5章 決戦 健斗VS大吾(4)
またしゃしゃり出てきたあの司会によると、三本目の勝負のルールは、こうだ。
・一度でも刀による衝撃でヘッドギアに有効判定が出ると、そのメンバーはそこで脱落。
・健斗や大吾が脱落しても勝負は続行。先に相手チームを全滅させた方の勝利。
・勝負の時間は九時から十一時の二時間。開始時間にはどこにいても自由。
・時間内に決着が付かなかった場合、チームメンバーの生存数で競う。
・それでも決着が付かなかった場合は運も実力のうちということで、じゃんけん勝負。
・直接攻撃の禁止
・フィールドは校舎全域。
・立入禁止区域は職員室と事務室と体育館など、教員たち大人がいるところ。
また、勝負の全貌は学校に設置されたカメラからリアルタイムで体育館のスクリーンに映し出され、全校生徒がそれを見ているらしい。この勝負の間は他の生徒が体育館から出られないことになるので不満が出るかと思われたが、それどころか喜んで賭けを始めようとしていた。どうやら健斗たちの勝負は生徒の中で見世物となっているようだ。
「だから見世物じゃねーっつーの……」
体育着の上に身に着けた防具を触りながら、チームメンバーと決めておいた集合場所の二年B組教室でひとりごちる。刀は触ってみると軽いくせに案外固く、大吾によると強化プラスチックであるとかなんとか。耐久試験も済ませてあるので破損の危険はほぼ無く、安全らしい。
「こっちはどう考えてもいらねえよなぁ……」
腰に差した白旗を見やる。大吾と健斗にだけ渡されたものだ。用途はもちろん降参用で、旗を広げてその場で振れば降参だと認められるとの説明を受けた。その場で投げ捨てたかったが、なんとなく持ったままである。
「来たわよー、準備できてるー?」
「失礼しますー」
「おー、入れ入れ。こっちは完璧だ」
体操着に着替え、防具を付けてきた女子二人が入ってきた。少々肌寒いが、動きやすさを優先して全員半袖半ズボンである。
健斗は彼女らを誘導して近くの席に座らせる。そして彼女らの脚を眺めた。見慣れていると言えば見慣れているのだが、体操着だと事情が違う。女子の中には靴下の汚れを気にして長い靴下をくるぶし丈にする者がいる。夏希は制服でも体操着でも紺色のハイソックスを好むために当てはまらないが、春香はそれに該当しており、つまるところ普段見えない脛あたりの素肌が見えていた。引き締まった夏希のものとは違い、ほどよい肉付きで柔らかそうである。それもまたよいものだ。
「なに下ばっか見てんの。顔上げなさい顔」
「ああ、すまねえ」
注意されて顔を上げる。すると、今度は胴の防具に押しつぶされた春香の胸が……
「ていっ」
「おい待て、脚を叩くな脚を」
「あら? なんか急に叩きたくなって……そんなつもりはなかったんだけど」
刀を使って脚の防具を叩いてくる幼なじみに向かって言うと、彼女は怪訝そうな顔で首を傾げた。まったく、勘のいいやつだ。
「ところで冬宮春香ちゃんだったわよね? はじめまして……になるのかしら。このクラスにいる秋篠夏希よ。こいつとは幼なじみの仲ね」
「ちゃんと挨拶するのは初めてですね。生徒会副会長で、二年D組の冬宮春香です。夏希さんでよろしかったでしょうか? よろしくお願いします」
「そんな畏まらなくてもいいわよ。まあ好きに呼んでいいけど、そっちは春香ちゃんでよかったかしら?」
「はい、それでどうぞ。畏まらなくていいって言われても、これが私の素なので……」
「そう? どうせならもっと親しくいきましょうよ。最終的な目的は、同じみたいだし」
そう言って、ちらっとこちらを見てくる。
「……! そうですね、夏希ちゃん」
春香は背筋を正した。何故か呼び方も変わっており、どこか緊張感が漂う。それほどまでにこの勝負に気合を入れてくれているのだろうか。健斗としては嬉しい限りだ。
「よし、なんか自己紹介も終わったみたいだし、あとは開始まで待つか」
「待ちなさいよ、方針とか作戦とか決めましょう」
「作戦て言ったって俺が三人ぶっ飛ばせば済む話だろ?」
「……あんた、慢心して負けたの忘れたわけ?」
「冬宮、あいつらの弱点とか知らないか?」
はぁー、と聞こえる幼なじみのため息は無視して、春香に相手チームの情報を訊ねる。
「弱点とかじゃなくても、とりあえず相手の情報は欲しいわね」
「えっと、弱点とかはちょっと」
「運動能力の方はどう?」
「運動ですか? 里美はまあ、普通にできます。風子ちゃんは運動自体はあんまりですけど、素早いですかね。それと見たことはないんですけど、会長は色々な武術を習っていたらしくて、もしかしたら剣術も経験があるかもしれません。多分一番の強敵です」
「へぇ、空手や柔道に合気道もできるし、やっぱり結構強いのね瀬戸海さんって」
「あれ? 夏希さ……夏希ちゃんは知ってたんですか?」
「だって見……あっその、あれよ! 女子の噂の的だから耳に入ることもある感じね!」
(剣術かぁ……どんなもんなのかね)
単純な力比べなら絶対に負ける自信はないが、健斗がこれからやろうとしているのは力任せの野良剣術である。もしかしたら、物凄い剣さばきで負けることもあるかもしれない。
(いやいや、やる前から負けを覚悟してどうすんだっつーの!)
思い直し、自分を奮い立たせる。誰がどんな力を持っていようと、自分の持ちうる手札で勝負するしかないのだ。それに自分には力しかない。誰が来ようと押し切るだけである。
『開戦五分前です! 両チームとも準備はできてますか!』
ヘッドギアに内蔵されたスピーカーから例の司会の声が響く。彼は喋る内容がどちらかのチームの不利にならない範囲で勝負の実況も行うらしい。
「あれ、返事するにはどうすんだっけ」
「耳の横の……このボタンを押すことでマイクのオンオフを切り替えられますよ」
春香が自身のヘッドギアのボタンを押して、やり方を示した。
「ああそうか、サンキュー。えっと、『こっちは問題ねーぜ』」
『両者とも準備は整っているようですねー! 五分後が楽しみです!』
スピーカーと同じく内蔵されているマイクで返事を返す。ヘッドギア同士の通信はできないようで、相手チームの返答は聞こえてこなかった。
「それじゃそろそろバラけるか」
健斗が立ち上がると夏希と春香もそれに続く。そのまま教室の外に出ようとして、
「健斗。あんた一人で大丈夫よね?」
「やってみないことには分かんねーけど、そりゃな」
「じゃああたしは春香ちゃんと組ませてもらっていい? いいでしょ、ねっ」
そう言って夏希は春香と顔を見合わせる。
「えっ私ですか? 確かに誰かと一緒の方が心強いですけど……」
「お前らがそれでいいなら別にいいが」
二人以上で組んだ場合、探索力は落ちるが戦力は上がる。夏希は恐らくバランスを考えて提案したのだろう。春香にとってもそれがよさそうだったので、健斗は了承した。
「あたしたちは外を探すわ。それでいいでしょ?」
「じゃあ俺は校舎内か。そっちは任せた」
「外ですね、分かりました」
学校全域と一口に言っても随分広い。そのため担当区域を分けて相手チームのメンバーを探すことにした。階段へと駆けていく二人を見送って、健斗もゆっくりと足を進める。
五分というのは短いもので、案外早く『それでは時間となりました! 校内全てを使った勝負、ここに開始を宣言します! 両チームともがんばれー!』との声が聞こえてくる。
健斗は気を引き締めて、とりあえず近くに誰かいないかと周りを見渡した。




