エクトル邸にて
クノの依頼を受けたエクトルは、ひとまず情報収集に向かった。
そんな中おれは、依頼者であるクノと工房でまったりと過ごしていた。
「紅茶でものみますか?」
「んん、すまぬな」
「いえ、お安いご用です」
リビングにて、客であるクノにお茶を出す。
良い茶葉なのか、エクトル邸にある紅茶は中々美味しい。
「はい、どうぞ」
「恩に着る」
「いえいえ」
ソファに腰掛け、カップを持つ。
紅茶の風味が、何とも温かい。
「クノの故郷、ワノクニ、でしたっけ? それってここから遠いんですか?」
「そうじゃな。船で行けば1ヶ月あれば着く。そんな距離じゃ」
「へえ~。1ヶ月ですか~――」
って、遠いだろ!
1ヶ月あったら飛行機で地球1周どころか何周か出来るわ。
「そ、それは遠路はるばるようこそおいでくださいましたといいますか」
「そうでもない。旅には慣れておる。それに、1ヶ月という時間はわらわにとってはほんの一瞬に過ぎぬ」
「そうですか? ん、そうですかね?」
1ヶ月って結構長くね?
長いよね? アニメドラマ4話分だよ?
「ヒトの子にとっては長いやもしれぬな」
「なんだか意味深な言い方に聞こえますが。そうなると、クノはヒトと何か違うってことですか?」
「そうじゃな。わらわは妖孤であるからして、寿命がヒトとは違うのじゃ」
「あ、そうだったんですね。尻尾とかありますもんね」
「それは寿命とは関係ないのじゃが……」
「す、すみません」
尻尾関係なかったかー。
でも、狐って長寿ではなかったような。
鶴とか亀とかならわかるけど。
「てことはですよ、クノは今何歳なんです?」
見た目的に名前を呼び捨てにしていたが、もしかしたらかなりのご年配だったり……。
「わらわはまだ100年程しか生きておらぬ」
「あ、それくらいなんですね――って、100年!?」
先輩どころじゃねえ、大先輩やこれは。
「妖孤の中ではまだ若輩ものじゃ。上には上がおるからのぅ」
「クノ……クノさんでも、まだ若い方なんですね……」
「無理して呼ばんでいい。今まで通りで構わぬ」
「それなら……。はい、クノと呼ばせてもらいます」
心の広い大先輩でよかった。
前世の先輩達は、クソみたいなやつが多かったからなぁ。
さすが異世界。世界も広ければ心も広い。
「時にマーハよ、その眼帯は何なのじゃ?」
「こ、これですか?」
「うむ。もしや目が見えぬのかと思うたが……」
「――ク、ククク……。この眼帯は我が魔眼を封じ込めるためのもの。死にたくなければ、これには触らぬことだ……」
中二っぽくポーズまでとって決めてみました。
咄嗟の言い訳にしては終わっているが。
「ひょいっと」
「わああああーーー!」
いきなり変な力で眼帯をはぎ取られたぁ!
妖術かこんちくしょー!
「ふむ、見たところ普通の眼帯じゃな。特に何かを封じ込めるような代物には見えぬが」
「かっ、返してくださいーっ!」
「その慌てよう、何かあるようじゃのぅ」
悪戯っぽく笑うクノに、おれは恐怖心を抱いた。
今は右眼を意図的に閉じているからいいが、もしまた妖術で無理矢理こじ開けられたらおれが魔族だってばれてしまう。それはまずい。非常にまずい。
「ほれほーれ。眼帯はこっちじゃぞ~」
「あ、遊ばないで返してくださいよ! それがないとわたし、ダメなんですーっ!」
「なーにがダメなんじゃ? ほれ、言うてみい」
いかん、このままじゃ相手のペースだ。
どうにか打開策を講じねば。
「ぐ、ぐぬぬ……。い、言えません」
「なんじゃ、急に大人しくなったのぅ。張り合いのないやつじゃ」
「その手には乗りませんよ。わたしを苛めて楽しんでいるんでしょう? 眼帯を返してくれるまでクノとは口ききませんから。薬も創らなくていいってエクトルに言いますから」
「む、むぅ……。それは困る。薬は創ってもらわねば、わらわの身体は小さいままなのじゃ……」
案の定、クノは困った顔をした。
ふふ、計画通り。
これで眼帯は返してもらえることだろう。ちょろいぜ。
「じゃがな、お主の特殊な気配はすでに読めておる。大方ヒトではないのじゃろう?」
したり顔のクノ。
まずい、まさか勘付かれてた……?
「……」
ここは無言だ。だんまりだ。下手に喋ってはいけない。
ボロを出さないためにも、クノが飽きるまで我慢だ。
「やれやれ、案外強情者じゃの。言うておくが、別にお主を困らせたかったわけじゃないぞ? ただの好奇心というだけじゃ」
「…………」
だんまりに加え、唇を尖がらせる。
「わるかったわるかった。ほれ、眼帯は返す」
ようやく諦めたのか、クノは眼帯を返してきた。
若干身構えながら眼帯をつけ直す。
よし、これでもう大丈夫だ。
「わたしにだって知られたくない秘密の1つや2つあるんですよ」
「わかっておる。だが、いつまでも隠し通せるものでもなかろうに」
「それは……そうかもしれません」
いつかはエクトル以外の人にばれる時が来るかもしれない。
それでも、公にして過ごせるものでもない。
魔族だってばれたら牢屋行きの世界だからな。
誰だって慎重になる。
「さて、美味しい紅茶も頂いたことだし、わらわは一度宿に戻るかのぅ。ここには毎日来るが、薬についてなにか判ったらまたいの一番に教えてくれ」
「わかりました」
「ああそれと、魔物の素材が必要ならいつでも呼んでくれて構わぬぞ。わらわも手を貸すつもりじゃ」
「クノも戦えるんですね。そういうことならエクトルにも伝えておきます」
「うむ。ではの」
「はい。また来てくださいね」
ふらりとクノは工房から出ていった。
宿に戻ると言っていたので、この街のどこかにはいるのだろう。




