お披露目、終幕
今回はシハーク家のメイドのヒナ視点となっています。
久しぶりの登場ですのでここでヒナ情報をのせておきますね。
『ヒナ』
・シハーク家のメイド
・レジーナと北澤さんの武力の師匠
・めちゃくちゃ強い(物理的に)
・ちょっと抜けているところがあるが童顔で可愛いから許される
・現在のレジーナの侍女であるアイラの娘
うわっ、エミ様ったら本気でやったよ。
私が練習の時に聞いたのはもっと単調な主旋律だけのメロディーだった。
だけど音楽に疎い私でも分かるぐらい今日は音の深みが違う。
子供が踊り出しそうな明るいリズムのその曲はエミ様のオリジナル曲だ。
でもなんかこの曲平民っぽいんだよねぇ。
題名はあるのか聞いたら「ネコフンジャッタ」って言ってた。どういう意味なんだろう?
それしてもやっぱり私の主人は貴族から見ても規格外なんだ。歓声の挙がる会場に鼻高々になる。
昔から賢い子だとは思ったけど神童と呼ばれていたエミ様の双子の妹であるレジーナ様に比べるとどうしても劣ってしまっていた。
それがどうだ。両親を失ってから突然人が変わったかのように口調すら変えたエミ様は男爵当主となるとあっという間に貧しい村を建て直した。
化粧の新しい使い方を生み出し、村の特産としたその手腕はとても子供とは思えない。
それだけではなく、料理人のゴンと一緒に新たなお菓子を作り出したと思えば王都で店を出しての人気店までに成長させたのだ。
守りたい、なんて昔は考えていたのになぁ。
ちょっと大人になるのが早すぎませんかね。
もう少し守らせてくれても良かったのに。
すっかり可愛げか無くなってしまった主人の赤ん坊の時を思い出して懐かしさに目を細めた。
ふぅ、だんだん貴族の子供たちの魔術が大規模なものになってきたね。
でもエミ様に比べれば見劣りしちゃう。
それでも攻撃系の魔術を見て、どんな風に対応しようか考えるとそれなりに面白い。
おっ、もうそろそろ伯爵家の人たちも終わりか。
伯爵家最後は武芸で有名なサンダーズ家の子らしいので期待しよう。
登場したのは赤毛の少年だった。
期待通り、まだ発展途中だけどいい体をしている。
ん?どっかであの少年見たことあるような?
名前はカイディンか。
まぁ手合わせしてないなら覚えてないか。
カイディンは期待通り私好みのことをしてくれた。
まず土属性魔術で持ち込んだ苗を成長させ、三メートル程度の小さめの広葉樹を会場に出現させる。
次に風属性魔術で風を起こして落ちてきた葉っぱを全て地面に落ちるまえに半分に切ったのだ。
水属性魔術を使ってブーメランのような形をした水カッターを飛ばして切り裂き、本人も手に水で出来た剣を持ち見事な剣さばきを披露してくれた。
いくつかの魔術を使うことは一連の流れになっていれば問題ないし、混合魔術は使われなかったけれど豊富な魔力量を持っていることも十分分かったから客観的に見ても高い評価を得られるだろう。
ふぅ、いいものを見た。
いつか手合わせしてみたい。
満足して一度背もたれにもたれ掛かると司会の人のアナウンスが流れた。
「お次はグレッシェル・レジーナ様のお披露目でございます」
ッ、レジーナ様!
その名前を聞いた途端心臓か一度大きく跳ねる。
ヒナ様からレジーナ様の多大な才能を見込まれて公爵家に引き取られることになった、という話は聞いていた。
でもレジーナ様の噂は何も流れてこなかったから本当にそうなのか、ずっと不安だった。
レジーナ様が貴族なら今日会えることは分かっていたけれど、いざ実際に名前を聞くと感情が揺れる。
一人の少女が会場に姿を表した。
誰もが息を飲んだのが伝わる。
――レジーナ様は美しく成長していた。
幼い頃から奇跡のように愛らしい容姿だったけれど成長したレジーナ様はそこに神聖さが増されている。
編み込みを含んだ絹のような黒髪は腰まで伸び、歩く度にサラサラと靡く。
長いまつげに縁取られた大きな瞳が瞬き一つするその仕草さえ目を離せないのは公爵令嬢としての優美さが携えているからだろうか。
それでもまだまだ子供のレジーナ様は一切の穢れのない天使みたいだった。
着ている服は白いワンピースともいえるシンプルなドレスなのだから余計だ。
誰もがレジーナ様に見とれている。
レジーナ様は笑みを浮かべない。無表情。
恐ろしいほどに整っている顔が作り物めいて見える。不安すら暗示させる。
レジーナ様は会場の中央までたどり着くと両手を空へ掲げた。
『台風』
鈴が転がるような可愛らしい声が響く。
聞き惚れていた私たちは突如影で覆われたことに驚き空を見上げた。
空は真っ黒だった。
気温が急激に下がる。
雨の匂いがした。
不意にひどい稲光りがして、青い光が射し込み、人々を照らした。そのとたんに空が裂ける様な雷が鳴り轟く。
その稲妻を合図に豪雨が降り注ぐ。
悲鳴が上がった。
しかし、私たちは濡れない。
結界が発動したのだ。
浮かび上がった魔方陣に叩きつけられる雨の滝は全てを飲み込む恐ろしさがあった。
泣き声が聞こえた。
人々の心は恐怖一色になっている。
え、結界にヒビが!
「大丈夫だ。私がいる」
揺るぎのない自信に満ち溢れた声を辿って視線を動かすといつの間にかレジーナ様の隣に王子がいた。
王子を拝見したことはなかったけれど、あそこまで見事な金髪に蒼い瞳を持つ者は王家のものだけだというのは幼い頃から知っている。
『光筋』
王子が術名を唱える声はヒナ様も使っていた音を大きくする魔術が発動されているのか雨が結界に叩きつける音に負けず響いた。
……きれい。
分厚くかかっていた雲が去っていき、光が線となって地上へ降り注ぐ光景に思わず息を吞む。
「私はジェラルド王国第一王子アレクサンダー。いずれこの国の王となるものだ」
王子の声変わりを終えていない高くよく響く声は私の主人と同じく人を従わせるカリスマ性を伴うものだ。
誰もが耳を傾ける。
「そして彼女がこの国の王妃となる者だ。名をグレッシェル・レジーナ。
稀代の魔術師グレッシェル公爵の娘であり、私の婚約者だ」
観衆がざわめく
何人かがうめいたのが聞こえた。
王子の婚約者の座を狙っていたものかもしれない。
私はというと、実感が湧かなかった。
よく知っている少女が王子の婚約者となっている。びっくりだ。
エミ様に振り回されているので耐性があって良かった。
叫ばなくて済んだ。
だんだんと上級貴族だけでなく、男爵家の者からも不満の声がささやかだが上がってきた。
さっきの嵐を呼んだ張本人であり恐怖を感じているのかもしれない。
ずっと感じている違和感が強まる。
レジーナ様は確かに容姿端麗で勉学も優秀だったし、時々私と年齢が変わらない相手と話しているような錯覚におちいるときもあった。
でも同じぐらいレジーナ様は普通の子だった。
「静まれ」
しん、と。
王子のたった一言で水を打ったかのように、一帯に静寂が訪れた。
「彼女はかつてこの国を救った聖女と同じ全属性持ちだ。必ずやジェラルド王国の力になるだろう」
今度は皆口を開くどころか身じろぎ一つしていない。
ただ啞然としていた。
貴族でない私すら全属性持ちの凄さは理解できる。
普通なら信じないだろうが先程の魔術を見た後では嘘だというものはいなかった。
「しかし膨大な力は毒にも薬にもなるだろう。民を傷つけることもこの先あるかもしれない」
「私はそのようなことは望んでおりません」
ずっと無表情で黙っていたレジーナ様が悲しそうに目を伏せ、再び美しい声を発した。
……別人みたい。あれは本当にレジーナ様なんだろうか?
「この通り本人にその意思はない。だが国外からもレジーナを狙った輩が来る可能性もある。その魔の手から私は彼女を守ろうと思う。それは同時に国の者を守ることに繋がるだろう」
一度言葉を区切り、王子はゆっくりと視線を廻した。
「私がお前たちに要求することは一つ。王家に忠誠を誓え。
反逆する者には容赦しないが、尽力にはそれに見合う報酬を与えてやろう。俺はお前たちを守ってやる。だから、お前たちの受け継いできた家と叡知で支えろ」
いっそ清々しいまでの命令だった。
彼は確かに王子だが、それでも王子なのだ。
国王ではない。
だけれど国王の時と同じように人々は彼に頭を下げた。
そうして異例のお披露目は幕を閉じた。
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人が多すぎてエミ様が見つけられない。
あっ、いたいた。
手を振ると向こうも気づいたようでこちらに駆け寄ってくる。
そのまま人通りの少ないところまで連れてかれた。
「どうされたんですか?レジーナ様に会えました?」
「今はまだ会わないわ。でも早速狙われてるみたいなのよね。ちょっと付き合ってくれる?」
「はい。勿論です」
ごめんね。王子。
私が仕える相手は君じゃないんだ。
外から見たらレジーナはこんな感じです……。
中身との差がひどい。
次回ですが、少し前の日付に戻ります。
実は前回、順番を間違えて投稿してしまいました。
ですので時間系列がずれてしまうのですがご理解していただけると幸いです。
申し訳ございません。




