【証拠はいらない×ホラー】最後の相談
事務所のドアが開いた。
「……相談、いいですか?」
入ってきたのは小学生くらいの少年だった。
ランドセルを背負っている。
俺はソファから体を起こす。
「どうぞ。愚痴でも人生相談でも歓迎」
少年は椅子に座った。
しばらく黙ってから言う。
「学校で……いじめられてます」
俺は黙って聞く。
少年はぽつぽつと話した。
悪口。
無視。
教科書を隠されること。
最後に小さく言った。
「もう、死ぬしかないって思って」
静かな部屋。
俺はコーヒーを一口飲む。
それから言う。
「別に死ななくていい」
少年が顔を上げる。
「特別に頑張る必要もない」
「君はそのままで十分価値があるんだから」
少年はしばらく黙っていた。
それから、小さく笑った。
「ありがとう、おじさん」
少年は帰っていった。
ドアが閉まる。
俺はコーヒーを飲む。
テレビではニュースが流れていた。
「次のニュースです」
「本日午後、○○小学校の生徒が屋上から飛び降り――」
手が止まる。
画面を見る。
相棒がテレビを指差す。
「ねぇ」
ニュースの写真。
そこに写っていたのは
さっきの少年だった。
沈黙。
相棒が言う。
「この子」
「いじめが原因みたい」
俺は何も言わない。
ニュースが続く。
「なお、この生徒は――」
「誰にも相談していなかったと見られています」
テレビを消す。
事務所は静かだ。
コーヒーを飲む。
苦い。
証拠は、ない。
けれど。
俺は確かに、あの子の話を聞いた。




