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佐倉坂最強伝説  作者: 江城 春人
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5章 決戦 健斗VS大吾(3)

「似たようなものだ! というより剣道に近いかな。まあ混ぜたようなものだ」


 チャンバラと聞いて、健斗は中学の授業でやった剣道を思い出していた。ずっと昔に新聞紙を丸めて隣の幼なじみと叩き合っていた記憶もある。その程度しか経験はないが、要は素早く正確に狙ったところへ剣を振って当てればいいのだろう。


「いいぜ! さっさとやろうじゃねーか!」

「そう焦るな、まだルール説明も終わってはいない。風子くん、出てきてくれ!」

「任されましたぁ!」


 大吾の声に呼応して、やはり袖の方からぴょーんと風子が飛び出てくる。彼女は見事に着地すると、いぇーいいぇーいと喜びながら黒い棒を掲げる。


 健斗は彼女の行動ではなく、その服装を見た。普通の制服を着ていることには着ているのだが、腕や胴、脚の部分に白い防具らしきものが付いている。頭にはボクシングの選手が付けるようなヘッドギアを被っており、これも白い。


「まず判定の説明を行う。風子くん、こっちを向け」

「はーい!」


 勢い良く返事をして、風子は大吾に気を付けの姿勢で向き直る。大吾は里美から棒を受け取ると、


「そーれ!」


 思いっきり風子の頭に向かって振り下ろした。ヘッドギアに当たり、スパァン! と音が鳴る。どう見ても痛そうで、生徒たちから「うわっ」といった声が漏れたが、当の風子は平気そうだった。クッション性が高いのかもしれない。


 少し間が空いて、「ビー!」というブザー音とともにヘッドギアの上部が赤色に点滅する。


「このように音が鳴ってギアが光ると、有効な打突として認められたことになる。これはある程度衝撃が強くないと有効と認められず、弱いと音も鳴らず光りもしない」


 ぽん、と同じ場所を弱く叩いた。彼の言う通りにヘッドギアは何の反応も示さない。


「そしてギアが反応する場所は、頭、小手、胴の三箇所だけだ。脚にも防具は付いているが、これは安全のためのものであり他に意味はない。この防具は冬宮くんが持っているのと同じものだ」


 大吾はジェスチャーで手を上げろという指示を出し、風子はそれに従う。万歳のポーズで止まった風子の防具を大吾は小手と胴と脚の順に強めに叩いていく。脚を叩いたときだけは音も光も出なかった。


「どうだ、理解できたか?」

「たりめーだ。分かったから早くやろうぜ」

「せっかちだな、俺が何故全校生徒をここに集めたか分かってないようだ」

「全校生徒に見せつけるためだろ? それ以外になんかあるのか」

「それはある意味合っているが、一部でしかないな。俺たちは来月あたり、このチャンバラを全校規模で行おうと思っている。その時はクラス対抗戦になるだろうが……今回の北野くんとの戦闘は、そのデモプレイといったところか」


 大吾のその言葉に健斗は納得した。なるほど、道理で二本目の終了直後には案があったわけだ。随分前から考えていたに違いない。そういえば前に新たな行事も計画しているという言葉を聞いた気がする。これがその新行事の一環ならば、春香や里美がやりきった表情を見せるわけである。

 しかし彼女らの笑顔とは対象に、生徒たちからそれほど芳しい反応はない。まばらに「へぇ、なるほどなぁ」と乾いた感想が聞こえてくるだけだ。


(まあ、聞いただけじゃスポーツ大会に一競技追加したようなもんだしなぁ)


 剣道やスポーツチャンバラが好きな人でもない限り、あまり喜びようはないだろう。健斗がそう思っていると、


「本番のときはもちろん全員参加だ。剣道などのように一対一の勝負ではない! 参加者全員が刀を手に取り、入り乱れる乱戦形式を取らせてもらう! 奇襲をするも伏兵を配置するも、正々堂々と戦うも君たちの自由だ! もちろんフィールドは体育館などというせせこましい場所ではなく、学校の敷地全体を使うことになる!」


 明らかに場の反応が変わる。大吾が言ったことはすなわち、大人数で校舎内や校庭を走り回って相手と戦うということだ。そんな規模での戦闘はなかなかできるものではない。誰もが未経験であるその内容に胸が踊ったのか、体育館内にワクワクした空気が漂う。


「そしてこの瀬戸海大吾、デモプレイでも手抜きはしない! 北野くんとの真剣勝負でもあるからな! 今回は三人でチームを作り、三対三で同規模の戦闘を行う! どうだ北野くん、受けてくれるか!」


 言葉の矛先が自分に向かった。返答は考えるまでもない。


「おう! やってやろーじゃねーか! 俺一人で三人倒して決めてやるぜ!」


 言ってから、気付く。一対一ではなく、三対三。つまり自分も大吾も、それぞれ二人ずつ加えてチームを作る必要があるということだ。健斗の視線が自然に、こういう場面では一番頼りになる者へと向かう。


「……あたしともドンパチやろうってわけね。いいじゃない、乗ってあげるわよ!」


 彼女は立ち上がって、大吾に向かって声を張り上げる。


「ご明察の通りだ秋篠くん! あとで乱入されるよりは最初からメンバーに加えておいた方がいいだろう!」

「地味に根に持たれてんな、一本目」

「あ、あれはいてもたってもいられなくなって……」


 生徒たちから笑いが漏れる。一本目の勝負は先週にやったばかりである。大体の生徒の記憶には新しいのだろう。健斗も狼狽える幼なじみに笑いを向けながら、三人目のことを考えていた。クラスメイトと全く話さないわけではないが、こういうときに進んで協力してくれそうなヤツは思い浮かばない。


(強いて言うなら、最近よく話すのは……)

「北野さん! そっちの三人目には、私を加えさせてください!」


 健斗が生徒会副会長を見たのと、その声が届いてきたのはほぼ同時だった。願ってもない申し出だが、彼女は生徒会側の人間である。周りの反応は完全に驚きそのものだった。


「冬宮! お前はそれでいいのか!」

「はい! 私、北野さんが好きですから!」


 春香がそう言った瞬間、驚きがどよめきに変わる。女子はキャーキャーした黄色い声を出し、男子はどこか慄いていた。


「うっそぉ、春香さんってあんなのが?」

「なんで、なんであんなやつが……!」


 自分への興味と怨嗟の視線を感じ取り、健斗は眉根を寄せた。自分が春香と友人関係であるのがそんなに不自然なのだろうか。


「け、健斗! あたしもあんたが好きだから協力するのよ! 忘れないでよね!」

「……お、おう。冬宮も夏希も頼んだぜ!」


 既に知っていることを改めて言われても困惑するだけである。とりあえずこの二人には自分の背中を預けることになるのだ。彼女らに向かって、信頼している旨を告げる。また一段と視線が増えた気がしたが、よく分からないので理由は考えないことにした。


「はっはっは! 羨ましいぞこの色男め! まあそれはどうでもいいな、こちらのチームには真田くんと風子くんを加えさせてもらう!」

「はい先輩! わたし頑張ります!」

「グミで手を打ちましょう。そしたら頑張ります」

「手厳しいが安価で助かる。さあ、どっちがより上の者であるかを決めようではないか!」

「そんなもんに興味はねーっつーの、俺はただ約束を果たしてもらえりゃそれでいい!」


 これでメンバーは揃った。あとは詳細な説明を受け、戦うだけだ。


『それでは、続きの説明と勝負の実況はこのチャンバラ愛好会会長、小野寺正晴が――!』


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