市場へ
クノの依頼を受けてから3日が経過していた。
情報収集は順調にいったようで、エクトルは本格的に工房に籠り始めた。おかげでおれがヒマい。誰も客が来ない店番がヒマい。退屈だ。
「……はぁ」
何かないかな何か。
こう、心躍るイベント的なやつ。
ゲームだったら、そろそろ起きてもいい頃合だろう。
まあこれ、ゲームじゃないんすけどね。
少しは1人で外に出てみようか。
ぶっちゃけると、エクトルから店番は気が向いた時で言いと言われている。つまり、クソ真面目に1日中ここにいなくてもいいのだ。外に遊びに行っても問題はない。
だが、別の問題がある。
おれだけでは、遊べる場所も判らないのだ。
さらに、友達もまともにいない。
ぼっちだ。引きこもりだ。
これでは前世と大して変わらないな。
「あー、でもそろそろ調味料とか切れそうだったなぁ……」
食材の買い出しに言ってもいいかもしれない。
女子になると、屋台で結構色んなモノがタダもらえたりする。
市場のおっさん達に大人気だからなおれ。野菜とか勝手に増えていくぞ。気付いたらカゴ一杯だぞ。ドヤァ。
「よし行こう行こう」
このままここでヒマしててもつまらないしな。
工房へ顔を出し、エクトルに一言告げてからおれは家を出た。
のどかな風景を数分楽しめば、すぐに市街地が見えてくる。
さっきまでとは打って変わって賑やかな街並み。
西洋風の建物に石造のアーチ橋。
水路の上はゴンドラなんかが浮かんでいる。
そんな中、浮いている格好をした人物を発見した。
獣耳に尻尾、それに和風の着物という組み合わせだ。
「クノ!」
ぽーっとショウウインドウを眺めていたクノにおれは声をかけた。
「お、おお、お主か。いきなり声をかけられて驚いたぞ」
「ご、ごめん。知ってる顔見つけて嬉しくなっちゃって」
「なんじゃ。大人びてるように見えて存外マーハも子供じゃのぅ」
「そ、そうかな? まあ、外見通りってことで」
中身は社畜だが、外見は女の子です。
まあ、クノはおれのこと、なんとなく勘付いてるっぽいけど。
さすがに元社畜までは判らないだろうけど、魔族であることらへんは薄々気付いているかもしれない。
「それもそうじゃの。まあ、わらわはヒトとは違い外見と年齢が著しくかけ離れているようじゃが。ヒトからすれば、わらわはまだ子供のようじゃしの」
「実際は100歳越えてるのにね」
妖孤という種族は、まあ、長生きらしい。
ヒトの何倍も生きるのだとか。
そういえば魔族も長生きなのだろうか。
もしそうだったらどうしよう。
エクトルがおじいちゃんになってもおれが若かったらなんか嫌だな。
「それで、お主は何をしに街に出てきたのじゃ? そのかごを見るに、買い物か?」
「そんなとこ。食材買いに行こうと思ってて」
「それなら市場の方か。よし、わらわも同行しよう」
「ホントに? いいの?」
「うむ。丁度わらわもヒマをしていたからの。ここらでういんどうしょっぴんぐをしていたのじゃ」
「それでここから中を眺めていたんだね。店の中は――」
洋服屋だった。
フリフリの可愛い服がドドンと飾られている。
「クノもこういう服に興味があるんだね」
「わらわも女じゃからのぅ。興味があるかないかときかれればある。マーハはないのか?」
「わたしは可愛い服よりカッコイイ服の方が好きだなぁ。フリフリした服は動きづらそうだし、特に着たいとは思わないよ」
女性はあれだ。ウェディングドレスに憧れる傾向にあるらしいが、あれのどこがいいのかおれにはさっぱり判らない。絶対動きづらいし、確かかなり高額だったはずだ。女になっても着たいとは思わないなぁ。
でも、クノは元々女の子だし、フリフリのドレスとか着てみたいと思うのだろう。妖孤でも感性は女性のものと変わらないってことだ。
「ほぅ。まあ、趣味趣向は人それぞれじゃからの。わらわも着物ばかりでは飽きる。今度エクトルにでも創ってもらうようお願いするのも一興かもしれんのぅ」
「それはいいかも。わたしももっとカッコイイ服創ってもらいたいな」
今度創ってもらう約束だったし、クノの依頼が一段落したらお願いしてみるのもいいかもしれないな。エクトルもおれの服創りたいって言ってたし。
もちろん、今の服に不満があるわけじゃない。冒険者風の服で、動きやすく実用性も高い。現状はかなり満足している。だから無理にとは言わない。時間があれば創って欲しいくらいのレベルだ。
「マーハはカッコイイ服よりも可愛い服の方が似合いそうじゃがなぁ」
「それはエクトルにも言われたよ。でもカッコイイ方がよくない? ダメかな?」
「ダメということではないが。そうじゃの、わらわの個人的な意見だとでも思っておいてくれ」
「わかった。――っと、じゃあ、そろそろ市場に行こうか」
「うむ。向かうとしようかの。確かここから西じゃったか」
「そうだね。市場はここからそう遠くないから、時間はあまりかからないと思うよ。馬車を使えばもっと早くつくだろうけど、お金かかるしね」
「そうじゃな。歩いて行く方がいいか」
こうして、おれとクノは2人で市場に向かうことになった。




