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闇魔術の使い手

「私は、」

「二人とも光属性魔術を、うっ、あ」 

『余計なことを。お前も大人しくしてろ!』


ミシッとお兄様の体が嫌な音をたてる。

私の中でもカチリとスイッチが入る音がした。


口は勝手に動いた。


光羅(ヴァイト)


光の線が空から細い雨となって降ってくる。

だが少ない。


え、あれ?ありったけの魔力を込めたのに、どうして。

ああ、そういえばさっきポーション飲んでなかった。

予備のポーションどこにしまったっけ?

くっ、手が重い。

魔力切れを起こしてる。


『なんだ、この程度か。驚かせやがって』

「相手は魔物なんだろ。だったらこれでどうだ!

浄化(ケイション)』」


アレクが薄い光に包まれる。

アレクが唱えたのは魔物や闇属性魔術に対してのみ効く魔術だった。

確かにこれなら周囲に危害を加えない。


私は蔓に絡まれ身動きが取れない彼らを気にかける余裕など無かった。

所々小さく土がへこんでいる。

幸い、人には当たらなかったようだ。


『……まさかこの魔力、お前は聖女の一族か!』


聖女?かつて闇に包まれたこの国を救った聖女リリアーネのこと?

言い伝えによると聖女は国を救った後王子と結婚したらしい。

アレクは王族だ。

言い伝えが本当なら聖女の一族というのは間違いではない。


『いや、幸いにもまだ力は弱い。今ここで芽を潰してしまおう』

「どうだ?居なくなったか?」


アレクは奴の声が聞こえない。

魔術が効いたかも分からずきょろきょろと辺りを見渡す。


よしっ、ようやくポーションが取り出せた。

瓶が開かない。早く、しないと。

魔力を感じられないはずの私だが邪悪な気配が強まっているのが分かる。


力を振り絞って蓋を引っ張った。

ポンッと音をたてて蓋が転がっていく。

口に含めば吐き出しそうになる不味さが口一杯に広がる。

魔力が回復しきったのと、全てを飲みこむかのような渦まく禍々しい黒い弾がアレクに向かっていったのは同時だった。


畳み掛けるように唱える。


浄化(ケイション)


アレクに弾がぶつかるその刹那、視界が白に染まった。

何も見えない。

光ですらない白い色。


たっぷり十秒はたっただろうか。

ようやく光は消えた。

視覚は元に戻らず目がチカチカする。


だんだんと慣れてきた。

騎士や魔術師たちを拘束していた蔓は灰となって辺りを舞っている。


お兄様、は。

良かった。息してる。

生きてはいるようだ。

安心からか、たった一発の魔力に力を費やしたかのか、体は自由に動かなかった。

まるでしょっちゅう魔力切れをおこしていた二年前みたいだ。


もう二年も経ったのに。

一応、意識を失わないぐらいには成長はしていると思いたい。


だが立ち上がることは出来なかった。

私だけではない。

全員が横たわっている。

唯一立っていたのはアレクのみだった。


「レジーナ、敵はもういないのか?いないようなら指だけでも動かせ」


さっきまでの胸騒ぎはない。いないと思う。

指で地面をつついた。


「そうか、とりあえず誰かしら起こさないとな。最初の方にやられた奴らは比較的軽症だろう」


淡々と帰るための準備を進めるアレクを私はただ寝転がって見ていることしか出来ない。


その時のアレク紛うことなき人の上に立つ人間に見えた。

いろんなことを受け止めた上で被害を省みない、国のトップに立つ人間。

確かにアレクはそれ、だった。


ーーーーーーーーーーーー

あの騒動から王宮は数日の間、非常にドタバタしていた。

何しろ王宮の優れた戦力達がなす術なくやられる相手が存在したのだ。

しかも姿も分からない。

そもそも敵の存在を認識出来たのは私とお兄様と魔術師のユビンカさんだけだ。



私自身も聞き取り調査と御披露目に向けた準備で休まる暇も無かった。


ようやく時間が空いた。

私が今向かっているのはお兄様のお部屋だ。

聞きたいことがあった。

闇魔術の使い手とは一体何だったんだろう?


ん?お兄様の部屋のドアが空いてる?

別に中を覗く気はなかった。

見えちゃっただけだ。


お兄様が女性と抱き合っていた。


パチッ。

お兄様と目が合う。

顔を上げたお兄様に抱かれていた女性が振りかえった。

彼女は慌ててお兄様を押し退け私の脇を通って逃げていってしまった。


「お兄様は何をしてるんですか?今のユビンカさんですよね?」

「ご、誤解だ、レジーナ。ユビンカが襲われたことで情緒不安定になっていたから安心させようと思っただけで」


慌てふためくお兄様だけど私は何も言ってない。

大体、いつものことだ。

一応私に隠れてるみたいだけど色んな女性と会っているのにばれてないとでもおもってるんだろうか?

この兄は。


「あー、はいはい。ユビンカさんが無事で良かったですね」


ユビンカさんはあの後少し離れた位置に倒れていたところを保護された。


「それは、そうだけど。怒ってる?」

「何で私が怒るんですか?」

「だってレジーナって遊んでる男は嫌いだろう?」

「嫌いですけどお兄様は別です。だってお兄様ですもん」

「うっ、嬉しいような、悲しいような。あっ、それで何か聞きたいことでも?僕の部屋にレジーナから来てくれるなんて珍しいね」


話をそらしたな。

まぁいいや。聞きたいことがあったのは本当だし。


「ええ。闇魔術の使い手って何ですか?お父様に聞こうと思ったんですけどお父様も忙しいみたいで」

「それぐらいだったらいつでも僕に聞いて」

「分かりました」


お兄様は私以上に今回のことについて色々聞かれてるみたいなので遠慮しただけだ。

そんな不満そうな顔をしないでほしい。


「それで、闇魔術の使い手のことだけどこれは闇属性の力が強いものを指す言葉だよ。例え複数の属性を持っていてもその中で得意不得意があるだろう。得意な属性っていうのは元々力が強いものだ。その人と相性がいい」

「お父様は火でお兄様は水ですよね?私は何でしょう?やっぱい光属性かな」


わりとまんべんなく練習してるけど光属性はお母様の病気を直すために特に時間を多くとってる。


しかしお兄様は首を振った。

真剣な表情にドキッとする。


「いや、それはただ光属性の魔術の練習の結果だ。レジーナの最も強い属性は闇、つまりレジーナも闇魔術の使い手なんだ」

「え!?」


奴は私は闇魔術の使い手じゃないって言ってなかった?

というかお兄様はあんまり闇魔術を教えてくれないから全然使ったことないし。

ピンとこない。


「レジーナはいつも石を持ち歩いてるよね?それは闇属性を抑える魔石だ」

「これが?」


私は首にいつもぶら下げているペンダントを取り出す。

雫型の黒い石がついているものだ。

どうしたんだっけ?これ。

そうだ、胡散臭い神官に魔力属性判定の儀式の時にもらったんだった。

お兄様に以前見せたときずっとつけてるように言われたからいつも身に付けてる。


そういえばあのお爺ちゃんも私は闇属性が強いって言ってたような?


「へぇー、この石にそんな効果が。でもどうして抑える必要があるんですか?」

「闇属性っていうのは特殊で闇属性が一番強いと他の属性を持っていても使えないんだ。その分、強力でもあるんだけど、レジーナの場合は全属性が潰れてしまうからね。だから今までもあまり闇属性魔術は教えなかったんだ」

「そうだったんですか。それは困りますね」


光属性魔術が使えないとお母様に「治癒(ヒール)」がかけられない。


「レジーナ、絶対にその石を外さないで。あいつは黒魔術の使い手を狙ってる。お願いだから、レジーナ、いなくならないで」


お兄様は時々こんなことを言う。

お兄様は母がいつ亡くなってもおかしくない状況だったからかもしれない。


「はい。私はお兄様の妹です。ずっとそばにいますよ」

「うん、ありがとう」


お兄様は恐る恐る私の頭を撫でた。

お兄様に触れられるのは別に平気だからそんなに悲しそうに撫でなくてもいいのに。


真面目な回なのでレジーナが大人しいです。


そしてお兄様、せっかく森で株が上がったんですから、女遊びはほどほどにしましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 上げた株を何かしらで下げてプラマイゼロにしていくお兄様特有のスキル(自覚無し) いつか刺されそうでワクワクします……! まあ、上手い具合に対処しそうですが、ほんとそういう所が信用ないんやぞ。…
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