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五月 『三人の様子がいろいろとおかしい』

 四月二七日の金曜日に、僕はノアから電話を受け、次の日の二八日に僕、ノア、その妹の千穂理(ちほり)の三人でショッピングモールで買い物をした。そこでも、いろいろあって疲れた。だから、その日の夜、明日はバイト以外の予定は無いからゆっくり過ごすとしよう、とか考えてたら、また電話がかかってきた。

 僕は受話器を取り、耳元まで持ってくると、

「もしもし、倉ノ下(くらのした)です」

 と、応答した。

『…あ、すみません。かけ間違えました。失礼しました』

 ガチャ――プープープー。

「なんでもないんかい!!」

 思わず受話器を床に叩きつけそうになった。危ない危ない。

 だから、明日はたぶん、ゆっくり過ごせるだろう…たぶん…おそらく。たぶん。

 てことで、その日はもう寝ました。



 そうして、何もないと油断していると絶対何かが起こるって思って警戒してたのに、実際なにも起きなかったので、四月が過ぎて五月になっていた。本当にいつもの日常だったから、なんか安心した。



 今日は五月二日、水曜日だ。明日からゴールデンウィークが始まる。

 僕は今、学校にいる。丁度終礼が終わりそうなところだ。

 そして、ゴールデンウィークでもなんらかのトラブルがあるんじゃないかと、そう思っている佐中(さなか)である。その理由は、今のクラスの騒ぎようだ。だから、あまり耳に入らないように(こら)えてたけれど、もう限界だ。さあ、どんなイベントだ?

「うわー、めっちゃ部活あんじゃん」

「まじ最悪ぅー。これじゃあ遊べねーな」

「しかも課題もいっぱいあるぞ!? 全然ゴールデンじゃない…」

「誰か課題を手伝ってくれぇ!!」

「静かに!!」

 そう、まさしく地獄の…帰宅部以外の人にとっては地獄のイベントが…ってあれ。僕普通じゃん。課題の数もそこまでなさそうだし。この量なら平均で一日約二時間ってとこか。うん、できるわ。

 優は課題表を机の中に入れて、終礼が終わるのを待った。



 やがて放課後になり、帰宅部の人たちと日直だけが教室に残った。

 さて、と…帰るか。

 僕はかばんを持ち、立ち上がった。

「すみ…」

「…ぅぅぅぅぅ……」

 すみれに声をかけようとしたら、彼女はゾンビのような(うめ)き声を漏らして机に顔を伏せていた。

「はや…」

「…ぁぁぁぁぁ……」

 (はやと)も同じようにして机に顔を伏せていた。帰宅部でも駄目らしい。

「…………帰らない?」

 とりあえず声をかけてみる。すると――

(ゆう)ぅぅぅ…貴様はなぜピンピンしているぅぅぅ? てめえ!!」

「優君…あなたおかしいですよぉぉぉ!!」

 ゾンビみたいに寄りかかってきた。

「うわああぁぁ!! …やめてよ…ビビったじゃん」

 あと明らかに君たちのほうがおかしいよ。いろんな意味で。

 と、

「あんたたち、一体何してるのかしら?」

 ゾンビ二人とは違う者が現れた。一天満谷(いてまだに)伊万里(いまり)だ。(あき)れた顔で僕たちを見ている。

「伊万里…?」

「伊万里ぃぃぃ! お前もなぜピンピンしているぅぅぅ!!」

 隼、まだやってるのか。

「ふんっ! 課題ごときでそんな状態なんて、あんたたちもまだまだね」

「おっ、伊万里はできるんだ。…えっと、英語の課題って何ページあったっけ?」

 僕は英語の課題のページ数を忘れてしまったので、彼女に聞いてみた。

「あら…もう忘れたの? そのくらい、自分で確かめなさいよ。プリントはもうかばんに入れちゃったから、確認はできないわよ」

 あ~そうだ。この人話し方が架空の世界のものだ。ノアに薦められて買ったラノベの中でこういう口調の人いたもん。とういうか、今の台詞(せりふ)

「伊万里、もしかして課題見てないの?」

 それを聞いた伊万里は肩をピクッと震わせた。

「そ、そんな訳ないじゃない」

 やっぱ見てないんじゃん。…あ。

 僕は自分の机の中に課題表を入れていたのを思い出し、机の中かそれを取り出した。そして、伊万里に聞こえるように、少し大きめの声で読んでみた。

「えーと…漢字ドリル十ページ、数学の課題プリント表裏五枚、英語の課題プリント表裏五枚…」

 伊万里はそれを聞いて、顔を青ざめて口を片手で覆った。

「やめて…お願い…」

 まだ続けるぞー。

「理科の課題プリント表裏五枚、歴史の課題プリント表裏五枚で…全部かな」

「きゃあああ!!!」

 伊万里は耳を塞ぎながら悲鳴を上げた。そして、

「優ぅぅぅ…なぜぇぇぇ!!」

 ゾンビみたいになった。あら怖い。



 僕は今、先ほどゾンビっぽくなった三人と下校中だ。三人ともさっきの茶番は終わらせたようだ。

「ほんと嫌になるよなー」

「ほんっと、課題多すぎでしょ…あ、そうだ」

 すみれは何かを思いついたように顔を上げた。

「この四人で勉強会しない?」

「僕は遠慮しとく」

「即答&拒否!?」

 え? だめなの?

「え? だめなの? みたいな顔しないでよぉ」

 心読み取るのほんと上手いな!

「優がいないとダメだろ」

「隼、なんで?」

「なんでって言われても…なあ? 伊万里」

 伊万里に振りやがった。隼逃げないでよ…。

「いないといけないわよ! …なんとなく」

 最後ぼそっと言ったけど聞こえたよ!! なんとなくって!

「じゃあ決まりだね」

「いや、ちょっと待ってよ!?」

「場所は…優君の家ね」

「勝手に話を進めるなあ!!」

 絶対他人(ひと)の話聞いてないよね!?

 そして横断歩道を渡る。

「了解。持ち物は…テキトーに持っていくよ」

「じゃあ明日の午後一時頃に優君の家集合にしようか」

「じゃあな、また明日」

「ばいばーい」

 あっ。隼…(隼にとっては)いいタイミングで帰っていきやがった…。

「私も用事あるの思い出したから先帰るねー!!」

 すみれは駆け足で行ってしまった。

 あっ……くそう。ゆっくりできないじゃないかっ。

「ずいぶんと残念そうな顔をしてるじゃない」

「伊万里?」

 そういや伊万里も来るのか…はぁ。

「なら、私は行かないわよ」

「…え? でもさっき…。それに、隼もいるのに?」

「隼もいるって…なんでそうなるのかしら?」

 伊万里は質問に質問を重ねてきた。

「え? だって女子ってみんな隼のことが好きなんじゃないの?」

「私は違うわよ」

 へえ、こういう人もいるんだ。てっきり、最初に話しかけてきたのも隼がいるからだと思ってた。

「じゃあなんで?」

「あんたさっき残念そうな顔してたじゃない。だから、人数を減らしてあげてやろうかと思ったのよ」

 優は目を見開いた。そしてふっと微笑む。

「伊万里…優しいんだね」

「ふんっ! 私は昔から優しいわよ。それに、あんたに言われる筋合(すじあ)いはないわ」

「ソウデスカー」

 それ絶対言いたかっただけでしょ。

「あ! 今馬鹿にしたわね!」

「されたように感じ取ったなら、自分が認めてるってことだよ」

「あんたねぇ…」

 伊万里は下唇をぎゅっと噛んで悔しそうにしていた。

「…しょうがないわね。私も明日の勉強会に顔を出してやるわよ!」

 しまった。そっちの道もあったか。

「いや頼んでないから! やめてくれえ!」

「いいや! やめないわよ! だって私は――」

「私は…なに? 優しくないって言うつもり? …それなら、さっきの話と矛盾してるなあ…」

 ちょっといじってみる。

「わ、私は! わたしは……ひ、暇だからよ!」

 腕を組んだ伊万里の背中で、ドドーンと波打ったように見えた。

「堂々と胸張って言えることじゃないでしょ! それに絶対考えてなかったろ!!」

 結果、全力でつっこんでいた僕の姿があった。

「ふ…やっぱあんたと話してると楽しいわね。さ、ここで立ち止まってないで家に帰りましょ」

「……」

 ふ…この人と話してると疲れるわね。君が最初に言った言葉でで立ち止まったんだけどね。さ、家に帰りましょ。

 僕たちはやっと歩き始めた。

「そうだ、伊万里。前から気になってたんだけどさ」

「何よ?」

 伊万里は前を向いたまま返事をした。

「伊万里ってラノベ読んでる?」

「ええ、たくさん持ってるわよ。ざっと八〇冊くらいかしら?」

 ほええ…いっぱい持ってるなあ。

「ラノベはいつ頃から読み始めたの?」

「確か…小学六年の頃から読み始めたわ。六年の…秋だったわね。誕生日でラノベを貰ってさ…その頃からドはまりしちゃって…」

 ほうほう。

「ここから本題。今は戻ってきてるようだけど、さっきまでの現実の人が普通しないような喋り方って、いつ頃から始めたの?」

「はっ…!!」

 完全に忘れていたらしい。伊万里は口に手を押さえて僕を凝視している。

「な…なぜ…なの?」

「そりゃあ、あんな喋り方の人が現実にいたら…ここにいたけど。ちょっと、変? な人だなぁって思ったんだ。でも、伊万里はそうでもなかったし、さっきの話からするとラノベが大好きなんでしょ? だからもしかしてラノベの中の口調でも真似してるのかな…って」

 伊万里は口を押えていた手を下ろすと、いつもの笑顔に戻った。

「よくわかったね…私の喋り方が本当は違うって。でも、本当に好きになってしまったから、真似したくなっちゃってね。それで、小学校を卒業した次の日に親の転勤で引っ越すことになって、丁度いいなって思ったから…質問の答えは、中学生になったあとよ」

「そうか…ラノベはそんなにすごいものなのか…」

 僕は自然とそんなことをつぶやいていた。

「優…?」

 伊万里は怪訝そうな顔で僕の顔を覗いた。

「あ、ごめん。今の聞こえてた?」

「ええ。でも、私もそう思ってるよ」

 伊万里はすごいなあ。

「好きなものがあるって、幸せだね」

「い、いきなりどうしたのよ」

「あ、いや…僕、そういうのないからさ」

 なんのために生きているのか、将来何がしたいのか。僕は今、その答えが見つかっていない。今年は受験生だからさっさと決めなければいけないのに。

「へえ、意外」

「そうかな?」

「優、私ね…将来、ラノベ作家になろうかしら、って思ってるのよ」

「そりゃすごいね。僕には応援くらいしかできないけど、期待してるぞ」

「ありがとう」

「そのためにも…ゴールデンウィークの課題を終わらせないとね」

「うう…。現実に引き戻すなんてひどい男ね」

「で、明日僕の家来るの?」

「行けたら行くわ。確率は九九パーセントといったとこかしら?」

「おう…ずいぶんと高いっすね」

 あ、僕の家が見えてきた。

 二人なのに結構盛り上がったなあ。

「伊万里、もう家着くよ」

「あら、残念ね。…優もさっさと自分のやりたいこと見つけなさいよ」

「うん。僕に合ったものがあればいいけどね」

 優と伊万里は優の家の前で立ち止まった。

「きっと見つかるわよ。――じゃあね、優」

「ありがとう。帰り道気を付けてね、ばいばーい」

 お互いに手を振った後、伊万里は走って帰っていった。優はそれを見送ると、家の中に入った。

「ただいま」



 午後九時。僕はシャワーを浴びて、牛乳を飲んでいた。

「…ぷはぁ! やっぱ風呂上(ふろあが)りの牛乳はおいしいなあ!」

 などとよくありそうな台詞を残した後、テレビの電源をオンにする。

「ニュースニュース…と。あったあった」

 僕は今日のニュースを見るのも忘れて勉強をしていた。だから、ニュースを見逃してしまっていたのだ。(あらかじ)め録画設定をしていると、見逃したときに役に立つ。それが今日みたいな日だ。

 僕は録画された今日のニュースを再生する。

 しばらく見た後、天気予報までスキップする。

「ほうほう…明日も今日と同じくらいの気温か。なら平気だな。晴れでよかった」

 安堵の息を漏らしながら、テレビの電源を切った。

「さて、寝ますか」



 翌日。現在午前九時ジャスト。

 僕は今、本屋にいる。あのラブコメラノベの続きを買うためだ。意外とはまってしまった。

「昨日で五巻読み終わったから…残り全部買おう」

 実は、四月三〇日…今週の月曜日。日曜日に買ったラノベを二巻とも読み終えてしまったため、学校から帰ったあと、本屋へ三、四、五巻を買いに行ったのだ。

 それで、さっき口にしたが、昨日学校で五巻を読み終えたのでこうして続きを買いに来たのだ。

「自分のやりたいこと、か」

 ふと、昨日のことを思い出した。

「やりがいがありそうな仕事、ないかな」

 三冊のラノベをとり、レジに向かう前に職業関係の本を探しに行った。

「ん…これかな」

 なんとなく目に留まった本を手に取ろうとした。そこで――

「あれ? 優君じゃないか」

 僕は伸ばしていた手を止めて、その声がした方を見た。

 思ったけど僕こういう場面多い気がする。とてつもなくどうでもいいな。

「店長?」

 そこには僕のバイト先の店長がいた。

「どうしたの? そんな驚いて」

「そりゃ驚きますよ。店で知り合いと会うことなんてほとんど無いんですから」

 まあ…僕の場合、知り合いが少ないってのもあるけど口にしたら悲しくなるだろうからやめておこう。

「そうかなあ? 俺なんかしょっちゅう会うけどね」

 知り合いいっぱいいそうだもんなあ。

「それに、店長が席を外してこんなところにいるのにも驚きました。店はいいんですか?」

 今の僕の台詞に店長は「あっ」と声を漏らして続けた。

「ごめんごめん、優君にはまだ言ってなかったね。今日は店閉めてるんだよ」

「え? ゴールデンウィークなのにですか?」

「ちょうど、(かおり)沙耶(さや)ちゃんの都合が悪くてね。優君とすみれちゃんだけだと、不安だから、今日はやめておいた」

 店長は残念そうな顔で答えた。

「すいません。力になれなくて」

「いいよいいよ。…それより、優君は何の本を探してたんだい?」

 僕は『仕事』と書かれたところを指差して、

「仕事関係のことです」

 と、口にした。

「え? まさか優君…うちのバイト辞めちゃうの?」

「そ、そんなわけありません! むしろ続けたい気持ちでいっぱいですよ!」

 今の台詞を聞いた店長は笑顔になった。

「そ、そんなにうちの仕事がよかったなんて…! …それで、なんで仕事なの?」

「それはですね」

 僕は店長にかくかくしかじか説明した。

「だから、その…なにか見つかるかなって思いまして」

「別にそんな悩まなくても、一番評判の良い高校に進学すればいいんじゃない? ちなみに俺が通ってた高校は、今でもこの町で一番頭が良いって評判だよ」

 そうか。高校に進学した後決めるってのもあるか。

「…ありがとうございます。考えておきます。では」

「ちょっと待って」

 買い物を済ませようとした僕を、店長が止めた。

「はい?」

「今バイトで働いてる店のことも忘れないでね」

「…あ! すいません…正直考えてませんでした…」

「ちょっと残念かな…っていう冗談は置いといて、また相談したくなったら言ってね」



 僕は無事にラノベを買い、その後食材などを買いに行って、家に帰ったのは十一時だった。

 昼食を食べ終え、来客を待つ準備が終わったのは十二時三〇分だった。

「ふう…あとは待つだけ、か」

 えっと、確認。今日家に来るのは…すみれ、隼、伊万里(一パーセントの確率で来ない)の三人だね。

 どうしよう、この三〇分間。

「…買ってきたラノベを読むしかないかな」

 ということで、未開封状態のそれをハサミできれいに開封し、出てきたごみをゴミ箱に捨てた。そして、リビングにある二つの二人用ソファのうち、窓に近いほうに座り、眼鏡を外してラノベを読み始めた。



 ――ピンポーン。

 優がラノベに熱中していると、玄関のチャイムがリビングとダイニングに鳴り響いた。

「お、もうそんなに経ったんだ」

 眼鏡をかけてから時間を確認すると、時計の針は十二時五〇分を指していた。

「ちょっと早めに来たのかな? …っと。早く出なきゃ」

 僕は玄関のモニターを見た。

 お、隼か。

 ボタンをぽちっと押し、「はーい」と答えると、「あ、空閑(くが)です」と返ってきた。

 急いで玄関へと向かい、玄関の扉を開いた。

 扉の向こうには、最新のコーデっぽい服装で身を包み、右手にトートバッグ、左手になにやら大きい袋を提げた隼がいた。僕の家に来るだけなのに…すごいなこの人は。

「よ」

「お、優。昨日はすまんかったな、押し付けちゃった感じになって」

「来て早々謝るんだね。ま、あまり気にしてないからいいけど」

「そうか、さんきゅ。じゃ、お邪魔するぞ」

 隼と少し会話を交わし、彼を家に入れた。



「ダイニングで過ごすよ。飲み物いる?」

 僕はダイニングに入った隼を見て、水分がいるんじゃないかと思い、質問をした。

「おう、お茶頼むわ。…玄関見たときから思ってたんだけど、お前ん()、すげえきれいだな」

 冷蔵庫からお茶が入ったペットボトルを取り出す。

「ありがと。それ、とうふも言ってた」

 僕は氷が入ったグラスによく冷えたお茶を注ぎながら、隼のつぶやきに応じた。

「そうなのか? というより、あいつここに来たことあるんだ」

「前にちょっとね。それより、隼はどうやって僕の家の場所を知ったの?」

 冷蔵庫にお茶が入ったペットボトルを戻す。

「ああ、それなら…とうふとわたあめから聞いたんだ。…優が作った麻婆豆腐がおいしかったことも含めて」

「あはは、そうなんだ。はい、お茶」

 僕はそう言ってから隼にお茶が入ったグラスを渡す。

「さんきゅ。というわけで、優」

 隼はお茶をゴクッと飲んで、左手に持っていた大きい袋を僕の目の前に突き出した。


「俺も優が作った料理食べたいから、夕飯頼む!」


「…え?」

 呆気にとられた。

「だから、タダで作ってもらうわけにもいかないから、これやるよ」

「…あ、うん」

 僕は我に返ると、その大きい袋を受け取り、中身を確認した。

人参(にんじん)二本、じゃがいも四個、玉ねぎ四個…こんなにくれるの!?」

 僕は顔を上げて隼を見た。

「おう。野菜で思い浮かぶものがそれらだったからテキトーな数買っといた」

「え? わざわざ僕の作る料理を食べるために買ってきたの!?」

「ああ。まだお金には余裕があったもんでな」

 この人すごーい。月のお小遣いどれくらい貰ってるんだ…?

「そんなに食べたいんだね…。帰りが遅くなるのは親に許可もらってる?」

「あったりまえだ! 今日はそのために来たと言っても過言ではない!」

「食材をこんなにくれるくらいだからね…わかった。頑張って作るよ」

「やったぜ! うはー! 夕飯が楽しみだあー!」

 まだ午後の一時だぞ。

 僕が隼の分も作ると決めた理由はもう一つある。それは、今日夜ご飯で作ろうとしていた料理で隼が持ってきた野菜を全て使うからだ。隼がこの三種類の野菜を最初に思い浮かべたのは、おそらく今晩作る料理を思い浮かべたからだろう。国民のほとんどが好むと言われるあの料理を。

 僕が考え事をしているところで、隼が口を開いた。

「そうだ。今日伊万里は来るのか? 昨日聞かずに帰っちゃったから」

 ああ、そうだったね。

「伊万里? 伊万里はたぶん来るよ。昨日、九九パーセントの確率で行くって言ってたもん」

「なんだそりゃ。…まあ、俺は来ないと思うぞ。あいつの場合一パーセントでもあったらそっちに行きそうだからな」

「僕もそう思ったよ。でも、普通なら来るだろうけどね」

「普通なら…か」

 と、そこで玄関のチャイムが鳴った。ので、優はモニターを覗く。

「あ、噂をすればってやつだね」

「伊万里か?」

「うん。あとすみれも一緒。…なんだかさっきの話が恥ずかしく思えてきたよ」

「ああ。心配して損したな」



 僕は伊万里とすみれを家の中に入れた後、隼と同様に二人にもお茶を出した。

「ぷはぁ! 優君の家のお茶はいつ飲んでも最高だね!」

 と、すみれによるお茶への称賛を受け取った僕だが、二人に質問しないといけないことがあった。

「ねえ二人とも。今日はや――」

「あああー!! 今クソでかいハエがいたぞ!! ほらあそこあそこ!」

 とまあ、隼に遮られてしまった。いきなりどした。

「え? どこ!?」

「ハエなんて…〇ねばいいのよ…」

 ちょ…今、伊万里の口から物騒な言葉が聞こえてきたけど気のせいってことにしておこう。あ、ダジャレじゃないから。

 すみれと伊万里が隼の指差した方向を見てるうちに、隼は僕の耳に口を近づけ、僕にしか聞こえないような声で言った。

「お前と二人だけで話したいことがあったんだよ。だから…すまん」

 僕はコクっと頷くと、話を逸らすために隼の嘘を使った。

「どこ行った!? 出てこーい!」

「あ、優君…」

「ハエなんてこの世から全て〇え去ればいいのよ…」

 まだ言ってるのか。過去にハエとの間にどんな思い出を作ったんだ…。



「じゃあ、勉強会始めようか」

「勉強かあ…はぁ…今から準備…はぁ…するわ…」

「お手洗い行ってくるね」

「ハエなんて…ハエなんて…」

「みんな始める気ないだろーっ!!」

 というわけで、ぐだぐだな勉強会がやっと始まった。

読んで頂いて感謝します。

今回は優の口でのつっこみが多かった気がします。次回、四人の勉強会を含めた回です。

感想、評価等お待ちしております。

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