五月 『GW三日目―あの日の夢の意味―』
伊万里は顔を上げ、上目遣いで言った。
「ふふ…優、ちょっとやってみたいことがあるの」
「どうしたの? 突然抱き着いて」
伊万里の髪からのシャンプーの香りが、僕の鼻を擽る。
「私、男子と二人きりで過ごしたことなんてないからさ、優の隣で寝たいの」
「なんでそういうことになるの? ベッドも洗濯したシーツを使ってるし衛生的には問題ないし、そんなことする必要なんてないと思うけど」
彼女の目的は依然として謎のままだが、僕は話を聞いてみることにする。
「そりゃ…年頃の女子は、そんな考えをする人も出てくるよ。私みたいにね」
え? でもすみれやノアはそんなことしないよ? 機会がないだけなのかどうかは知らないけど。
「それに、優だからこそってのもあるの。今もだけど、私が抱き着いても動揺のかけらも見せなかったじゃない? 優はそういうことに鈍感なのか興味ないのかわからないけれど…それだからやってみたいの」
伊万里が言おうとしていることはまだ分からない。けれど…
「やっぱりだめだよ。僕たちはまだ中三なんだし、伊万里が本当に好きになった男性とその時に寝ればいいじゃん。僕はそういうのどうでもいいけど、この部屋で一緒に寝るんだからいいでしょ、それで」
彼女は口を尖らせた。
「わかってないなぁ…」
「わかるわけないじゃないか。ちょっと離れて」
僕は伊万里の手をほどいた後に立ち上がり、ラノベを取り出すために本棚に近づいた。
「優は優しいから、今言ったことも受け入れてくれると思ってたんだけど…けじめがついてるんだね」
けじめなのかな?
「まず伊万里とこの部屋で一緒に寝ようとしてる時点で限度に近いんだよ? でも…」
僕はラノベを取り出すと、再び布団の上に腰を下ろした。そして、正面に座る伊万里を見る。
「でも、今の伊万里と話してるとなんだか楽しくって…悪くないなとは思ったんだ」
「じゃあ…!」
「そうだね、自分でも矛盾してると思ってる。でも、もし…ふわぁ…」
そろそろ眠たくなってきた。ラノベ読んでから寝ようと思ったのに。
「…優、眠たいなら寝ていいよ。私が無理言って悪かったね。ごめん」
「いや…謝らなくてもいいけど」
なんか、とてつもなく眠い。これ程の眠気は久しぶりに感じる。
「優、私は布団のほうがいいから、ベッドで寝てよ」
「え? でも…」
「いいから、こっちのほうがぐっすり眠れるでしょ? よいしょっと」
彼女は僕をベッドで寝るように無理やり動かした。
僕は眠気を抑えることができず、ベッドに入り込んで眠りについてしまった。
優しい。頭が良い。容姿も悪くない。
私は今、ベッドに背もたれをしている。ベッドの上には、夢のような才能を持つ人物がいる。彼は仰向けの姿勢で上から毛布をかけて寝ている。
「あ、眼鏡」
私はその人の眼鏡をそっと手に取り、目覚まし時計の隣に置いた。
女子からしたら隼も悪くないけれど、身近にもこんな恋のターゲットになるような人がいることがわかったら、みんなどうするんだろう。なんでこういうこと考えるんだろう…寂しいのかな。…でも、彼がそうなのだと、すみれやノアは知ってたようだし…どういうことなんだろう。
伊万里は立ち上がって優を見る。
隣で寝ると、なにかわかるかもしれないというのは、ただの勘だろうけど、やってみる価値はありそう。ごめん、優。勝手にしちゃって。でも…気になるから――
少女は『僕』の机の前で立ち止まった。
『僕』はシャーペンを動かす手を止め、顔を上げた。
「…どういうことなの? あんたは、なんで私に…」
少女は顎に手をあて、考える仕草をとった。
周りを見ると、教室にいるすべての男子生徒たちが『僕』たちを見ていた。…いや、少女を見ていた。
「そうね…私と勉強、どっちが大切なの?」
なんともいえない質問だった。
「ふーん…ま、いいわ。私には関係ないし」
少女は背を向け、そのままてくてく教室の外へ歩いていった。
男子生徒たちの視線は、少女が教室から出るまでその少女に向けられたままで、まるで、その少女はこの学校のお姫様のようだった。
僕は目が覚め、仰向けの体を横向きに倒した。と――
「…ん? …い、伊万里っ!?」
目の前に伊万里の顔があった。
今の僕の声で起こしてしまったようだ。
「…あ、おはよう、優君」
「いや、おはようじゃなくて! ――ってあれ?」
僕はある異変に気付き、上半身を起こしてから右手で頭を押さえた。
まさか…これは…。
「…どうしたのぉ? そんな顔し…あ」
伊万里も何かに気付いたのだろうか。…いや、今は!
「夢の内容を…覚えてる…のか?」
そう。先ほど見た変な女子生徒の夢がまだ頭の中に残っていたのだ。
新品のノートを…早く! 忘れないうちに!
僕はすぐにベッドから離れて、自分の勉強机から新品のノートを取り出した。
「さっきの夢は…なんだったの?」
伊万里は小さい声でつぶやいたが、その台詞は僕の耳がしっかり捉えていた。
もしかして、伊万里もさっきの夢を見たのか?
「ええと、たしか……よし、書けた」
「どうしたの? 優」
「伊万里、朝食食べよう」
「え? あ、うん」
僕と伊万里は、それぞれ別の部屋で着替えてから、朝の手入れを済ませ、朝食を食べる準備にとりかかった。今日の朝食は食パンとイチゴジャム、アップルジュースという、とても簡単なものにした。
準備が完了してから、二人で合掌を済ませ、食べ始める。
「ねえ、優。朝、一体なにを書いていたの?」
伊万里は食パンにイチゴジャムをつけながら優に尋ねた。
「ああ、えっとね、さっき見た夢の内容を書いてたんだ」
「夢? どんな夢なの?」
彼女は眉を寄せてさらに質問を重ねた。
「どこだかわからない教室で、一人のお姫様のような女子生徒に話しかけられる夢」
「…どうしてそんな夢をノートに書く必要があるの?」
「それはちょっと、言えない」
伊万里はジャムを付け終わったらしく、残りのジャムが入った瓶を僕の目の前に置いた。
「そう…。…実は、私もそれに似た夢を見たの」
「それは…さっき、なんだったの? って言ってたやつのこと?」
僕はジャムを食パンに塗りながら確認する。
「たぶんそうだね」
恐る恐る聞いてみる。
「…どんな夢だったか、教えてくれる?」
「いいよ。優になら、教えてあげる。それは――」
――それは、まず高校が舞台だったの。それで、私は誰かの目線からその景色を眺めていたの。
『私』は女子生徒だった。学校の校門を潜り抜け、昇降口に向かって歩いていると、周りの男子生徒が皆『私』を見ていた。様子から察するに、『私』はこの学校一の美女で、彼らは私の虜になってた、というわけ。それはいつものことらしく、『私』は当然のように男子生徒の視線を集めながら、教室まで歩いていたの。
すると、『私』が教室に入る直前で、一人の男子生徒が目に入った。その男子生徒は『私』の横を通ったのにもかかわらず、『私』に見向きもせず、そのまま隣の教室に入っていった。だから、『私』は教室にかばんを置いてから、隣の教室に行って、その男子生徒を探した。そして、勉強しているところを見つけて、彼のところまで、歩き始めたところで――
「――私は夢から覚めたの。…おーい? 聞いてる?」
「あ、ごめん。それが…今の話、恐ろしいことに僕が見た夢とつながったから…びっくりした」
今、僕の心臓がどくどく鳴っているのがよく聞こえる。なぜだろう。
「え? 本当に? なんだか変だね、それ」
朝食を食べ終え、歯磨きなどを済ませた後に、僕たちはリビングのソファに腰を下ろして話していた。
「ええと、さっきの話を違う見方でまとめると、伊万里が見た夢の後に僕が見た夢がつながった、ってことだね。もしそうなら…」
「う~んと…一人で納得しないでもらえる? 私は全く分からないんだけど」
「僕も情報量がまだ少ないからわかんないし説明もできないよ」
「一体なんなの…?」
「僕も早く知りたい。でも、ありがとう、伊万里。君のおかげで、あの日の夢の意味が少しわかったよ」
そこで伊万里は、はっ、と何かを思い出したような顔をした。
「優、ごめん、勝手に隣で寝ちゃって」
「もう終わったことだからいいよ。ま、でもやっぱりこれからはやめてほしいな」
「うん、わかった。ありがとう」
改めて。今日は五月五日、GWの三日目だ。
朝見た夢はいつもと違って、起きてから僕の頭の中に残ったままだった。そのため、ノートに書いて、忘れないようにした。もし、これから今日みたいな日があったら、そのノートに書き写す。
今日はその夢のことをずっと考えていて、昼になりそうなところで一つだけ思い出したことがあった。それは、以前にすみれが栗花落中に転入した日のことだ。あの時、すみれが口にした話の中で、すみれはある夢を見たと言っていた。彼女はその内容を覚えているけど、その詳細は少ししか聞いたことが無い。それについて、妙な点がある。それは、すみれがその夢を見た日は四月の第二土曜日、四月十四日。そして、僕がある三つの夢を見たのがその次の土曜日、四月二十一日。ってあれ? なんで夢を三つ見たことは覚えてるんだ…? とまあ、そのことは今は置いておこう。そして、次の土曜日。その日は僕とノアと千穂理の三人でショッピングモールへ行った。その日はノアは寝坊をした、と言っていた。しかもショッピングモールには僕の友達が(すみれを除いて)全員いた。それで、次の土曜日の今日、五月五日。伊万里が見た夢とつながる夢を見た。
これは…単なる偶然とは思えないようなことだ。どういうことだろう。…でも、今考えても仕方のないことかもしれないから、今からできることを探してみよう。
最初は、ノアの話を聞いてみることにした。
私のスマホに一通の電話がかかってきた。相手は優君。緊張する。
「もしもし、優君? どうしたの?」
『あ、ノア。ちょっと話があるんだけど、午後空いてる?』
優君からの誘い!? うれしい! なんて言えない…。
「え? 話? …い、いきなりどうしたの? まあ、一応…午後は空いてるけど」
『それと、二人きりで話したいから、千穂理は連れてこないでね」
自分の顔が赤くなってることが自分でもわかる。
「ふ、二人きり…? いいけど…」
『ありがとう! なら森林喫茶に集合でいい?』
「うん、わかった。集合時間は…」
『じゃあ一時半集合でいいかな?』
一時半は空いてる。
「いいよ。じゃ、また後で」
『うん、また後で』
プツッ。
「ふぅ…」
緊張から解けて、自然とため息が漏れた。
「お姉ちゃん、今誰と会話してたの? もしかして倉ノ下優?」
「ちっ、千穂…? そ、そんなわけないでしょ! クラスの友達だよ、友達」
千穂理は顎に手を当て、考えるような仕草をした。
「はは~ん…やっぱお兄ちゃんなんだね?」
「ち、違うって言ってるでしょ! もうっ…!」
「お姉ちゃん顔真っ赤だよ~? お兄ちゃん来ないかな~」
千穂理はスキップをしてその場を離れた。
「一体、なんの話なんだろう…」
「ほら、やっぱお兄ちゃんじゃん」
声がした方向を見ると、千穂が顔を半分だけ出してことらを見ていた。
「もうっ! あっち行ってて!」
「…なんてことにならなければいいけどなあ」
もう遅い。そう聞こえた気がしたけど、気のせいだろう。
「どうしたの? チャーハン冷めちゃうよ」
伊万里は不思議そうな顔をして優を見た。
「え? あ、いやなんでもない」
優はそう言うと、スプーンを持ってチャーハンをすくい、口の中に入れた。
午後一時半。彼女は指定された通りの時間に森林喫茶に来た。ちなみに僕は五分前にこの店に入っていた。
「一週間ぶりくらいだね」
「うん…先週の土曜日から会ってないから…ちょうど一週間ぶりだね」
僕が最初に声をかけると、ノアは笑顔で席に座った。
「それで、早速本題に入るけど…」
「あ、待って。アイスココア頼んでいいかな?」
「あ、うん。いいよ」
「お待たせいたしました」
ノアの目の前にアイスココアが置かれた。
「ありがとうございます」
「…それじゃあ、本題に入るよ。先週の土曜日、それこそ三人でショッピングモールに行った日のことで気になることがあったんだ」
「気になること?」
ノアはきょとん、と首をかしげた。
「ノア、あの日寝坊したでしょ?」
「うん…忘れてほしいんだけど…」
「ごめん。で、その時見た夢、覚えてない?」
「ゆ、夢? あ…うん、お、覚えてるよ。結構印象的だったから」
「本当!? できれば…その夢の内容を教えてくれないかな?」
僕もその日になにかしらの夢を見ているはずだから、ノアの話を聞けば思い出すかもしれない。
「う~ん…ま、いっか」
「ありがとう…」
「そ、そんなに大事なの? 短かったけど――」
――まず、場所は幅の狭い川を沿った道から始まって、その夢では赤みがかった髪をした『私』がその道を歩いてて、水がとても澄んでいてきれいだったから、川を見ながら歩いてたら、足を石にひっかけて転んでしまったの。それで膝を擦りむいて――
「――そこで夢から覚めたの。あまり上手く説明できなくてごめん…優君?」
「そうか…思い出した。ありがとう、ノア」
「え? あ、役に立てたならうれしいよ」
この後は、少し話をしてから、それぞれの家に帰ることにした。
「ただいま」
家に帰り、とりあえずうがい手洗いを済ませてから、伊万里がいるリビングに顔を出す。
「おかえり。…その顔だと、よかったみたいだね」
伊万里は机にプリントを広げて勉強をしてたようだ。
「うん。予想通りで驚いた。僕は自分の部屋にいるから、なんかあったら来て」
「はーい」
自分の部屋に入った僕は、勉強机の前で足を止めた。
「よいしょっと」
肩からかばんを下ろし、予め勉強机に置いていたノートを手に取り、ノアが言っていたことを書き記す。
「よし」
先ほどの喫茶店でのノアの夢を聞いて、あの日に見た夢を思い出した。
赤みがかった髪をした少女が道端に倒れていた。『僕』はその少女を放っておけずに手当をした。
ただそれだけだったが、確実に夢の意味を見つけるのに近づいたと思う。
「今思い出したけど…この夢って、僕とノアが初めて会ったときと似てる気がする…」
それに、伊万里と僕が今日見た夢も、なんだか初めて会ったような雰囲気だったし。でもそれなら、僕と伊万里の出会いはあんなシーンじゃなかったはずだ。結局まだわからない。
あとは…すみれから四月十四日の夢の詳細を聞くだけだ。そうしたらもうちょっとわかるかもしれない。
そういえば…さっきノアと話してるとき、『夢』と言ったら少し動揺してたけど…気のせいかな。今度聞けるといいんだけど。…まあ、とにかくするべきことが増えた。これから一つ一つ調べて、夢の真相に近づいて行こう。
僕は一階に降りて、休息をとることにした。
「…伊万里、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
リビングのソファに腰を下ろし、伊万里を見る。
視線をプリントに向けていた彼女は、シャーペンを動かす手を止め、顔を上げた。
「いいよ。どうせ夢のことでしょ?」
「ありがとう。まあ、そうなんだけど、今日のような夢を他に覚えてない?」
「あるよ。さっき、今日見た夢の前にもう一つ見てたことを思い出したんだ」
「本当に!? その内容を教えてくれる?」
「もちろん」
伊万里は笑顔で頷き、語りだした。
――どうやら、その『私』はさっき話してた夢の『私』と同じ人で、『私』の隣を通った男性の視線を全て集めていた。
学校に背を向けて歩いていたから、おそらく下校中だろう。『私』がすべての男子生徒を虜にしているため、周囲にはカップルが見えない。そういうこともあって、『私』は一部の女子から嫌な目で見られていたようだった。やがて、人通りが少ない道に差し掛かったときに、その通りの路地裏から女子生徒の声がした。『私』はどうもその女子生徒と知り合いらしく、その路地裏へ入った。すると、そこには四人の女子生徒がいて、そのうちの一人が笑顔で『私』に抱き着いた。その瞬間、左の脇腹に変な違和感を覚え、徐々に熱くなっていくのを感じた。そうしたら抱き着いた女子生徒は『私』から離れ、悪魔のような顔で『私』を見て嘲笑っていた。手には血の付いた小さめのナイフを持っていた。他の三人も一緒に笑っていた。お前が悪いんだよ、ざまあ、とか言われているのが分かった。
自分の脇腹を見ると、ナイフを刺した痕があった。刺された場所から制服のブラウスに血がにじんでじわじわと赤く染まっていき、意識が朦朧としてくるのがわかった。
『私』がその場に倒れたとき、後ろから足音が聞こえた。女子生徒たちはこの場面を見られて焦っているようだった。その足音は徐々に近づいてきて『私』を通り過ぎると、何かを言ってその女子生徒たちを追い払った。
それは一人の男子生徒だった。優にとても似ていた。彼は倒れた『私』を見ると蒼い顔をして『私』に近づき、スマホで救急車を呼んだ。それから、ポケットからハンカチを取り出して『私』の出血を必死で止めようとした。そこで、彼の背中からまたさっきの女子生徒たちが走ってきた。後ろから警察を引き連れて。どうやら彼女たちは警察から逃げてるようだった。『私』はそのことを気付いてない彼に、指を差して教えた。次の瞬間、女子生徒は先ほどのナイフを右手に持って目の前の男子生徒に切りかかろうとした。が、その男子生徒は後ろに振り向くと同時に、そのナイフを素手でいなし、弾いた。そのナイフは女子生徒たちの後ろでカラン、と音を立てて落ちた。ついでに女子生徒たちは警察に捕まった。『私』はついに意識を失い、目を閉じて倒れた。
「――という夢だったの。長くなってごめんね」
「いいや、詳細に教えてくれてありがとう。おかげで容易に想像できた。ありがとう」
「これでいい?」
僕は立ち上がった。
「うん。本当にありがとう。じゃあ自分の部屋に行ってくる」
「私は勉強続けるね」
さっきの伊万里が言ったことを、ノートにまとめて書く。
そして、僕が思い出したことも書く。それは――
――『僕』が目の前に倒れている女子生徒に声をかけても起きないため、彼女の出血を止めるために目の前に落ちている赤く染まったハンカチで傷口を押さえる。一分ほど経って、救急車が迎えに来た。あとから走ってきた警察もいた。倒れていたその女子生徒は救急車で病院に搬送された。
――という内容の夢だった。見た日も思い出した。その日は四月十四日。すみれがある夢を見た日と同じ日だ。そういえば、すみれはなんの根拠か知らないけれど、夢の中の自分がすみれ自身のような言い方で話していた。しかも僕によく似た『少年』がいたことも話していた。さっきの伊万里の話でも、僕に似た男子生徒がいたと聞いた。これも単なる偶然では済まない話だと思う。…考え過ぎかもしれないが、伊万里は夢の自分が、自分自身ではないとわかるような言い方でを話していた。伊万里がその夢を見たのは今日。すみれがある夢を見たのが三週間前。僕が伊万里の夢の続きを見たのも三週間前。もしかしたら、伊万里とは別の人物が、三週間前に伊万里と同じ夢を見ているかもしれない。そうなると、ノアも三週間前に何かを見ているはずだ。なぜなら、僕が二週間前に見た夢は三つであって、夢の話が合ったのはすみれ、ノア、伊万里の三人。ぴったり収まる。もしそうなら、今日、ノアが『夢』という言葉に動揺してたことも説明がつく。
それぞれの夢には何かしらの意味が隠されてるはず…僕はそういう結論に至った。
今日見た夢のおかげでいろんなことがわかってきた。これは確実に夢の真相へと進んでいるはず。ともあれ、ここで調子に乗ってはいけない。絶対に壁ができるはずだ。そしていつかはそれを乗り越えなきゃならない。
無意識に自分の部屋の窓からすみれの家の車庫を見ていると、一台の車がその車庫に入った。
…ってあれ? すみれが帰ってきた? ずいぶんと早いようだけど、なにかあったのかな。
すると、車から一人飛び出して、僕の家の玄関まで走ってきた。そして、玄関のチャイムが鳴った。僕は急いで一階に降り、玄関をそっと開けると、目の前には息を荒げたすみれが立っていた。
すみれは顔を蒼ざめ、優にバッ、と抱き着いた。
「優君…! お願い! 力を貸してほしいの!」
一体なんなんだ…。
今回はいつもより話が難しかったかもしれませんが、最後まで読んで頂いて感謝します。




