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【証拠はいらない×ホラー】思い出せない相談
事務所のドアが開いた。
「……相談、いいですか?」
男だった。
年齢は三十くらい。
落ち着かない様子で椅子に座る。
俺は言う。
「どうぞ。愚痴でも人生相談でも歓迎」
男はうなずく。
「ありがとうございます」
少し黙ってから言った。
「……大事な相談があります」
「聞くよ」
男は口を開く。
それから、しばらく話した。
長く。
真剣に。
俺はうなずきながら聞いた。
そして男は深く頭を下げた。
「ありがとうございました」
帰っていった。
ドアが閉まる。
コーヒーを飲む。
相棒が奥から顔を出す。
「相談?」
「ああ」
「どんな話?」
俺は口を開く。
言葉が出ない。
「……?」
思い出せない。
内容が、何一つ。
「覚えてないの?」
相棒が笑う。
「さっきまで聞いてたのに?」
俺はノートを開く。
来訪者記録。
今日のページ。
そこに一行。
絶対に思い出すな
沈黙。
相棒が言う。
「何て書いてある?」
俺はノートを閉じる。
「……何も」
そう言った瞬間。
机のスマホが震えた。
知らない番号。
メッセージが届く。
開く。
思い出さなくて正解です
あの話を覚えている人は
みんな死にました




