五月 『GW四日目―忍びと王様(※なんの関係もありません)―』
いつも長いので、量をいつもの四分の一ほど削減しました。
朝。ぱっと目が覚めた。
「あれ、熟睡して…って!?」
ベッドの上で仰向けの姿勢から横に九〇度転がると、目の前に天使…じゃなくて昨日からこの家に泊まっている美少女の顔があった。人は変わったけどデジャヴった。
起きているようで、彼女の瞳はしっかりと僕の顔をとらえている。
「えへへぇ~。昨日忍び込んで横になったら寝ちゃってたんだ~」
鼻が当たりそうな至近距離で見つめ合っているのに、お互い動揺のかけらを見せない。
「自分から言うんだね。それよりなんでここに来たの? 忍び」
「そりゃあ、写メ撮って思い出を残すためだよ~」
クルミは手にスマホを持っている。
いや、思い出って…。
「…公開したりするはずないよね? 昨日このこと秘密にする約束したよね? ね?」
「そんなに疑わないでよぉ…信用してるって言ったじゃん。それを裏切るような真似はしないって」
それよりなにか……あ。
「ねえ、クルミのテンションが昨日のままっぽいのは気のせいかな?」
「そうだね…寝れば止むと思ってたんだけどね」
クルミは仰向けになり、天井に向かってスマホをかざした。
「なんだろね…昨日の倉ノ下君が作った夜ご飯がおいしかったからかな? お風呂に四人で入ったからかな? それとも、今倉ノ下君とこうして話してるからかな?」
「とにかく、僕は着替え――っ!?」
優が起き上がろうとすると、クルミはそれを阻止して顔をすぐ近くに寄せ、同時にカメラのシャッター音が鳴った。
「やった! いいの撮れたかも」
クルミはスマホで撮った写真を見てうれしがっている様子。…っておい。
「ちょっと見せて」
「いいよ」
優はクルミからスマホを受け取り、その画面を指で右にスクロールした。ただし一回だけではなく、数回だ。
「クルミ、撮りすぎ」
「そうかな? 倉ノ下君の寝顔可愛かったからついつい撮っちゃったのかも」
「本人の了承得てないから消すよ」
優はゴミ箱のマークをタップしてすぐに五枚とも消した。
「ええ!? ちょ! 返してっ!」
彼女に強引に取り返されたスマホには、さっき撮った写真が写っている。
「まず、昨日は一緒に寝ないって約束してたのに、勝手に入ってきたことも許してないよ?」
優はクルミを鋭い目で見つめる。
「ひぇっ! ちょっと怖いよぉ~」
「それから…」
僕は上半身を起こして、彼女をビシッと指差した。
「なんでもいいから服を着ろぉ!!」
つっこむのが遅くなったが、彼女は下着姿だったのだ。これ普通の男子なら絶対ヤバい方行ってたと想像がつく。
「いいじゃーん、今ちょっと暑いし」
「僕の前で下着姿でいたことに驚い…たのはさっきだったけどね」
「それにモデルやってたらこんなのあまり気にしなくなっちゃったし~」
「こんなの、ってねえ…」
と、クルミと未だベッドの上で話していると、嫌な予感がした。
「クルミ、これを着てっ」
優は近くに掛けていたパーカーをさっと取り、彼女に渡した。
「う、うん」
そして、クルミがパーカーを羽織ったと同時に部屋の扉が開かれた。
「優君ちょっとい…って、ええ!?」
驚きながら部屋に入ったのはすみれだった。
うわぁ~間一髪だった。…いや、安心するのはまだ早い。そもそもこの状況がやばいし、なんたって相手は…
「なんで伊万里がそこで寝ているの!?」
すみれだからだ…って、ん? 聞き間違いじゃないよね?
「伊万里? そこにいるのか?」
優とクルミは、すみれが指差すほうをベッドの上からのぞき込むと、床に布団を敷いてすやすや眠っている第二の忍びがいたことに気付いた。
「い、いたんだ」
気付かなかった。いや、存在感が薄いってわけじゃなくて、下見てなかっただけだから。
「それに、なんでクルミちゃんまで…」
「朝から大変だね~倉ノ下君」
「ちょ、え?」
酷くない? なんで僕に振ってくる?
「そんなことなら私も行けばよかったよ」
すみれは少々明るめのトーンで口にした。
いや、そんな軽々と言われても、僕困るんだけど…。
「伊万里は寝てるみたいだから、そっとしておこうよ」
「そうだね」
「もう起きてるわよ」
「ひいぃ!」
「…亡くなった人が起き上がったときみたいな反応されると、案外悲しくなるものね」
体験談かな? …体験談かな? おっといけないいけない。今はそれよりも…
「みんな早く――」
「二人とも、幽霊を見たときのような目で見ないでくれるかしら?」
やっぱ体験談なんだよねそうなんだよね!?
「はぁ…それにしても優とクルミのいちゃいちゃしてるところを全部聞かせてもらったけど…」
「あら~」
「”一瞬だけ”殺意が湧いたのだけれど、抑えておいたから感謝なさい」
一瞬だけを強調しないでくれるかな? なんだか怖い。伊万里さん怖い。助けてすみれさん。
「え? 優君それって一体…」
「ストップストップ! …伊万里だって勝手に部屋に侵入してるじゃないか! 部屋のドアに鍵取り付けるよ!?」
「ふぅ…」
優は一息つき、額の汗をぬぐった。
「まさか本当に取り付けるなんて…」
「優君すごい…」
「あぁ…これじゃあ夜這いができなくなる…」
「これからクルミが住むから鍵が増えるかもしれない…」
「あぁ…なんてことかしら…お風呂にまで付けられたらもう…」
「なんでそんなに絶望したような顔してるのかわかりたくないよ…」
優は肩をすくめた。
…本見てそれ通りに取り付けてみたら結構簡単、かつ綺麗に鍵を取り付けることができた。この本あったら家中リフォーム可能らしい。…どこぞのポケットのような本ですな。
「そういえば、鍵はどうするの?」
「残念だったね…鍵の在処は秘密なんだ」
「チッ…」
「ねえ今誰が舌打ちついたの!?」
…という感じで、今は午前十時。実は、僕が起きたときの時刻は午前七時で、あの後説明やらなんやらしまくってから四人で朝食を食べ、僕はずっと鍵を取り付ける作業をしていた。どうやってそんなに早く(早いと思う)鍵を取り付けられたのかは、この本にしか書いてないから説明できない。
「そうだ、伊万里は今日で家に帰るんだよね。それで、何時頃帰る予定?」
「…え~と、午後三時頃かしら?」
…すっげー微妙。
「わかった。すみれは?」
「私はお昼前に帰るよ~」
となると、昼ご飯は三人か。
「…クルミ、『え? ボクは?』みたいな顔で見るのやめてくれるかな」
「え? ボクは?」
「…うん。そだね」
時は十時三〇分。リビングにて、四人で遊べるものがないか話していると、すみれがこんな提案をした。
「優君もいるんだし、王様ゲームしない?」
その前置きにはどんな意味が…。
「いいね! ボクは賛成だよっ!」
「私もやってみたいわ」
…それより、王様ゲームって何? なんでみんな知ってるの?
「え? 優君、もしかして王様ゲームも知らないの?」
いや、だから僕の心読むの上手過ぎるんじゃないかな? 心臓に悪いよ。
「王様ゲームはね、簡単に言うと、ランダムに決まった王様が出した命令を、ランダムに決まった参加者が行うっていう遊びだよ。ちなみにウ〇キペデ〇ア参照」
「あ、うん。説明ありがとう」
ウィ〇ペ〇ィアさんありがとうございます。
「人数は四人だけど…いいよね」
「じゃあ早速、くじ作ろ――」
「はい完成~」
…なに今の。台詞を最後まで言う前に作り終えちゃったよ、この人。
「なら、始めようか」
「せ~の…」
「「王様だ~れだ!」」
「…お、王様だ~れだ…」
そんな掛け声あるんだね。
「あ、ボクだ!」
僕は三番か……て、え? 早速ヤバい人が王様になっちゃったし!
「さ~て、どうしようかな~?」
クルミは不敵な笑みを浮かべて、僕たち三人を見渡した。
「よ~し、決めたっ!」
三人の、唾をゴクンと飲み込む音が重なった。…期待するほど大きい訳じゃないよ。…え? 期待してない? またまたそんなぁ~…さ、王様ゲーム王様ゲーム。
「一番と三番の人が、ツーショット写真を撮る!」
いきなり来た~…って、当たるのは三分の一だけどね。さて、どっちと撮ることになるんだろ…。
と、クルミはちらっと僕を見た。
「へぇ~ずいぶんと簡単なものにしたわね」
「ただぁ~し! 恋人のように見えるために、二人ともめっちゃ近くに寄り添うこと!」
今僕が当たったこと気付いてわざと言ったのか!? そうだよね!? …それに、王様ゲームってこういうゲームなのか? すごく怖いんだけど。
「さあ、誰だ?」
「私一番」
「僕三番」
初っ端からすみれと恋人(仮)写真撮るんだね。はい。
すみれを見ると、顔を赤くして動揺しまくっている。
優ははぁ…と立ち上がり、クルミに確認する。
「クルミのスマホで撮られるとやっぱり心配だから、僕のスマホでいいかな?」
予めカメラアプリを開いておいたスマホをクルミに差し出す。
「全然構わないよ~。はい、どうも」
「どこで撮るの?」
「じゃあ、そこに並んで」
「了解」
「ほら~もっと寄って、すみれ」
「う、うん」
「二人とも手を繋いでよ~。それと二人ともお互いの顔を近づけて」
「ええ~?」
まるでモデルの撮影現場みたい……行ったことないけど。
「すみれ、相手は王様だ。従わないとなにされるかわかんないよ」
「わかってるけど…手ぇ繋ぐのは…」
すみれは顔を真っ赤に染めてうつむいた。
すみれのこんな顔初めて見たかも。
「ほらっ」
優はすみれの手を握り、次に彼女の顔のすぐ隣に自分の顔を近づけた。
「わっ」
「数秒の辛抱だって」
「うん、そうだね」
「いいねー! その笑顔! お二人さん、もう付き合っちゃえば? じゃ、撮るよー! ロウ、チーズ!」
なんじゃいその掛け声は。highの逆はlowってことかな? いや、英語だと「Say cheese!」で撮るからね? …ロウソクでできたチーズが頭の中に浮かんだよ。
「いちゃいちゃしてるところを静かに眺めてる私の気持ちも考えてほしいわね…」
「王様の命令だからしょうがないと思うんだけど…」
「「王様だ~れだ!」」
みんな一斉に引いたくじを見つめる。
「僕でした」
三人の視線が僕に集中した。なんかすごい期待されてないっぽい。
「じゃ、よろしく」
あ、なんかごめんね? …てか、させたいものがない…どうしようか…あ!
「え~と、一番と二番の人がじゃんけんをして、勝ったほうは負けたほうの課題を全部するってのは?」
「鬼畜だぁ~!」
「勝ったら課題の量アップって、逆じゃないかしら!?」
「二人とも動揺してるってことは、クルミちゃんと伊万里が一番と二番なんだね」
あ、さっきと逆じゃないか。
「ぜ、全部ぅ!?」
「ちなみにクルミ、残ってる量はどれくらいかしら? 私は理科と漢字よ」
「え? え~と…理科のプリント一枚以外、終わってないよ? …い、いぇい☆」
…
……
…………へ?
「う、嘘、よね…そんな、もし勝ったら、私…あああ…」
伊万里は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
それを全部やろうと思うと僕はいいけど伊万里は…。
「い、伊万里…さすがにヤバいと思うからせめて半分にしておくよ」
「私にとって半分も同じようなもんだわ…」
「さ、じゃんけんじゃんけん!」
「すみれ、あんたねえ…」
「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
じゃんけんの結果、こうなった。
「うるさいぞ…」
じゃんけんに負けた人物の前で悶絶する彼女を見ながら、優は両耳を押さえて言った。
「どうしよう…どうしよう…!」
「残念だったね…」
「ボクは一体…どうすればよいのじゃー!」
言わなくてもわかると思うけれど、じゃんけんに勝ったのはクルミだった。
「つまり…クルミは六教科分課題が残ってると」
「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ふふふ…やったわ! 負けたわよ!」
その台詞だけ聞くと勝てばいいのか負ければいいのかわからなくなってくるな。
「くっ…どうせなら全部のままにしておいたほうがよかったわね…」
「負けたらクルミと同じリアクションとるくせに…あ、勝ったらか」
「ま、そういうことで理科頼むわね」
「ボクは…あと二日で六教科分終わらせないといけないのか…」
お疲れ様です。
「クルミちゃん、優君がいるから大丈夫だよ」
すみれ、その信頼っぷりは一体どこからやってくるんだ…。
「「王様だ~れだ!」」
「やったあ! 私が王様ね」
今回はすみれか。提案した本人だから怖いなあ。
「じゃあ…三番が二番のほっぺにキス!」
ほらやっぱりい! …て、僕一番だった。てことは…
「ええ…? ちょ…」
「ちょ、すみれ、あんたそれは無いわよ…」
クルミと伊万里は全身をガタガタ震わせている。そりゃそうなるわな。
「僕は、向こう見ておくから、勝手にやってくれ…」
優は机にくじを置いて、体の向きを真後ろに変えた。その判断がまずかった。
すみれは何かを思いついたように、立ち上がると、誰もが驚く行動をした。
優は三〇秒ほど待って、向き直ることにした。
「そろそろいい――」
そう言いながら体ごと回転させると、目の前に目をつむっているすみれの顔があった。
僕の唇に触れるのは避けたが、もう遅かった。
すみれの唇が僕の頬に触れるのを回避することができなかった。
彼女の柔らかい唇の感触が、優の頬へと触れて――
「ん……」
一瞬、僕の頭の中は真っ白になった。
「あわわわわ…」
「きゃー…すごいわね」
それを近からず遠からずの位置から見ていたクルミと伊万里が、顔を赤くしている。
「ん…」
すみれは目を開けて、自分の唇を触れながら後ずさった。
「すみれ…? どうして、君が、僕に…」
優は、彼女の唇が触れた頬に手を当てながら、動揺を隠せないでいる。
「ふふ…次は、ちゃんとキスしようね」
すみれは、上目遣いで僕だけに聞こえるような小声でそう言った。
「……」
彼女はにっこりと笑顔を見せると、立ち上がった。
「さて、十一時になったことだし、私は帰るね」
「え? ちょ、待っ…」
優はすみれを止めようと手を伸ばすと、すみれは荷物を持って歩き始めた。
「優君、伊万里、クルミちゃん、また学校でね」
「…う、うん、ばいばい」
「ばいばーい」
すみれは廊下に出るドアの前に立つと、振り向かずに口を開いた。
「優君、ごめん」
すみれはそれだけ言うと、ドアを開いてそのまま家を去ってしまった。
――彼女が作ってしまった居心地の悪い雰囲気を置いて。
ご愛読感謝します。
友達と接していると、こんなことになってしまうときもある。それはとても変え難いものです。
急な展開になりましたが…次回もお楽しみに!




