お披露目開始
今回はとある男爵視点となります。
娘の記念すべきお披露目の日。
会場に着いたというのになかなか中に入れたがらない娘は忙しくなく自らを見下ろす。
「お母様、お父様、どうかしら?髪は乱れてない?ドレスに皺が出来てしまっていないかしら?」
私の可愛い娘は朝から何度も確認している。
心配しなくても私の娘が一番可愛いというのに。
それでも普段は気が強い娘が弱気になっているとは、相当だ。
「ああ、世界一可愛いよ」
「そんなに慌ててたらみっともないわよ。背筋を伸ばしなさい」
「そんなに強く言わなくても」
「貴女は甘やかしすぎです!」
妻にピシャリと言われてしまった。
私は妻があわよくば娘が王子の婚約者にならないか、と目論んでいることを知っている。
今の国王は何人も子供はいるが女が多い。
そしてこの国では姫が国王になった事例はない。
代々男が国王となっているのだ。
このまま姫様が国王になるのでは、と憶測が飛び交い不安に駆られた者もいる中、ようやく産まれた男児。
だが、安心は出来ない。
光属性を持っていなければ国王として君臨することは出来ないからだ。
心配は杞憂だった。
彼は八歳の属性判定の儀式で光属性を持っていたことが判明した。
そうして一気に王位継承権一位にのしあがった王子。
奇跡的にそんな彼と娘は同じ学年で貴族院に入る。
まぁ、ただの男爵家である私達一家がお近づきになることなんてないんだろうが。
だというのに妻は今回のお披露目で優秀だった者が王子の婚約者になれる、という嘘か本当かも分からない話を聞いたらしく、張り切っているのだ。
王子の婚約者が決まっていないからそんな噂が流れただけだろうに。
どうせ妻のことだ。巷で流行っているロマンス小説とやらに影響されたのだろう。
妻がここ数日、口酸っぱく言ってる注意点を神妙そうに聞く娘に私はやれやれ、と首を振った。
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ドーム状の会場の天井は開け放たれている。
観客席に私達保護者は座り、子供たちは競技場に
集められた。
子供たちの晴れの舞台に興奮しているのか小声だが話し声が聞こえてくる。
しかし話し声は突如消え、静寂が辺りを包んだ。
金髪で蒼い瞳の持ち主が姿を現したのだ。
私は頭を下げた。
私だけではない。
ここにいる全ての貴族たちが頭を下げる。
貴族たちが揃って頭を下げる相手はこの国においてただ一人、ジェラルド王国の国王、エドワーズ・シルブァリル、彼だけだ。
「私は国王エドワーズ・シルブァリルである。
顔をあげたまえ」
その声は、シンとした場に染み渡った。
耳朶を撃つと、脳みそが震えた、そんな錯覚すら感じさせる。
「まずはこの日を無事に迎えたことを祝おう。我がジェラルド王国の更なる繁栄を支える次代の者たちよ。今日は我の剣となり盾となる諸君らの実力を存分に示したたまえ。我は未来ある若者を全力でサポートする」
国王はそう締めくくると拍手が沸き起こる。
もちろん私も手が痛くなるほど叩いた。
少年時代が蘇り、胸が高揚する。
これが王か。
熱にうたれる自身とやっぱり娘がこんな王家に仲間入りするなんて夢物語だな、と冷静に判断する自分がいる。
そうしてお披露目が始まった。
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身分の低い者から魔術を披露していく。
つまりは魔力量が少ない者からだ。
魔力量が多い者が身分が高いのは先祖達が過去に高い魔力量を活かして活躍したからだ。
彼らにはその血が流れている。
なので最初の方は火を出すだけだったり、魔術を発動するまでにかなりの時間がかかってしまったりと拙い魔術が多い。
「男爵家のなかでは娘が一番ね」
「あの子は頑張ってたからなぁ」
小声で得意気に言う妻に熱心に練習していた娘の姿を思い出す。
緊張しすぎなければ大丈夫だろう。
う、緊張で手に汗を感じる。
心なしかお腹も痛い。
そっと手をお腹に当てると妻が目敏く気づいた。
「貴女がそんなに緊張してどうするんですか。ほら、もう次ですよ」
「あ、出てきた!」
「静かにしてください」
「す、すまん」
ああ、大丈夫だろうか?娘の手が震えてる。
ハラハラして見守る。
係りの者が出てきて机の上に布を置いた。
魔術を活用するための道具はあらかじめ申請しておけば持ち込める。
娘が用意したのは濡れた衣服だった。
用意が整うと覚悟を決めたのか深呼吸をして術名を唱える。
『ウィンドドライ』
固定された衣服がその場で波打つ。
ここからでは感じることは出来ないが熱風が生み出されてるはずだ。
数秒後、衣服の動きが止まった。
娘が衣服を手に取り広げれば遠目からでも濡れていないことが分かる。
――成功だ。
「おお、あれは混合魔術か?」
「そうみたいね。まさか男爵家の令嬢から見れるとは」
ちょっとしたざわめきがおこる。
そうだろう、そうだろう。娘は凄いのだ。
混合魔術は難しく中級貴族でも使えないものはいる。
そんな中で娘は家にあるいくつもの服を駄目にしながら最後まで練習しきった。
成功したことにホッとしている娘の姿に目が潤む。
隣を見ると妻も同じだった。
ようやく穏やかな気分で見られる。
おっ、次で男爵家は最後か。娘の次なんてかわいそうだな、と同情しながらアナウンスによる名前を聞く。
『続きましてシハーク・エミ男爵です』
ああ、噂の少女か。
八歳にして両親を亡くし、そのまま当主となった最年少男爵。
まぁ、後ろに操っている大人がいるに決まってるがな。
「あら、あの子化粧をしてるわ」
「口に紅を差すのは女は皆やってるじゃないか。何を驚いているんだ?」
「それだけじゃないわよ。顔全体に特に目元なんかに紅以外の色を入れる新しい化粧を施してるわ」
よく遠いのにそんな分かるな、と思って隣にいる妻を見ると魔力を感知した。
どうやら「身体強化」をして視力をあげているらしい。
そこまでして見たいか!?
「最近貴族の間でも出回っているけれどあの子は特段、綺麗ね。もとから顔もいいのかしら?それとも化粧で変わってるだけ?」
ぶつぶつと呟き始めた妻は放っておくことにした。
会場に視線を戻すと係りの者が土を持ってきていた。
土?少女は土属性なのか?確かに土を造り出すのはそれなりに魔力がいるがそれすらも出来ないとは。
やはり本人は大人に操られているだけの何の力もない子供か。
最年少男爵の彼女に期待していた者は一定数いたようだ。
落胆した、声が聞こえてくる。
観客席の雰囲気に気づいているのか、いないのか、特に反応もせず少女は唐突に術名を唱えた。
『拡音』
え?無属性魔術か。
しかも音を大きくするだけの?
どういうつもりだ?
首をひねっていると別の魔術が少女の口から唱えられる。
『土球』
今度は初級魔術か。
しかも土の塊は現れない。
タイムラグか、と思ったのとほど同時、音が鳴り響いた。
大きさも音程も違う音が重なりあい、音の波が、会場を走り抜ける。
その音にはどこかしら明快で前向きな印象があり、踊り出したくなるような軽快な曲となって私達の鼓膜を襲う。
ようやく音の正体に気づいた。
「拡音」の範囲内で小さな土の球がぶつかり合いそのぶつかった時の音で曲を奏でているのだ。
言うのは簡単だがどれだけ繊細な魔力コントロールなんだ!?
固さやぶつかるときの角度まで調整しないとこんな音楽になるわけがない。
体が震えた。
それは恐怖か興奮か。
曲がやんだとたんに拍手が沸き上がった。
まだ「拡音」の効果を保ったままだったようで少女が一礼をし、
「ご清聴ありがとございました」という声が響いた
歓声があがる。
少女の言動に先程の国王の姿が重なって見えたのはきっとただの偶然だ。
北澤さんが数段パワーアップしてかえってきました。
国王はあの、国王で間違いありません。普段はちゃんとしてます。
次回はカイディンとレジーナ、アレクのお披露目を懐かしいあの人視点でおおくりします。




