部屋の中の靴跡
最初に気づいたのは、玄関だった。
床に泥がついている。
靴の跡。
昨日、雨は降っていない。
外の地面も乾いている。
なのに、玄関の床にだけ
泥の足跡が残っていた。
玄関から廊下へ。
廊下からリビングへ。
足跡は、まっすぐ奥へ続いている。
嫌な予感がした。
足跡は、寝室の前で止まっていた。
振り返る。
玄関を見る。
外から入った跡はない。
つまり――
この足跡は、部屋の中から始まっている。
背中に冷たいものが走る。
靴箱を開けた。
自分のスニーカーを取り出す。
裏を見る。
足跡と同じ模様だった。
完全に一致している。
喉が乾く。
昨夜の記憶を思い出す。
帰宅した。
シャワーを浴びた。
ベッドに入った。
そこから先が思い出せない。
そのとき気づく。
泥が乾いていない。
触る。
まだ湿っている。
つまり。
ついさっき付いた。
ゆっくり視線を落とす。
自分の足の裏に、
泥がついていた。
そして、
もう一つ気づく。
足跡は、
寝室から玄関へ向かって続いている。
つまり、
昨夜、外に出た。
覚えていないだけで。
玄関のドアを見る。
鍵は閉まっている。
チェーンもかかっている。
一度も開いていない。
そのとき、
玄関の方から
鍵の回る音がした。
カチャ。
体が凍る。
玄関を見る。
ドアは動いていない。
それなのに、
床に
新しい泥の足跡が現れる。
玄関から。
ゆっくり。
廊下を進む。
ぬち。
ぬち。
足音は聞こえない。
でも、
足跡だけが増えていく。
こちらに向かって。
ぬち。
ぬち。
寝室の前で止まる。
自分の足のすぐ前。
そこで終わる。
そして、
もう一つの足跡が現れる。
今度は、
寝室の中から。
ゆっくり。
こちらに近づいてくる。
その瞬間、
思い出す。
昨夜のこと。
暗い道。
泥の地面。
足音。
振り返ったとき、
誰かが、立っていた。
その記憶が浮かんだ瞬間、
寝室の中で
ぬち。
もう一歩、
足跡が増えた。




