五月 『GW五日目―クルミちゃんにはご用心―』
キャラの性格、口調が変わっている場合がございます。
書き方を変更しました。自分なりに読みやすくしてみました。
「ねえ、倉ノ下君。これからデートしに行かない?」
今日…GW最終日である五月六日は、クルミのこの一言で始まった。
いつもの朝食中、クルミが最初に口にしたのがこの台詞だった。クルミは特に恥ずかしながら言うわけでもなく、まるで当然のようにデートの誘いをしたのだ。慣れているのかな。
だが、優は当然誘いを断る。
「悪いけど、行けない」
「え~? なんで~? ボクからの誘いを断るとか、一生償っても償いきれない罪だよ?」
変な罪を被されたなと、優は訝しげな顔をする。
「…で、どうしてデートなんか行こうと思ったの?」
優が尋ねると、クルミはよくぞ聞いてくれたとばかりに、背中から自分のスマホを取り出した。
マジシャンかな?
「これを見よ! ババッ!」
クルミが効果音を言ってくれたので効果音は省かせてもらおう。
彼女のスマホの画面が優の目の前に現れる。優はそこに書いてある文字を見て目を見開いた。
スマホの画面タッチしてなかったはず…どうやってこの画面を…? まさか……マジシャンかな?
「あのショッピングモールで全品ポイント五倍…しかも対象の商品は最大で三割引き…だと…!?」
本当はそっちに驚いていたわけで。というかこれは来いと言ってるようなもんじゃないか。
「そういうわけだからさ~ボクの服とか選ぶの手伝ってよ~。あ、倉ノ下君が行きたいところも回るからさ」
「こ…これは……で、でも!」
「何か問題がある?」
「そりゃあ…人多いし、友達と遭遇してしまうかもしれないし」
前回篠崎姉妹と行った時は、みんなと会っちゃったからね……それは一生御免だよ?
「いいじゃん別に! 人多いだろうけど、そこは目をつぶってさ!」
「理由になってない…」
「ポイント五倍!」
「うっ…でも…」
「三割引き!」
「くっ…くそぉ……」
「ボクというスタイル抜群の美女付きぃ!」
「あ、それは別にあってもなくてもいいけど、まあ…行くよ」
「ヤッタネ。アハハ…」
モデルのクルミには、大ダメージだったようだ。
出発の準備が整うまで、クルミのテンションがいつもより下がっていたことは言うまでもない。
◇ ◇ ◇
再び訪れることになるとは…このショッピングモールに。
その大きな建築物を見上げれば、篠崎姉妹と一緒に行った時の情景が浮かんでくる。今日はあの時より駐車場が混雑している。当然のことだろう。みんな優たちと同じ目的なのだろうから。
優とクルミは自転車をこいでやってきた。駐輪場も混雑していたが、ぎりぎり空いているところを見つけてそこに停めることができた。もうちょっと遅く来ていたら駐輪場に足を運ぶことすらままならなかっただろう。
自動ドアを通って店内に入れば、外の暑さをかき消してくれるほど、涼しかった。それに、前回よりも更に声や物音で騒がしく、響いていた。
「よーし、回るぞー!」
「どれくらいの店回るの?」
クルミはまたも背中からスマホを取り出し……かばんに入れてないのか。マジシャンかな?
「この店とこの店とこの店とこの店とこの店と…」
「あーうん三階の店から寄ろうか」
◇ ◇ ◇
現在、エスカレーターで上昇中。
と、今思えば、僕たちは傍から見れば一組のカップルに見えるのだろう。それに隣にいる方は現役の若手モデルだ。前回と同じくらいの視線を向けられていたのは、このショッピングモールの中央広場に差し掛かったときにわかった。その時はたくさんの人に囲まれて「クルミちゃーん!」とか「サインください!」だとかいろいろな声が上がって息苦しくなって地味に「彼氏さん?」とか聞かれたり憎悪の視線を向けられたりおめでとうコールがあがったり……大変だった。というかもうヘトヘトになった。
右を見れば、疲れている僕に対して彼女は慣れているのか、ピンッピンしてるからちょっと尊敬したり。いや僕の朝の一言なんて忘れたようにうれしがってる。
「う、うれしそうだね…」
「そりゃあね! こんなに人気があるんだよ! ちょーうれしーに決まってるじゃーん!」
「僕のことも考えてくだちい」
「ごめんごめん! あと『くだちい』ってなんなのもう! 笑わせないでよ!」
「へー」
笑わせないでよとか言いつつ実際は笑ってないという、彼女の矛盾はどうかと思う。
それにしても緊張感というものが全くない。これってクルミからしたらデートなんだろうけど、僕はいつもと全く同じでよくわかんない。女子と二人っきりっていう、年頃の男子には嫌悪の目をされそうな場面だっていうのに、そんな気持ちは湧いてこない。
◇ ◇ ◇
午前中の彼女の買い物では何事もなく、唯普通に済ませただけだったので、省かせてもらう。
というわけで、太陽が蒼天の真上に差し掛かった頃。二人は二階のフードコートに足を踏み入れていた。
「ごっはん~♪ どこっにしっよおっかな~」
そんなテンションアゲアゲの声が右耳に入ってくる。昼食の時間だ。
「ねえねえ倉ノ下君。どこがいい?」
クルミは実に浮かれた様子で尋ねてくる。
「う~ん、僕はす〇家でいいよ」
「おっ! いいチョイスだね~! じゃあボクもそれにするよ~!」
というわけで牛丼(並)を二つ買いました。
二人用の席が空いていたので、そこに腰を下ろした。と、一瞬で周りから視線を集めてしまった。
あの、全身に寒気を感じるので、やめてもらえませんか。
などと言えるわけもなく、唯ここに来てしまった後悔をするだけだった。
まず、この席が駄目だった。なぜなら、この二人席は、フードコートの食事エリアの、一番中央の席だったからだ。そこしか空いてなかったというのもあるんだけど、もう少し待ってからのほうがよかったかもしれない。
そして、事件は起きた。
「倉ノ下君」
「ん?」
クルミに名前を呼ばれ、反射的に顔を上げたのが、運の尽きだった。
「ほら、取ってあげる」
「ぁ…」
クルミの柔らかい指先が、そっと僕の頬に触れる。そして、離れた。よく見れば、僕の頬に触れた指先に、米粒のようなものが――
「はむ」
その米粒のような……否、米粒を彼女は自分の口の中に入れた。
「「「「……て、えええええええぇぇぇぇぁぁぁぁあああああ!!??」」」」
優を含む、事の成り行きを見守っていた人たちが、一斉に驚きの混じった叫びをあげた。
「倉ノ下君、ボクの萌えイベントどう? ボクからのお礼、受け取ってくれた?」
最後に、そんな柔らかい響きの声がしたかと思うと、僕の視界は黒く染まった。
あ、別に気を失ったとかそういうのじゃなくて、周りの人の声で埋め尽くされたって意味で。
◇ ◇ ◇
「はぁ…なんでこんなことに…」
「て感じだよね~」
「共感する前に反省してよ」
現在午後一時過ぎ。場所は一階分降りて、地上一階。
クルミファンからは、どうにか逃げることができたようだ。それでも優とクルミは疲れた身体を癒すこともなく次の店へと足を動かしていた。優は「帰ろう」と言ったのだが、クルミはもうちょっと楽しみたいとか言って続けることになった。本当は課題をしたくないだけの彼女の現実逃避なのだが。
今向かっている店は、普通に本屋だ。どちらが提案したかはいうまでもない。
「倉ノ下君って本好きだよね~」
歩いている途中に話題を挙げたのはクルミの方だった。
「好きなのかは僕にもよくわからないところはあるけど、なんでそう断言できたの?」
「そりゃ、一年生もだったけど、三年でまた一緒になってからもずっと一人で本読んでるじゃん」
「……え? え? …え?」
優は、クルミが口にした内容を飲み込むことができずに困惑したままだ。
「ん? ボク変なこと言った?」
「一年のとき、同じだったって?」
「そうだよ? …ま、」
クルミはだんだんと分かり始め、その明るい表情を曇らせていく。
「…まさか、認識してなかったり、する?」
「ごめん認識してなかった」
「まあでも、倉ノ下君はもともとボクのことも全く知らなかったから無理もないか~」
呆れた、と言うかと思いきや、あっさりと受け流した。優の扱いに慣れてきた証拠だ。
「というかよく覚えてたね」
「そりゃあね。朝も業間も昼休みも下校時間までもずっと一人で本読んでるから、変な人だなって覚えてたよ」
「なんかごめん」
「…いいよ。それで、さっきの昼食のどうだっ――」
「おーやっと本屋についたーよし入ろー」
あのね、されたこっちの身にもなってほしいんだよね。クルミからしたらデートなのかもしれないけど、僕は唯の買い物なんだ……なんて言わないほうがよさそう。
優はそのまま本屋に突入した。
さっきの昼食のやつ…クルミは一体どういう頭であんな台詞を口にしたんだろう。
『倉ノ下君、ボクの萌えイベントどう?』
『ボクからのお礼、受け取ってくれた?』
燃えイベントってなんだ…? 火でも使うイベントなのかな? でも、どうって言われた状態で火とか使ってなかったしなぁ~……あとお礼もよくわかんないなぁ。軽蔑と歓喜と痛々しい視線ならいっぱい貰ったけど…まさか、クルミってSなのかっ!? そうなると…だめだ。この先どうやって過ごしていいのか……
優の頭の中では、クルミの台詞と、優の世間知らずのせいで大きな勘違いを生み出していた。
「倉ノ下君?」
急に足を止めて考え事をしていた優を不思議に思ったのか、元凶の美少女が首をかしげていた。
「ひゃいっ!?」
優は、思わず拍子抜けな声を上げてしまった。
「ど、どうしたのいきなり変な声出して。様子が変だよ? 顔色もおかしいし」
「いやぁ全然平気、大丈夫、これっぽっちも悪くないぃよぉお? ううん心配しないでいいよぉぉ」
「大丈夫じゃないよね声裏返ってるよ絶対おかしいね」
だめだ…クルミをSと認識してしまってから急に顔を合わせ辛くなった…。いやいや、クルミがSなわけないでしょ…たぶん。この人はマジシャンってことでいいでしょ、うん。大丈夫大丈夫。
優は深呼吸を一つつくと、冷静を取り戻したように顔色がいつもの色に戻った。
「本当に大丈夫だから、心配御無用!」
「ほんとにぃ?」
「さあ今日はどうしようかなライトノベルにしようかなそれともレシピにしようかな」
「あ、いつもの倉ノ下君だ」
これは…よかったと思うべきだろう。さて、本を選びますか。
◇ ◇ ◇
で、今は倉ノ下家。午後四時半。
実は、あの後本屋から出たらマスコミ? みたいなのが何人か集まってたから、即行帰ることにした。今回の買い物はこれで幕を閉じた。
そんなわけで、今はクルミと一緒に課題をしている最中である。
「倉ノ下君…これを見よ! ババッ!」
「マジシャンかな? …っと、なになに?」
朝と同じくだりでクルミの掌に映るものを見て、優は目を見開…かなかった。
「そういうわけで次の土曜にまた二人で――」
「無理」
「最後まで聞いてよ~!」
「無理」
「だってU〇Jのペアチケット当たるん――」
「無理」
「…………」
「無理」
今までの人生で、人の頼みをこんなにも拒絶したのは、これが初めてだったかもしれない。
投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。




