑草が伸び放題の地面を踏みしめ、開けた中庭の中心に立つ。


(わたくし)、17歳のとき、弟を殺したんです……」


 急に衝撃的な事を言いながら辺りを見渡していると、発令所の屋上で青白い光が発する。

 黒鎧があの奇妙な推進機(スラスター)で跳躍し、飛び出してきた。


「……もちろん故意ではありませんでしたよ!!」


 すかさず2本の鎖を放つドロメタス。「くっ……!」黒鎧はそれを噴射でなんとか躱し、両手に持ったグレネードランチャーを撃つ。


「ただ遊んでいたら…………」


 炸裂したのは煙幕弾。中庭は一瞬にして白い煙に包まれ、ドロメタスの視界を奪う。


「……………遊んでいたら、壊れてしまったんです………」


 静寂の中、彼女の呟きだけがむなしく響いた。

 直後、どこかで銃声が轟く。

 反響音で位置が絞れない。だが、彼女の足元から生じた鎖は正確無比に動き、弾丸を防いだ。

 さらに別方向から銃声。これも防ぐ。


「……私は……()()()()()()()()()()()()姿がどうしようもなく好き。

 平民、兵士、貴族、奴隷……たくさん試してきましたわ。でも、結局この欲求を満たそうとする時、最後には必ず、相手を壊してしまうんです……」


 魔力には、《生物や物質の状態を変化させる》以外にも数種類の作用が確認されている。

 《物体にかかる運動法則を書き換える》のもそのひとつ。鎖はこの魔力作用が生み出す力場によって縦横無尽に可動していた。


「でも……仕方ないですわよね? これが私の生きる意味そのものなのだから」


 魔法の発動中、力場はドロメタスの意識と繋がっており、彼女が“危険”を感じた瞬間、自動で反応して迎撃する。


『クソッ……やっぱり防がれる!』

「いいから撃ち続けろ!」


 物陰から小銃を構えたカイダは、グレンに(げき)を飛ばす。

 『あの“鎖”の厄介な点は制圧力と防御力だ』先程のジローの言葉を思い返す。


『人間を軽々吹き飛ばす威力。それを連射できて、アキラの攻撃や、近距離の爆発、発射された銃弾もガードする反応速度がある。

 攻防に隙がない。ただ、完全無敵じゃない』


 アキラは銃声響く中庭を、息を潜めて移動した。


『生やせる本数に限度がある』


 ドロメタスの様子を観察する。いま出している鎖は、カイダとグレンの銃撃を防御している4本。


『モール屋上では8本だった。さっきのアキラとの戦闘でも同じ数。おそらくそれが奴にとって、安心出来る範囲の(・・・・・・・・)最大攻撃本数なんだ。

 つまり、防御するための数本は常に残している。実際、さっきのアキラの不意打ちは追加で生やした2本で防がれた』

『じゃあ……同時に生やせるのは10本?』

『いや、もう少し多く……11~5本程度だと見積もっておこう。

 その鎖をぜんぶ出し切った時。やつは完全な無防備になる』


 ジローが立てた作戦は極めて単純。

 こちらの物量で絶え間なく攻撃し、むこうの鎖を使い切らせる。


『あいつを丸裸にしてやろう』


「どこからでもいいですわよ……隠れているおふたりも」


 煙幕の中、攻撃の機会を伺うアキラとベスの存在。既に奇襲は読まれている。

 だが、


「っ……!?」


 突如として、ドロメタスの体が背後から締め上げられた。

 煙幕に隠れ忍び寄っていた黒い鎧が現れた。

 鎖が反応しなかった――。


『縦横無尽に動く鎖をすべて自分で操作しているというのは現実的じゃない。

 処理を減らすためにある程度は自動化してるはず。たとえば、“危険物”や “一定スピード以上で迫る物体”は自動で迎撃する、とか』


 黒鎧はなんの武器も持たず、ゆっくりと近づいてきた。案の定……鎖の迎撃対象には引っかからなかった。

 全身の人工筋肉が唸る。凄まじい腕力でドロメタス本体を羽交い締めにし、その動きを封じる。


「くっ……!」


 自力で抜け出すのは困難。杖に魔力を込め、追加の鎖を放つ。

 だが、足元から伸びた2本の鎖の切っ先は、鎧の脇腹に突立つのみで、貫通することはなかった。

 近すぎる。切っ先が最高速に達するまでの距離が足りず、威力が出ない。


『これで6本』


 黒鎧はそのままドロメタスの首に腕を回し、絞め上げようとしてくる。危険を察知した2本鎖が腕に巻きついて、それを阻止。

 だが《ベルムヘロス》の桁違いの出力は、鎖に巻かれてなおミシミシと首を絞め上げようとする。


「がっあ……!」


 たまらずさらに2本の鎖を追加し、なんとか再度腕の引き剥がしを試みる。


『4本追加……計10本!』


 カイダとグレンの射撃も続行されている。装甲を着込んだアキラと違い、ドロメタスの纏うドレスに防弾性能などはない。

 故に鎖は防御し続けるしかない。


「あっはは……これは……」

 

 笑顔がひきつりかけていた。

 この黒界人たち、《植鎖》の弱点を見抜いている。

 このままではまずい。

 なんとか抜け出そうともがく彼女の視線の先に、ダメ押しのように、朱色のアーマーが現れた。


「ハーイ。お姉さん」


 負傷した片腕を胴体に括り付けたベスが肉薄してくる。

 自動迎撃に入った11本目を、最小限身を逸らすのみで躱し、手斧を振りかぶった。

 だが、まだ。そこに12本目の鎖が待ち構えていた。ベスの攻撃に合わせてカウンターを食らわせる――。


「ッ――?」


 ――既にそこに彼女の姿はなかった。持ち主を失った斧だけが、空中で鎖に弾かれる。

 ベスは振り抜く動作のまま斧を手放すと、同時に身をかがめ、拳銃を抜きながら、ドロメタスの懐に潜りこんでいた。


「人の命を(もてあそ)ばないと生きられないなら――」


 銃口の硬く冷たい感触が、顎下に突きつけられる。


「大人しく死になよ」


 乾いた銃声が中庭の空気をつんざいた。


 ほどなく煙が晴れ、雑草だらけの地面に、オレンジ色の循環液が数滴、垂れた。

 次いで、硝煙をたなびかせた自動拳銃が転がり落ちる。頭上から伸びた鎖がベスの腕を貫いていた。


「残念ながら、あなたの理解は求めていませんわ」


 最初に避けた鎖が戻ってきたのだ。

 頬にかすり傷をつけたドロメタスが恍惚(こうこつ)としたため息をつく。


「私の方が……強いもの……」

「……アンタみたいなのが世界を滅ぼすんだねー……」


 腕を押さえ、一歩後ずさったベスがため息をつく。


「……策は尽きたようですわね」


 ドロメタスはそのまま、自分の前後にいる朱色と漆黒のアーマーを鎖で釣り上げ、カイダたちの銃撃の射線に割り込ませた。


「まずいッ――」


 そして銃撃の防御に回していた鎖で、煙が晴れ居場所のあらわになった射撃手に攻撃する。


「逃げろ!」

「クソッ――」


 発令所二階のカイダと、中庭の物置小屋に隠れていたグレンが、それぞれ回避行動をとる。

 しかし鎖は追尾する。とても逃げきれない。この場にはもう、彼らをカバーする人員は残っていない。


「そろそろ終わりましょうか」


 ドロメタスが、この場にいる全員の息の根を確実に止めんと、枯れ木のような杖を振りかざした。


「いま、追加しなかった」


 その時。鎖に縛られた黒鎧が、話しかけてきた。


「13本目はなかったね」

「ん……?」


 ドロメタスは振り向いて、ふとその声に違和感を覚える。

 まさか――。

 ヘルメットを引き剥がすと、現れたのは猫目の少女……ではなく、少年(ジロー)だった。


「あぁ……」


 あの日の(アンヘル)と同じくらいの年齢。

 ドロメタスの瞳に、歓喜が宿る。


 手を伸ばした。

 そう、彼こそがやっと見つけた、どんなに愛し合っても壊れない――――私の“光”。


「これで、丸裸だ」


 手を払い除け、少年は言い放つ。

 正門のそばにある電柱の頂上から人影が降りてくる。

 無骨な銃剣を振りかざして、


「ふッ――!」


 アキラの渾身の一閃が、ドロメタスの腕を杖ごと斬り飛ばした。

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