五月 『GW一日目―この四人で勉強会しない?―』
(僕は)初めての勉強会を隼、すみれ、伊万里の三人と一緒に始めた。
…のだが、
「みんな始める気ないだろーっ!!」
と、つっこまずにはいられなかった。
「ああ、ごめんごめん。今のは冗談」
隼は椅子に座り、すぐに勉強道具を机の上に出した。
それを見た僕は、伊万里の両肩をポンと同時に叩いて、声をかけた。
「伊万里、もうハエはいないから。勉強始めようね?」
「ほんとうかしら? …よかったわ。今から準備するわね」
よかったよかった。勉強をする気が無いわけじゃないんだね。
てことで、それぞれが椅子に座り、本格的に勉強会が始まった。全員数学の課題プリントを進めている。
「すみれ、ここはどう解くのかしら?」
「ここをこうして…」
すみれと伊万里は隣同士で聞き合っている。対して、僕の隣に腰を下ろしている隼は、僕に聞いてくる様子はない。僕も聞くところはないので、お互いほとんど話していない。
「なるほど! すみれすごいわね、とてもわかりやすかったわ」
「ふふ。ありがと」
勉強会ってこういう利点があるのか…。
「なあ優。俺ここわからんから教えてくれ」
唐突に隼が聞いてきた。
「ん? どこ?」
「ほら、ここ。因数分解の、ちょっと複雑なところ」
隼はさっきまで問題を解いていたプリントを持って、その問題を指で刺した。
「それは…こう、かな」
僕は自分のプリントに答えだけ書いた。
「ん? それは答えか? 答えだけ書かれてもわかんないよ。解き方は?」
「あ、ごめん。僕全部暗算だから説明するの難しいかも。すみれに聞いてみてよ」
なんたって僕、他の人とこんなかんじで勉強したことないからな…。
「大丈夫大丈夫。――すみれ、これ教えてくれ」
「それは…」
こんな感じで刻々と時間が過ぎていった。
始まってから約二時間経ち、休憩を挟むことにした。
「んん……あ、そうだ」
伸びをしたすみれは、何かを思い出したように優を見た。
「優君、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「この前からずっと不思議に思ってたんだけど…優君の親って今どこにおられるのかな?」
一瞬体が硬直した。
「いつもこの家には優君しかいないし、車無いし…」
「すみれ…いや、みんな」
全員がこちらを見た。
「僕、親はもういないんだ。だから、一人暮らし」
優を見ていた三人は全員息を呑んだ。
そして、すみれが口を開く。
「ごめん、聞かなかったほうがよかったね…」
「いや、僕が黙ってたのが悪かった。ごめん」
「いやいや、私のほうが…ごめん」
少しの間沈黙が続いた。
「優、一人暮らしってことは…家事とか全部一人でやってんのか?」
最初に隼が口を開いた。
「うん、そうだけど…」
「え? ほんとうなの!? …それはすごいわね」
伊万里は感嘆の声を上げた。
「なるほど…料理も自分でしないといけない。だから料理が上手いんだね!」
「すみれ、食べたことあるの?」
伊万里はすみれを見て問うた。
「うん! その日は麻婆豆腐だったんだけどね、すっごくおいしかった。ああ…また食べたい…」
「へえ…そんなにおいしいのなら私も食べたくなってきたわ」
ゴクッと唾を飲み込む音が聞こえた…と思ったら隼だった。
小声で「楽しみ…」とかぼそぼそつぶやいている。
「ねえ! 明日もここで勉強会しないかしら? 優の料理も食べたいし…」
伊万里は両手をポン、と合わせて提案した。
「いやいやいやいや! なんで!? こっちの身にもなってよ!」
いつものパターンと読みつつも、まず否定しとく。
「俺はいいぞ。食材持ってけばいいだろ」
隼はにかっと笑って賛成の意表を示す。
あ…終わった。
「私は明日予定が入ってるから、無理かな」
すみれは残念そうな顔で答えた。
旅行ねえ…最後に行ったのは…あ、去年の修学旅行があった。
「あら…残念ね。すみれ、その予定は午後なのかしら?」
「えーと…それが、一泊二日の旅行でね…さすがに無理だよね」
「いいわね…まあ、楽しんでらっしゃい」
僕が作った料理をみんなと一緒に食べたいすみれ。旅行に行きたい伊万里。どっちが残念だろうか。
「じゃあ決まりだな。明日は三人で優が作った夕飯を食ってから帰る」
「やっぱそうなるんだね…」
僕はもう諦めました。
「隼! 私は夕飯だけなんて言ってないわよ?」
「おい…まさか…」
「そう! そのまさか!」
伊万里はビシッと人差し指で僕を指し、
「『三人一緒にお買い物』をするのよ!」
と、叫び、昨日に続いて背中でドドーンと波打った。
「「そっちぃ!?」」
僕と隼の声が重なった。
「え? 他に何があるのかしら?」
「「いや、普通に『昼食も一緒に食べる』って言うかと思ったよ!!」」
またぴったり重なった。同じことを考えてたらしい。
「そっちは…優に負担が多すぎるかなって思ったのよ。私ったら、優しいわね」
自画自賛やめなさい。
「提案してる時点でアウトだから」
「いや、それはない。だって優の料理を楽しみにしてるからな!」
隼…料理って結構大変なんだぞ? しかも隼は今日食べるでしょ。
「で? どうするのかしら? 買い物行くわよね?」
「強制かよ。俺は行くけど」
「行くんかい。…伊万里、もちろん自分が食べる分は自分の金で払うよね?」
「とーぜんよ。じゃ、決定ね」
すみれは、この会話を聞いててすごく一緒に行きたそうな顔をしていた。
僕はため息をついて、明日のごはんのメニューを考えていた。
このあとも、くだらない話や学校の話、最近の話題などで盛り上がっていた。
「あ、もう一時間も経ってる…」
ふと、すみれが時計を見たときには時計の針は午後四時を指していた。
ちょっと話過ぎたかな。楽しかったけれど。
「じゃあ、勉強に戻ろうか」
「そうだね。…あ、そうだ。優君、飲み物ちょうだい」
「うん、いいよ。あとの二人は…」
僕はすみれにグラスを渡してもらい、隼と伊万里にも聞いてみた。
「マスター、ブラックコーヒー一杯」
「マスター、私は葡萄の炭酸ね」
「いつからここがバーになった…?」
この人たちは真剣なのかふざけてるのかわから…完全にふざけてるか。
僕はみんなのグラスを受け取り、すべて洗って拭いた後、一つはコーヒーカップと交換した。
僕もコーヒーにするか。
もう一度グラスをコーヒーカップと交換する。
「すみれは、何か希望がある?」
キッチンからダイニングを覗き、すみれに問う。
「紅茶でお願い」
すみれはプリントに視線を落としたまま答えた。
「わかった」
「優、どんだけ持ってんだよ…」
「はい、お待たせいたしました。こちらが紅茶でございます。熱いので十分お気をつけください」
「ありがと」
続いて隼の隣へ移動する。
「お待たせいたしました。ブラックコーヒーでございます。熱いので十分お気をつけください」
「さんきゅ」
自分の席にコーヒーを置き、伊万里の隣へ戻る。
「お待たせいたしました。…炭酸グレープでございます」
「今言うの一瞬躊躇ったわよね?」
「いやだって…紅茶、コーヒーときて…炭酸ジュースはないっしょ」
「なによそれ! 私が子供だっていうの!? 確かに子供かもしれないけど!」
言ってないよ…あと認めるんだね。
「それに、なんで喫茶店の店員みたいな口調で出すのよ! しかも超和風のお盆で! みんなも便乗しちゃってるし!!」
喫茶店とは限らないと思うけど…そこはどうでもいいか。
「いやあ…なんとなく、やってみたいなぁなんて思ったから」
今回は僕が茶番劇をしてみたよ! ってわけじゃないんだけど…なんか、やってみたくなっちゃったんだよ。
「まあいいわ。優のその謎の行動はもうやめて、優も早く勉強しましょ」
「うん、わかった」
て言っても、昨日で今日の分の課題終わらせちゃったからなあ…。明日の分もさっきで終わったし、僕はもうやることが…。
「優、このコーヒーうめえな! もうコックになっちゃえば? …冗談だけど」
隼はブラックコーヒーを見ながら絶賛した。
ごめん、それ熱湯注ぐだけで作れるやつ。
「ありがとう。――そうだ。みんな、課題どれくらい進んだ?」
すみれ――数学の課題プリント、四枚終了。
隼――数学の課題プリント、同じく四枚終了。
伊万里――数学の課題プリント、三枚終了。
「じゃあ今日の分の課題はもうすぐ終わるね」
進行状況はいい方かわかんないけど…とりあえず、このコーヒーおいしいな。
「今日の勉強会のおかげだな」
「まだ終わってないわよ。それに、喋ってたら遅くなるわよ」
「一番遅れてる人が言える台詞じゃないぞ、それ」
「うっさいわね! 一枚差だからって、調子に乗ってんじゃないわよ!」
伊万里は勢いよく立ち上がった。
「伊万里、早く進めようよ…」
「そう言う優こそ、どれくらい進んでるのかしら? さっきから何もしてないし…もしかして、諦めちゃったのかしら?」
伊万里は腕を組んでフフンと鼻を鳴らす。
「残念だけど、明日の分も終わっちゃったから休憩してるだけ」
「まじで!?」
彼女は口を開けて愕然とした。
「伊万里、早く進めようよ」
「はい…」
しょんぼりして椅子に座った伊万里は、課題プリントに視線を落とし、シャーペンを握りしめた。
時計の針は午後五時を指している。全員のグラス、カップはすべて空になっている。
「みんな、お疲れ様」
僕は伊万里が五枚目の課題プリントを済ませるタイミングを見計らって、みんなに声をかけた。
「やっと終わったあ…」
伊万里は全ての気力を使い果たした戦士のよういにぐでっとした。
「五時か。みんないつ帰るんだ? 俺は七時くらい」
「私と伊万里は六時だよ。あと一時間、何する?」
優は家のすぐそこに公園があったことを思い出した。
「外行かない? 近くに大きい公園があるんだけど」
「俺はいいが…何するんだ?」
そうか、することないな。どうしよう。
「う~ん…バドミントンとか、サッカーとか、野球とか、バスケとか…スポーツくらいしかないかな」
思いつくものを挙げてみる。
「いいじゃんそれで。じゃあ早速行こうぜ」
「それが、一つ問題があってね。それは、僕がスポーツは超苦手(笑)ということだ」
「提案しといてそりゃないだろ…」
隼は肩をすくめた。
「あ、でもキャッチボールくらいならできるよ」
「じゃあ行こうぜ。二人はどうだ?」
伊万里とすみれはお互いを見るなりコクっと頷き、
「いいよ。それくらいならできる」
と、答えた。
僕たちはその公園まで徒歩で移動した。
「うわぁ、久しぶりに来た~」
伊万里は走って公園内に足を踏み入れた。
「伊万里来たことあるんだ」
伊万里は足を止め、こちらに顔を向けた。
「うん。小さい頃よくここに来て近所の友達と遊んでたのよ。…キャッチボールといえば、この公園でたまにキャッチボールをしてた親子を見たことがあるわ。私と同じくらいの子だったわね」
「へえ、奇遇だね。僕も小さい頃親とここでよく遊んでて…何してたかは忘れたけど。それと、よく泣いてる女の子がいた記憶があるなあ」
そんな何年も前の話を思い出し、両親のことまで思い出している自分がいた。
「優? 早くキャッチボールしようぜ」
「ん? あ、ごめん。そうだね」
「じゃ、遠慮はしないぞ。しっかり取ってくれよ。行くぞ!」
隼の手から剛速球が投げられる。僕はその軌道を読み取り、しっかりと左手のグローブにそれを捕らえた。
「へえ、よく今のがキャッチできたな」
「たぶん、まぐれ。じゃ、投げるよー」
僕は姿勢を崩さずにぐっと足を踏み込み、野球ボールを隼に投げつけた。回転を計算して、精一杯投げたつもりだ。
「ごほっごほっ…」
砂が舞って前が見えづらい。
「あれ? 消えた?」
と、隼から聞こえた。が、次の瞬間、隼の頭にポンとボールが落ちた。
「あれ? 上から落ちてきた?」
あ。またやってしまった。
僕は隼の下へと駆けつけた。
「隼、たぶんそれさ、僕が回転重視しすぎてそうなったんだと思う」
「いやわかんねえよ。もうちょっとわかりやすい説明を」
「あくまで僕の推測だけど、僕が投げたとき、砂埃が舞ったでしょ? 足に力入れ過ぎて、砂埃が舞ってから…」
まとめると、
【一】足に力を入れ過ぎて砂埃が舞う。
【二】目の前の地面にめちゃくちゃ回転がかかったボールを投げ(叩き)つける。優の投げるのが下手過ぎるため、投げた方向が地面だった、ということになる。
【三】その回転のおかげでさらに砂埃が舞い、ボールは高く跳躍する。
【四】二人ともボールがどこに行ったのかわからず、空中で高く飛んでいたボールがたまたま隼の頭上へ落ちた。
「…って感じじゃないかな」
「優、投げ方教えようか?」
「いや、さっきので思い出したから大丈夫」
――一方、すみれと伊万里は…
「その男の子っていつも家族とキャッチボールしてたの?」
「ええ。いつもお父さんっぽい人としてて…それが、お父さんっぽい人からすごい早いの投げられてたのよ」
二人は先ほどの話の続きをしながら、緩い球を投げ合っていた。
「へえ~…その男の子、大丈夫だったの?」
「ええ。全然平気っぽかたわよ。それがさ…お父さん、目に見えないような速球を何回も投げてるのにもかかわらず、その男の子、ふっつうにキャッチするのよ。聞いてみたら、よくみればキャッチできますよ、とかなんとか言ってたかしら?」
「すごいね…見てみたかったなあ、その子」
「私も久々に見てみたいわ」
「…ねえ、伊万里」
すみれはボールを投げる手を止め、どこかを見つめていた。
「どうしたのよ?」
「もしかしてあれのこと?」
すみれが指を差した先には、優と隼がキャッチボールをしている姿があった。というのも、隼が投げた剛速球を優がキャッチし、優は緩い球を返す。その繰り返しだ。だが、優は隼が投げた球を、確実にすべてキャッチしていた。
「うらぁ!!」
隼は最初と変わらぬ速さを保ったまま、剛速球を優に何回も投げつける。
お父さんからいつもこんな球受けてたっけ。なるほど…あのとき、ビンをキャッチできたのはこのおかげだったかもしれないな。
汗がだらだらと出てくる。体が熱い。
「これは…本当にあの男の子かもしれないわね」
「…もしそうだとしたら、伊万里はよく泣いてたの?」
「ばっ!! そ、そんな訳ないじゃない! 私は泣いてないわよ!?」
「冗談冗談」
その後六時前になってから家に帰り、すみれと伊万里はそれぞれの家に帰った。
「はあー! 気持ちよかった!」
僕と隼は、女子二人が帰ったあとすぐにシャワーを浴びた。
隼はこういうときのためという理由で着替えと下着を持ってきた、と言ってたけど…絶対泊まるつもりだったでしょ。
僕は料理をしなければならないので、隼より先にシャワーを浴びた。そのため、隼がお風呂場から顔を出したときには、僕はじゃがいもの皮を剥いている最中だった。
やっぱ学校一のイケメンって風呂上りはすっごい映えるね。
「結局何作るんだ?」
「カレーだよ。人参とじゃがいもと玉ねぎ、全部使うから」
「お! マジかよ! ちょうどカレー食べたいと思ってたんだよ!」
やっぱり。食べたいと思ってた料理の食材を買ったんだね。
「俺に何かできることがあったら言ってくれ」
「うん、ありがと」
「俺は呼ばれるまでスマホいじっとくから」
ちょ、それはやばいでしょ。
「何してるの?」
「ラインだよ」
さすがリア充。友達何人いるんだろ?
「へえ、じゃあ後で登録したいんだけど」
「え? 優もやってるのか?」
「いや、やってるようでやってない」
「なんだかよくわからんが…いいぞ。あとで登録しような」
僕は再び手元に視線を落とし、じゃがいもの皮を剥き始めた。
「隼、ちゃっといい?」
「ちょい待ち。――なんだ?」
隼はスマホを机に置くと、優の下へと歩く。
「食器棚から大きい皿を二つと、スプーン二つ取り出してくれる?」
「了解!」
隼は元気よく返事をすると、手をハンドソープで洗った後、指示通りに動いてくれた。
とりあえず作り終えたので、盛り付けに取り掛かった。
「じゃあ量は自分で決めてね」
「ういっす」
「「いただきます」」
「いやあ…楽しみだなあ」
「そんなに期待しないでくれよ。特別ってわけでもないんだし」
今回のルーは辛口にしといた。
隼はスプーンを手に、カレーがかかったご飯をすくう。そして、口に入れてもぐもぐ…ごっくん。
「うん。普通の辛口カレーだな」
「だよね。カレーって誰が作っても同じ味だと思うから…」
「そうか? 母さんが作るカレーとは…はむ。…ふぁはふぃはっふぁふぁひはほ、ほふぇ」
しゃべってる間に口の中にカレーを運ぶ隼。さすがだわ。
「熱いのはわかあるけど、食べてからしゃべって」
「…すまん。えっと、母さんが作るカレーとはまた違っ…はむ。…ひふぁっははふはほ」
「しゃべってる間にもカレー食べちゃうとか、どんだけカレー好きなの?」
「…すまん。いや、ほんとにカレー好きなんだよ。小さい頃からの大好物だ…はむ。ほれふまい」
話はカレーを食べ終わってからになりそうだ…。
「ごちそうさま」
「よし。で、今日の本題だけど」
そう。隼は、僕の料理が食べたいだけでなく聞きたいことがあると言っていた。
「忘れた! 今必死に思い出してるんだが…どうも思い出せなくてなあ」
「…は?」
僕は呆気にとられた。
こういうのって、忘れちゃだめなやつだよね。
「すまん、もうちょっとで思い出せそうだから、待ってくれ」
「え? あ、うん」
「…そうだ。思い出した。答えたくなかったら答えなくてもいいが…中一、二年のとき、何があった?」
結構真剣な話らしい。今となったら、そこまで重いことじゃないから、話してもいいかな。
「いいよ。教えても」
僕は、中学に入学した当時から家族はいなくて、その頃は笑顔なんて僕の中には存在しなかった。ただひたすら料理と勉強ができないと、って思ってたからだ。
一年の時の一学期は何もなかったんだけど、夏休みを明けて二学期が始まった頃から、急にある男子が話しかけてきたんだ。そいつの名前は赤井剛。クラスにはだいたい一人はいる、いじめっ子みたいなやつだ。当時話す人がいなかった僕は、赤井に声をかけられたとき、凄く困った。その日から、僕は赤井から嫌がらせを何度も受けた。内容としては、足を踏まれる、プリントに落書きをされる、プリントを破られたり、ゴミ箱に捨てられたり、挙句の果てにはトイレに流されたりもした。今考えてみれば赤井は幼稚なことしてた、ということがわかる。毎日されたため、僕は先生に相談をしようか迷ったけど、その時は赤井を恐れていたので、これ以上ひどくならないように相談はしなかった。クラスのみんなも見て見ぬ振りをするだけで、誰も僕を助けようとはしなかった。或いはみんなも赤井を恐れていたのかもしれない。でも、日に日に嫌がらせはエスカレートしていき、ついには赤井の仲間も参加するようになっていった。それでも僕は耐えて、学校を欠席するようなことは一度もしなかった。
嫌がらせは続いていたが、いつの日かその嫌がらせの数はだんだんと少なくなっていった。二年生に進学してクラスが変わったのもあったからかわからないけれど、完全に無くなったのは二年生の二学期の最後の日だ。その日から、赤井が僕に関わることは一度も無かった。
「…って感じかな」
「そりゃ、辛かったろうな。二年間も」
「うん。だから、三年になって隼たちが声をかけてくれた時は少し不安だったけど、こうして話してるうちに信用できるなって思えてきて、助かったかも。だから、ありがとう」
「なんか、照れるな」
隼は後頭部をポリポリとかいて照れ隠しをした。
「まあ力になれたのは俺もうれしいけど、俺だけじゃないんだから、他のやつらにも言えよな」
「うん、いつかね」
「じゃあ、もう用は済んだ。…食器洗ってやろうか?」
隼は立ち上がり、いつもの優しさで優に言葉を投げかけた。
「いいの? それならよろしく」
「ああ、わかった」
隼が皿を洗ってくれて、ラインの友達登録も済んだので、隼は家に帰った。
今は十時。もう寝る時間だ。
さっき、隼に話した出来事は、先生にしか話したことがなかった。でも、だからこそ、隼はそれほど信じられる友達、ということなんだ。隼だけには限らないし、三年三組は僕にとってはとても居心地の良いクラスだ。この一年で、なにかが変わるといいな。
僕はベッドで横になり、そんなことを考えながらゆっくりと眠りについた。
読んで頂き誠に感謝致します。
ちょっと遅くなりましたがGW突入しました。優君たちには楽しんでもらえるとうれしいです。はい。
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