王子と私
この話はお披露目よりも前の話となります。
謎の魔物が現れたあの事件とも少し絡んでいるので思いだしながら読んでいただきたいです。
40話において最後の方ですが『人が多すぎてヒナ様が』という文が誤っていました。正しくは『人が多すぎてエミ様が』です。すみません。
誤字脱字報告ありがとうございます。修正いたしました。
お披露目まで数日にせまったある日のこと。
はぁ。やっと終わった。
最近礼儀作法の授業がより一層スパルタになってる。
もうすぐ王子との婚約発表がされるからなんだろうけど、ずっとピンっと全身をのばしているから身体中バキバキだよ。
早く部屋に戻ってアイラにマッサージしてもらおう。
部屋に向かい、廊下を歩いているとよく見知った後ろ姿を見つけた。
考え事でもしているのか普段よりもだいぶゆっくり歩いている彼に、ちょっとした悪戯心が芽生えてきてそろりそろりと忍び足で近づく。
肩をポンッと叩いてわぁと驚かすだけのつもりだった。
あと、一メートル。
もう一歩足を前に出したところで何故か回し蹴りが飛んできた。
「おおっ。危なっ!」
間一髪スキップで避ける。
「だれだっ!ってレジーナ?何してるんだ?」
「ここは私の家なんだけど。カイディンこそどうしたの?」
「母上が紅茶の茶葉を届けるように言われてな。ジオルド様にはよく魔術を見てもらってるし、そのお礼だ」
「ああ、そうなのって、それはいいんだけど突然蹴ってこないでよ。私じゃなかったらどうする気?」
「後ろから気配を消して近づいてくるから反射的に足が出ちまったんだよ」
お前は武士かっ!
女の子にだーれだって言われるイベントがあったらどうするつもりだ。
いや、そもそも貴族令嬢はそんなことしなかった。
「ちょっと驚かせようと思って。でもカイディンはどこに向かってたの?今日はお父様は城だし、お母様の部屋もこっちじゃないよ」
「ローズディアナ様に紅茶は渡したぞ。今はレジーナの部屋に行こうとしてたんだが会えて良かった」
うっ、笑顔が眩しい。
最近のカイディンは幼さが抜けてきて両親譲りの凛々しい顔つきになってきた。
お兄様のような甘いマスクでは無いものの順調にイケメンに育ってる。
男は顔じゃないと思ってる私でさえもカイディンの笑顔は心臓に悪い。
「う、うん。私に何か用事?」
「アレクから城に来るように、と伝言を預かっててな」
アレクとは森でのあの騒動の時以来お互いにバタバタしていて会えていない。
別に避けているわけではないけど私はアレクに逆らってお兄様を選ぼうとしただけになんとなく気まずい。
だけど婚約発表はもうすぐだ。
今まで以上に一緒にいる時間は増える。
今のうちに解決しないといけない。
「分かった。時間をつくって行くよ。それにしても何でカイディンが?いつもなら普通に手紙とかなのに」
「たまたまここに来る前にアレクと会っていただけだ。あの事件のせいかアレクの元気が無かったな」
「そう。心配だね」
「……アレクと何かあったのか?」
勝手にカイディンは鈍感キャラだと思ってたのに変なところで鋭い。
何かあったか、か。
考えこんでしまって返事が出来なかった。
「はぁ。レジーナとアレクはビジネスパートナーとかいう変な関係だよな。……俺はレジーナにとってビジネスパートナーか?」
真顔で聞いてきた。
はぁ?と言いたくなった。
何を行ってるんだ、カイディンは。
「そんなわけないでしょ。カイディンは私の友達だよ!」
「……ああ、そうかよ。それじゃあ一つ言わせてくれ。危ないことに巻き込まれるんじゃねぇ!」
「いひゃい、いひゃい!」
頬をむにゅと引っ張られた。
どうやらかなり心配をかけてしまったらしい。
二年たっても相変わらずカイディンは過保護だ。
ううー、でも頬はやめてほしい。
地味に痛い。
ーーーーーーーーーーー
そして後日、伝言で伝えられたように城に来た。
アレクは自室にいるらしい。
数回ノックをする。
「アレク、レジーナです」
「ああ、一人で部屋に入って来てくれ」
「アレクサンダー王子、それは、」
一緒に来てくれていたアイラが後ろからやんわりと拒む。
前までは平気だったのに数ヶ月前から自室で二人きりになることを禁止させれしまった。
貞操的なあれだ。理由を聞いた時はマジか、唖然としてものだ。
変な気分だった。
アレクもそれは分かっているはず。
なのにわざわざ言ってきたということはどうしても二人きりが良いらしい。
「ねぇ、ちょっとだけ見逃してくれないかしら?」
「姫様まで。……分かりました。それでは私も中にいれて下さい。音は消していいですから」
「アレク、それでもいい?」
「ああ、構わん。二人とも入れ」
ドアを開けて部屋に入るとアレクが「消音」の魔方陣を用意していた。
「消音」は魔方陣無しだとずっと魔力を調節していないといけないので魔力を一度に貯めておける魔方陣での使用が一般的だ。
向かい合っているソファーにお互い座り早速発動させる。
「それで二人きりで話したいことって?」
「レジーナはこの国の王妃になる覚悟はあるか?」
前置きもないこの質問。
答えなんて決まってる。
「そんなのないよ」
私はただの女子高校生だったんだって。
あるわけがない。
アレクは分かっていたのか、やっぱりな、という顔をする。
「そうか。またあの時のようなことがあればジオルド様を優先するのか」
随分と極端な話だ。
この前は私が敵の戦力にされて国に被害加える、とかいう憶測でしかなかった。
だから今目の前で苦しんでいるお兄様を優先した。
でも例えもっと酷い状況だったとしても、
「私はきっと何度でも私の大切な人を守るよ」
私は聖女なんかじゃない。
そんなに立派な人間になんかなれない。
「分かった。レジーナはそれでいいじゃないか。俺も自分の守るべき存在を守る為に尽力をつくすぞ。だからもし俺とレジーナのそれぞれの目的が対立したときは正々堂々やりあおう」
「へ?」
予想外の言葉に変な声が出た。
俺様なアレクのことだからてっきりふざけるな、とか言われて説教されるかと思った。
アレクの価値観を押し付けられたときは全力で反発しようと覚悟してたのに。
それで恨まれてゲーム通りに事が進んでもその時はその時だ。
「おい、間抜け面だぞ」
「なっ、失礼な!だってアレクはそれでいいの?」
「誰もが俺の言うことを聞いてくれるのは当たり前じゃない。そして俺はレジーナの家族に見合うほどの対価は与えられない」
「別にちょっとぐらいのお願いなら対価なんていいよ。あっ、でもちゃんとお礼は言ってね」
亭主関白みたいな人はごめんだ。
「……ああ」
アレクは一度驚いたように目を見開いてから、フワッと笑った。
不意打ちは本当にやめてほしい。
誤魔化すようにペコリと頭を下げた。
「それじゃあ、これからもビジネスパートナーとしてよろしく」
「そうだな。まずはお披露目を成功させるぞ」
「え、あれ本当にやるの?」
初っ端から目立ちにいきすぎだと思う。
私はどちらかと言えば平和にいきたい。
「当然だ。やらないという選択肢などあるわけないだろう」
うん。やっぱりアレクは俺様だ。
私は誰もが皆仲良くなれるとは思っていなくて、合わない人もいると思うんです。
アレクとレジーナは合わない人たち、です。
だけど時間を重ねていくうちに少しずつ距離は近くなっていきます。




