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お風呂場での悲劇




 新妻ではないかと悩むこと30分。

 中々エクトルが風呂から戻ってこない。

 いつもなら20分くらいで戻ってくるのだが、今日はやたらと遅い。


「遅いな……」


 まあ、いつもより長風呂なのかもしれない。

 そう思い、おれは悶々と悩み続ける作業に戻った。

 このままでは、ただの嫁だ。主婦だ。

 では、どうすれば打開できるか。

 やはり、戦闘を出来るようになるしかないのか。

 魔法も使える。小太刀も持ってる。

 後は、戦い方を覚えるだけだ。


「でも、それが難しいんだよなぁ」


 ド素人のおれがどう足掻いても、急には強くなれない。

 ここはやはりオレリアさんにご教授願うしかないだろう。

 騎士だし、エクトルは腕が立つと言っていたし。

 

 それからもエクトルが戻ってくるまで、おれは悩み続けた。

 というか、エクトルがまだ戻ってこない。

 4,50分経ってるぞ。さすがに遅すぎじゃないか?

 

「様子を見に行こうかな……」


 だが、普通にお風呂に入っていたらおれがただの変態になる。

 でも、もし何かあったのならこうしちゃいられない。


「声だけでもかけよう」


 そう決めて、おれはお風呂場に向かった。

 中からは湯気が漏れている。

 お風呂場には人の雰囲気はある。普通にエクトルはいるようだ。


「エクトル、大丈夫ですか?」

「――……」

「エクトル? 聞こえていますか?」

「――……」


 なんと、返事がない。

 エクトルの性格上、おれを無視するなんて考えられない。

 なら、中で何かあったのか。


「エクトル!」


 おれは慌ててお風呂場の扉を開けた。

 すると、中には浴槽で眠っているエクトルがいた。

 余程疲れていたのだろうか。浴槽で居眠りするなんて。


「でも……」


 頭は湯船に浸かっていないが、体勢が変われば危ない。 

 ここは起こすべきだろう。

 おれは今エクトルの大きめのシャツ一枚羽織っているだけなので、足元が濡れることもない。このまま入れる。


「エクトル、起きてください! エクトル!」


 裸のエクトルをゆさゆさと揺さぶる。

 だが、唸るだけで中々起きてくれない。

 続いて顔をぺちぺち叩いてみる。

 すると、反応が大きくなった。


「ん……、マーハ……」


 目を閉じたままなので、寝言か。

 寝言で名前を呼ばれるのって、意外に照れるな。

 いやまて、照れている場合ではない。早く起こさねば。


「お、おおう……っ。ちょ、ま……っ」


 急に腕を掴まれ、おれは湯船に引きずり込まれてしまった。

 まさかの展開に、おれは目を白黒させる。

 というかエクトル裸なんだけど! 裸!

 よく見ると意外に筋肉ついてるな……。細マッチョ系か。

 などと観察している場合ではない。


「おおい! 目を覚まして~!」


 掴まれた腕を振りほどこうとするが、女の子の身体では中々に厳しい。


「って、この状況で目を覚まされても困るっ。どうにかしないと……!」


 打開策を講じるべく思考するが、焦りと恥ずかしさで中々考えがまとまらない。無理矢理エクトルの拘束から抜け出そうにも、腕力が足りないし、だからといって叩き起こしたら、さらなる悲劇を生みそうだし、八方塞だ。


「なんで工匠なのにこんなに力強いんだよ……!」


 起こさないように抜け出すにはどうすればいいんだ。

 シャツはびしょびしょだし、なんか乳首透けて見えてるし、眼帯も濡れちゃったし! どうすればいいんだーーーー!


 ――と、おれが心の中で叫んだ直後。


「な、な、な! リビングに誰もいないと思って人の気配がした風呂場に来てみれば……!」


 震える声で、何故かいたオレリアさんが驚愕に打ちひしがれていた。一指し指をこちらに刺して、今にも感情に任せて激情をぶちまけそうなオーラを放っている。 


「ど、どうしてここにオレリアさんが……」


「良い素材が手に入ったから、エクトルに渡しに来たんだ……! そしたら、誰もいないし、おかしいと思って捜してみれば……! この風呂場で……!」


「ご、誤解です! これには、海よりも深いワケがあってですね! 決してオレリアさんが思っているような意味でもプレイでもないのでご安心ください!!」


「し、し――」


「し?」


「信じられるかーっ!」


 うわーん、と。

 今にもそんな擬音が聞こえてきそうな勢いでオレリアさんは風呂場から逃げていくのだった。 

 

 ……どうするよ、これ。

 おれは絶望に身を委ね、何か色々と、諦めた。

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