第10話 原作知識でヘッドハンティング
古びた雑貨店のカウンター脇にある隠し扉。その奥に続く階段を降りると、そこは地上とはまったく異なる澱んだ空気が支配する空間だった。
石造りの壁には等間隔に魔導ランプが掛けられ、青白い光が薄暗い通路を照らしている。天井は低く、どこか湿った土と古い血の匂いが混じり合う。地上で感じた帝都の華やかさは微塵もなく、ここにあるのは生臭い裏社会の気配だけだった。
しかし、この魔導ランプとはいったいどういう原理なのだろうか。魔法がこの世界に存在するのは知っているが、魔導具の仕組みについてはさっぱりわからない。原作小説にもそういった詳細な描写はなかったはずだ。もっとも、マリアによれば「よくわからないですけど、魔導師さんが作ってるみたいですよ」とのことだったが……
「おっと、足元に気をつけな。階段がすり減ってやがるからな」
先導する、片目を眼帯で隠した男が振り返ることもなく低く呟く。(この見た目に反して、案外優しいのか……)と、俺は少しだけ胸をなで下ろす。もっとも、この雰囲気では最悪の事態も想定して油断は禁物だが。
俺とマリアはその後に続き、慎重に足を運んだ。足音がコツコツと静まり返った地下通路に冷たく反響する。
「しかし、こんなところに一体どんな連中がいるんだ?」
俺が探るように尋ねると、眼帯の男はフンと鼻を鳴らした。
「表向きには死んだことになっている奴や、国を追われた魔導師、あるいは身寄りのないフリーの殺し屋や情報屋の溜まり場さ。ま、お前さんたちが求めているような『汚れ仕事』の専門家も、運が良けりゃ転がってるってわけだ」
案内されたのは、通路の突き当たりにある、重厚な鉄格子の嵌められた大きな扉の前だった。
男が腰からジャラリと鍵の束を取り出し、一番大きな鉄鍵を鍵穴に突っ込んで回す。重い金属音が響き渡り、ゆっくりと扉が押し開かれた。
中から漏れてきたのは、葉タバコのような煙と、ピリついた肌を刺すような緊張感だった。
広めの地下ホールのような空間には、いくつか粗末な丸テーブルが置かれ、それぞれに顔をフードや仮面で隠した怪しげな者たちが陣取っている。誰もが他者を信用していないような、鋭い眼光を周囲に向けていた。
俺たちが足を踏み入れた瞬間、ホールの空気がわずかにピクリと動いた。
数対の冷ややかな視線がこちらに集まる。貴族の格好をした若い男と、その後ろに控える従者であろう女という組み合わせは、この場においてはあまりにも場違いで、格好の獲物にでも見えたことだろう。いくつかの口元に、値踏みするような下卑た笑みが浮かぶのが分かる。
(それに、俺がルミナス家の悪名高い嫡男だということも、裏社会の連中なら薄々勘付いているかもしれないな……。むしろ、俺の身元すら探れないような連中なら雇う価値もないか。裏の世界で生き抜くには情報こそが何よりの武器だ……なんて、裏社会のイロハも知らない俺が偉そうに言うことでもないが)
俺はこの重苦しい空気感に少し気圧されそうになるが、なんとかポーカーフェイスを保つ。表情には出ていないはずだ。
(ちなみに、マリアは大丈夫か……?)
そう思い、後ろに視線を向けると――マリアは一切動じていなかった。むしろ涼しい顔で周囲を見回し、面白そうに目を細めている。
(うちのメイドは、本当に大したものだ)
内心でそう感心しながら、俺は軽く鼻で笑ってみせた。
「……ほう、若造のわりに肝が据わってやがるな」
案内役の男が感心したように呟き、ホールの奥にあるカウンター席へと俺たちを促した。
「で、お前さんたちに貸し出せるような『駒』は、あそこの隅にいるぞ」
男が顎でしゃくった方向を見ると、ホールの片隅にある薄暗いテーブル席に、一人の人物がぽつんと座っていた。
その姿を見た瞬間、俺の視線は釘付けになった。
年齢は二十代前半くらいだろうか。引き締まった体躯は無駄な肉が一切なく、戦闘に特化したしなやかな曲線を描いている。最大の特徴は、鮮やかな深い青緑色の長髪で、それが頭の後ろの高い位置で大きなリボンとともに一つに結い上げられていた。
服装は、日本で言うところの「忍び装束」のような機能的かつスタイリッシュなものだ。黒を基調とした布地に、要所を鉄のプロテクターで固め、肩や腕の動きを妨げない構造になっている。腰回りには鮮やかな紫色の帯が巻かれ、背中には朱塗りの鞘に収まった小柄な刀が斜めに背負われていた。
(忍者かよ……この世界にそんな連中いたっけ?)
ふとそんな疑問が頭をよぎるが、今の記憶の引き出しには見当たらない。妹にでも聞けば一発で答えが返ってきただろうが……この場では考えても仕方ないと、その思考を脳の隅に追いやり、俺は彼女をじっと観察した。
ただ、その雰囲気がどうにも尋常ではない。
テーブルに肘をつき、手元に置かれたグラスをじっと見つめているその顔立ちは、整っているというよりも、どこか切羽詰まったような、強い焦燥と悩みを帯びたものだった。琥珀色の瞳は激しく揺らめいており、周囲の喧騒など一切耳に入っていないかのように、深い憂鬱の澱に沈んでいる。
「……どう思う?」
俺が小さく呟くと、傍らのマリアも興味深げに目を細めてその人物を観察した。
案内役のチンピラめいた男がピンポイントであの人物を指名したということは、きっと何か理由があるはずだ。一見して近寄りがたい雰囲気を放つあの若者が、俺のような貴族の子供の胡散臭い要求を聞き入れ、依頼を受けてくれるという確信――あるいは、そう踏ませるだけの「事情」が彼女にはあるのだろう。
「そうですね……見たところ、遥か東方の忍びの流派を汲む者か、あるいはそれに近い特殊な戦闘技能を持つ傭兵ではないでしょうか。私の『勘』ですが、腕は確かそうです」
マリアがそう言うなら間違いないだろう。なぜか彼女のこういう見立てはいつも正確だ。改めてマリアの観察眼に感心しつつ、ふと「本当にただのメイドなのか?」という疑問がよぎるが、今は思考の範疇外としておく。
「よし、声をかけてみるか」
俺は案内役の男に軽く頷き、青緑髪の女性が座るテーブルへとまっすぐ歩み寄った。
近づくにつれて、彼女のただならぬ気配が肌を刺すように伝わってくる。俺たちが間近に立っても、彼女は気づいた素振りを一切見せない。だがさすがに裏の世界で生きる者がそこまで鈍感であるはずがなく、おそらく俺たちの存在に気づきながらも、一切興味を払っていないだけなのだろう。
「――おい」
俺が低い声で声をかけると、猛禽類が獲物を捉えるかのような鋭さで、琥珀色の瞳がチラッとこちらを向いた。そして反射的に、彼女の細い指が背中の刀の柄に伸びる。
「失せな……ルミナス家の坊っちゃん」
冷たく静かにそう呟く。
こちらの素性はやはりすでに割れているらしい。
ただ、その声音には殺気というよりも、どこか底知れない疲労の色が滲んでいる気がした。そして警戒はしているようだが……どうにも様子がおかしい。子供だと思って油断しているというよりは――。
……!ああ、そういえば……!
彼女を間近で見て、俺は記憶の糸を急激に手繰り寄せた。これならいけるかもしれない。そんな思考を巡らせる俺に、彼女は苛立ちを隠さず言い放つ。
「聞こえないのか? 失せろ」
冷たく突き放すような口調だったが、俺はびくともせず、彼女の向かい側の席に勝手に腰を下ろした。マリアはその背後にピタリと控え、周囲を威圧するように冷徹な視線を巡らせる。
「……話がある」
不機嫌そうに眉をひそめる青緑髪の女性に、俺は涼しい顔でそう呟いた。
「こっちにはない。……もう一度言う、失せろ」
「お前の名前は? そんな死にそうな顔をして、何を抱え込んでいるんだ?」
俺のストレートな問いかけに、彼女の瞳がわずかにおびただしい鋭さを帯びた。
「……ふざけているのか? 人の話を聞け。失せろ、殺すぞ」
「お前の抱えているその面倒な問題、この俺が片手間ついでに解決してやってもいいんだがな」
その瞬間、彼女は鼻で笑った。冷ややかな、完全なる自嘲の笑みだった。
「本当に人の話を聞かないガキだな。……さっさと失せな。これ以上絡むなら、本当にその綺麗な顔を切り刻むぞ」
脅し文句の割に、殺気は微塵も伴っていない。さっきからずっとそうだ。
だが、その理由も原作の知識があれば明白だ。
俺は動じることなく、テーブルの上に肘をついて彼女をじっと見据えた。
「――お前、とある組織と大きな問題を抱えているんだろ」
その一言を聞いた瞬間、テーブルの上の空気が一瞬にして凍りついたように重くなった。彼女の琥珀色の瞳が大きく見開かれ、信じられないものを見るように俺を凝視する。
「……な、なぜそれを……」
「ふん、図星か」
俺は表向きは冷静さを保ちながらも、内心で小さくガッツポーズをした。
――原作の知識が、初めて決定的な形で生きた瞬間だった。
以前、妹に「帝都には裏社会のいかがわしい店があって、そこに流れ着く、ワケありの腕利き美女を助けるサイドエピソードがある」というのを、半ば強制的に教え込まされたことがあった。彼女は大事な家族を人質に取られ、長年とある組織のために理不尽にこき使われており、原作の主人公がそれを意図せず解決するというストーリーだ。妹曰く「不遇な最強美女にはロマンがある」とのことだったが、俺にはよくわからん趣味趣向だったのをさっき思い出した。
まあ、つまりだ。物語が始まる遥か前から、彼女はこの絶望的な状況に囚われていたということになる。このいかがわしい地下室にいる美女など「例の」彼女以外に見当たらないし、外見的特徴からも、あの妹が熱弁していた「シズル」本人で間違いないだろう。
「……何が目的だ」
彼女は椅子から身を乗り出し、俺の胸倉を掴まんばかりの勢いで詰め寄ってきた。背中の朱塗りの鞘がカチャリと小さな音を立てる。
「知ってるとは思うが、俺はルミナス侯爵家のボンボンだ」
アライアの名を出した瞬間、彼女の眉間にさらに深いシワが刻まれる。
「アライア・ド・ルミナス……そんなことはわかっている。回りくどい真似はやめて、目的を言え」
「わかったわかった。端的に言おう、俺はお前の『腕』が欲しい」
俺は真剣な眼差しで、彼女の揺らぐ琥珀色の瞳を真正面から捉えた。
「お前はとある組織に、大事な妹を人質に取られ、理不尽な条件で駒にされようとしているのだろう?」
彼女は息を呑み、絶句した。
「……貴様、その不愉快な口を今すぐ閉じろ。ただのガキに、何がわかるっていうんだ……!」
否定しないということは、彼女が事実上それを認めたようなものだった。
「ふん、俺に突っかかっている暇があるくらいなら、さっさと妹さんを助けに行けばいいだろうに」
それができないと分かっていながら彼女を煽ってみせる。すると彼女は悔しそうに歯噛みし、自分のこめかみを押さえて苦悶の表情を浮かべた。
「……お前になにがわかる! 私にだって行けるものなら行きたいさ! だが、妹がどこに囚われているかすらわからない! 私の力があれば、あんな組織を壊滅させることくらい容易だというのに……!」
叫ぶような彼女の声が、地下ホールの一角に痛いほど響き渡る。周囲の者たちがちらりとこちらに視線を向けたが、すぐに面倒事を避けるように興味を失って目をそらした。この地下では、他人の揉め事に関わるのはご法度なのだ。
ちなみに、彼女の言っていることは事実だったはずだ。原作においてこの「シズル」というキャラクターは、作中屈指の戦闘力を持つ最強の一角として描かれている。そんな彼女の目を掻潜って妹をさらい、巧みに監禁しているのだから、組織側も相当周到に動いたのだろう。「最強のキャラクター相手に、どうしたらそんな真似が可能なんだ……?」と、かつてそのエピソードを教えられた時は不思議に思い、妹に聞いたが、「そこはご都合主義なんだよお兄ちゃん」と一蹴された。
「――わかるといったら?」
俺はあえて、余裕をたっぷり含んだ笑みを浮かべてみせた。
「……は?」
彼女の動きがピタリと止まる。まるで化け物でも見るような目で、彼女は俺を凝視した。
「わかる、と言ったんだ」
「嘘をつけ! わかるなら、私の妹がどこにいるか言ってみろ!」
……あれ?
そういえば、どこだったか……?
調子に乗って知った風な口を叩いてしまったが、シズルの妹の監禁場所はどこだったか? 必死に頭の中で記憶の糸を手繰り寄せる。間違いなく、あのうるさい愚妹からネタバレまじりに聞いたはずなのだが、いかんせん詳細なロケーションまではスッポリと抜け落ちていた。
「……やっぱり知らないんだな。くだらない嘘を吐いていたのなら、今すぐその首を切り落とす」
今度こそ本物の殺気が肌を刺す。――不味い。
冷や汗が背中を伝おうとしたその時、背後から聞き慣れた涼やかな声が降ってきた。
「帝都の東区、古い廃教会の下にある地下水脈の合流地点。連中はそこに『妹さん』を監禁しておりますよ。――そうですよね、アライア様?」
「ん……あ、ああ……もちろんそうだとも」
絶妙なタイミングで助け舟を出したのは、他ならぬマリアだった。
(助かった……! いやいやいや、待て待て待て!)
なぜマリアがそんなピンポイントな機密情報を知っているの? うちのメイドは一体全体なんなの……?
「な、なんだと……?」
シズルは完全にフリーズしていた。口を半開きにしたまま、文字通り言葉を失っている。ちなみに、俺も盛大にフリーズしている最中だった。
「そ、そんな馬鹿な……! なぜお前がそれを知っている……!?」
(むしろ俺がそのセリフをそっくりそのままマリアに投げつけたいところだよ!)
と叫び出したい衝動をぐっとこらえ、俺は必死に呼吸を整えてから虚勢を張った。
「……貴族の持つ情報網を舐めないことだ」
もちろん、実際には貴族の情報網などではなく、「原作という名の知識」と「うちのメイドの意味不明な情報収集能力」のおかげなのだが、ここでは堂々と偉そうにしておく。
「さすがはアライア様。裏の事情まで、完璧に掌握されていらっしゃいますね」
隣で聞いていたマリアは、どこか誇らしげな、しかしどこか意味ありげな笑みを浮かべている。その瞳は「なんで貴方がそんな裏組織の機密をご存知なのですか?」と無言で問いかけてくるようだった。――いや、それはこちらのセリフなのだが、今のこの場で問い詰めるわけにもいかない。あとでじっくり問い正してやると心に誓い、俺は話を強引に進めた。
青緑髪の女性は激しく動揺しながらも、必死に頭をフル回転させているようだった。
「……本当か? 本当にそこに私の妹が……?」
「疑うなら、今すぐその目で確かめてみればいい。お前ほどの腕があるなら、組織のアジトを単独で壊滅させるくらい余裕なんだろう?」
彼女は激しく息を荒げ、ぐっと拳を握りしめた。怒りと、絶望と、そしてわずかに射し込んだ希望が、その琥珀色の瞳の中で激しく渦巻いている。
「……条件は何だ? 私のような厄介な女を、貴族の坊っちゃんがタダで助けてくれるわけがない。その情報の対価として、私に何を要求する?」
律儀だな、と俺は内心で感心する。確か原作の「シズル」というキャラクターは、筋道や恩義を重んじる非常に義理堅い性格だった。正直、もう妹の監禁場所を教えてしまったのだから、俺たちのことなど無視して今すぐ救出に向かえばいいものを。
まあ、そんな彼女の性質を見越した上で、あらかじめ情報を提示したわけなのだが。
「さっきも言っただろう――お前の『腕』が欲しい」
鋭い眼光で問う彼女に、俺は本題をゆっくりと告げた。
「……続けろ」
「俺はこれから、この世界で好きに生きるために色々と面白いことをするつもりだ。当然、俺の富や立場を狙う輩や、邪魔をするクズどもがいくらでも湧いてくる。そういう連中の露払いを、影からコソッとこなしてほしいんだよな。なにせ、今の俺はか弱い坊ちゃんなのでね」
俺は椅子からすっと立ち上がり、彼女の目の前に真っ直ぐに手を差し出した。
「お前は強いんだろう? ついでに、お前の妹も我がルミナス家で手厚く保護してやってもいい。――どうだ? お前にとって悪い条件じゃないはずだ」
彼女は差し出された俺の手と、揺るぎない自信に満ちた俺の瞳を交互に見つめた。
やがて、深く息を吐き出すと、ふっと自嘲気味に、しかしどこかすっきりとした笑みを浮かべた。
「……はっ。ただの頭の悪いガキかと思っていたが、随分と大きく出たものだな」
彼女は椅子から軽やかに立ち上がり、その引き締まった体躯で俺を真正面から見据えた。
「腐っても、俺はルミナス侯爵家の嫡男だからな。それなりの権力と財力はあるさ。妹さんには、これからは日当たりのいい安全な場所で不自由なく暮らさせてやりたいだろ?」
「……それはそうだが……もし私が、その話を蹴ってあなたを裏切ったらどうする?」
「妹を安全な場所に置いたまま、そんな簡単に裏切る薄情な奴には見えんよ。それに、お前が万が一にも二心を持たないよう、妹さんには最高の生活環境と『手厚い警護』を用意してやるさ」
「……チッ。結局、妹が人質というわけか」
「人質なんて人聞きが悪いな。俺がするのはあくまで『手厚い保護』だ」
「……まったく。本当に、食えないしたたかな坊っちゃんだな」
その呆れたような、しかしどこか納得したような返答に、彼女は完全に気圧されたように目を見張り、そして――
「だが、悪くない」
これ以上ないほど鮮やかで、美しい笑みを浮かべた。
「……いいだろう。私の名はシズル。今日から、この命と刃はアライア様、あなたのために使わせていただく」
シズルと名乗った彼女は、片膝をつき、差し出された俺の手に自分の熱を帯びた手をしっかりと重ね合わせた。
「ああ、大いに期待しているぞ、シズル」
俺たちが固い握手を交わした瞬間、背後でマリアが満足げに小さく手を叩いた。
「おめでとうございます、アライア様。また一人、美少女がアライアコレクションに加わりましたね」
「やめんか。そんな悪趣味なハーレムコレクションを作った覚えはない。あと命名センスをどうにかしろ。いいか、シズルはあくまで俺の『護衛』だ」
相変わらず、最後の最後で余計な一言を刺してくる口の悪いメイドである。
ツッコミを入れる俺の背後で、シズルがくすくすと愉快そうに声を漏らして笑った。
「シズル。ぐずぐずしている暇はない、さっさと妹を助けに行ってこい。ここは俺たちだけでどうにかして帰るから気にするな」
「では、遠慮なく」
「手助けはいるか?」
「不要。雑魚の相手など、数分で終わらせてきます」
そう言ってシズルは一瞬の残像を残すだけで、音もなく闇の中へと姿を消した。
こうして、俺は無事にシズルを手に入れることに成功したのだった。




