2曲目『課題とToDoを洗い出そう。目指せ学祭中庭ライブ!』
「「「カンパーイ!」」」
「か、カンパイです……」
午後の講義の後、僕は再びアオ先輩に拉致られた。
連れてこられたのは小さな居酒屋。
「入部おめでとう、モヤシちゃん」
「今日の演奏、すごかったぜ!」
「ええバンドになりそうやなぁ~」
アオ先輩、イナズマちゃん先輩、シロ先輩の順で僕に話しかけてくる三人。
「今日のセッション、最高だった。明日からさっそくバンド練習開始するからよろしくね、モヤシちゃん」
「モヤシこのヤロー、おめーマジでうめぇのな! 演奏中にアオが笑ってるのなンて、ゴッド先輩がいたとき以来だぜ」
「ホンマに上手かったで、モヤシちゃん~。あ、ゴッド先輩っていうんは二月までウチらのドラムやってくれた先輩やで~。ゴッド先輩が卒業してもーてから、ウチらはドラムが不在でなぁ。アオがえらい気難しくて、新しく入ってもすぐに追い出してまうんよ~。でもモヤシちゃんは大丈夫そうやねぇ」
「ゴッド先輩はマジ神だったけど、モヤシちゃんも全然引けを取らない、いやむしろモヤシちゃんの方がリズムキープ力で優れてる。ボクは絶対にキミのことを手放さないしバンド掛け持ちも許さない。キミはボクら専属のドラマーだからね、モヤシちゃん」
「をいをいをい、モヤシが引いてるぜ、アオ。まーでも俺様も今日のセッションは気持ち良かったぜ。ドラムのタム回しとベースがバチバチにユニゾンしてたときなンて、く~っ!」
「ウチも、モヤシちゃんの演奏は安定感があってホンマに好きやわぁ。ちなみにゴッド先輩がゴッドなんは、演奏が神なのはもちろんなんやけど、名字が神代やからやで~」
「あ、あはは……その、ありがとうございます」
僕は、少し居心地が悪い。
先輩方が無限に褒めてくれるからだ。
先輩たちは僕に対して、何をそんなに気遣っているんだろう?
僕は迫力のないドラムしか叩けないモヤシ野郎で、全然大したことないのに。
あんな面白味のないドラム、オリジナリティのないドラム、音源丸コピなドラムを褒められてしまうと、なんだか逆に心配になってくる。
何か、裏があるんだろうか?
そういえばアオ先輩は、僕がアオ先輩のバンドの専属になることにやたらとこだわっているように思う。
――あっ、もしかして!
「ドラムって、人数少ないんですか?」
「「「……ん?」」」
三人が同時に首を傾げた。三人揃ってメチャクチャ可愛いなオイ。
「そうだね。入部も決まったし、■■大学軽音学部について少し説明しておこうか」
早々に空になったジョッキをタァーンッとテーブルに置いたアオ先輩が、フライドポテトが山盛りになった皿を僕の前に置く。
「ボクら軽音学部は、毎年部員が百数十人にもなるマンモス集団。今日時点では確か百八人だったと思うけど、どうせまたすぐに数十人の新入生が入ってくる」
「ひゃく……すごいですね」
■■大学一の名は伊達じゃない。
「そのうち、約半数がギター」
アオ先輩が、フライドポテトの山を真っ二つに分ける。
「そんなにですか?」
「まぁ一言でギターと言っても、エレキとアコギが混ざったり重なり合ったりしてるけど。で、残り半数のうちさらに半分が」
フライドポテトがさらに半等分に。
「ボーカル」
やっぱり、ギター人口が一番多い。
続いて取っつきやすいボーカルか。
「残った四分の一のうち、人口はおおむねベース、キーボード、ドラムス、その他の順」
「その他というと?」
「管楽器が少し。ジャズやジャズロックのトランぺッターが一人とアルトサックスが二人」
「ちなみにドラムは?」
「二・三・四回生で五人。キミが入ったから六人だ。もう少し入ってくれると安定するけど」
百数十人の集団に対して、ドラムが六人。
なるほど、これは奪い合いになる。
アオ先輩たちが僕みたいな平凡なドラマーにまで気を遣うわけだ。
「だから明日以降、モヤシちゃんには永遠にバンド勧誘が舞い込むと思う。だけど、本当に申し訳ないんだけど、全部断ってほしい。ずっととは言わない。けど、十一月の学園祭までは」
「大丈夫ですよ」
僕は少し、居心地が悪い。
こんな、アオ先輩ほど声が良くて歌が上手くて作詞作曲もできるような天才美女に頭を下げられるほど、僕は大したドラマーじゃない。
ドラム不足という環境が、アオ先輩に頭を下げさせているんだ。
「みんな、僕になんて見向きもしませんって。僕は……このとおり、モヤシ野郎だから」
僕は逃げるようにして席を立つ。
「と、トイレ行ってきます!」
♪ ♪ ♪
「アレ、どう思う?」
モヤシの後ろ姿を見ていた三人だったが、やがてイナズマが口を開いた。
「ホントに謙遜か? だとしたら嫌味が過ぎるが、あの自信なさげな目は多分マジだぜ」
「それこそ信じられへんってぇ~!」とシロ。「あんなにドラム上手い子なんて、大学中探したっておらへんよぉ~」
「だよな! 三・四回生がスタンディングオベーションするなンて、滅多にねぇのに」
「でも多分」アオがジョッキを舐める。「彼はあの拍手を、自分ではなくボクたちに向けられたものだと勘違いしている。……昨日、寝言聞いたんだけど。彼、バンドをクビになったとこらしいんだよ。細マッチョなこととか、リズムキープ重視なところとか。いわゆる典型的な、ムキムキな『ザ・ドラマー』って感じとは少し違うでしょ? 前のバンドが、モヤシちゃんにそういう暑苦しいバンドマン像を押しつけてたんだとしたら――」
「あ~」イナズマが天を仰ぐ。「分かるぜ。確かにあのドラムは正確な反面、どうしたって面白みには欠けちまう。俺様たちみてーなテクニカルなロックにゃモヤシのドラムはどハマりするンだが、普通のローテンポロックで『ノ』れるかっていうと微妙かもしれねぇ。ベースにせよドラムにせよ、メトロノームに忠実過ぎる奴は『絶妙なノリ』が出せねぇ」
「何にしても、良かったやんアオ。ウチらはモヤシくんのドラムを必要としとる! モヤシくんはウチらのバンドでなら大活躍できる! ウィンウィンやでぇ」
「そうだぜ! これからは褒めて褒めて褒めちぎって伸ばしてやろうぜ!」
「……それは、待ってほしい」
アオの声が場を冷やす。
「あん?」
「え~?」
「あの子を褒めるのは、様子を見ながらにしてほしい」
「でも、事実上手いンだぜ。褒めて何が悪いンだ? 委縮しながら叩くよりも、褒められながら叩くほうが本人だってぜってー嬉しいだろうが」
「委縮していようがいまいが、今日のモヤシちゃんの演奏はパーフェクトだった。現状でパーフェクトが出せるなら、わざわざ変化させるべきじゃない。それに」
アオは少し言いにくそうにしてから、
「あの子は絶対、引く手あまたになる。バンドをたくさん掛け持ちされて、ボクのバンドがいい加減にされると、…………困る」
「てめぇ」
イナズマが立ち上がる。
「そういう自己中なのは――」
「分かってるだろ!?」
アオも立ち上がった。
「……十一月までだよ。許してほしい」
「まぁ~まぁ~まぁ~まぁ~!」
冷えきった空気を、シロがほぐす。
「今日はめでたい日なんやからケンカはカンニンやで~。ほら、もうすぐ赤ちゃんも来るし」
「アッアノゥ……どうしたんですか?」
モヤシが帰ってきた。
「何でもないよ、安心して。それより」
アオが場を取りなす。
「改めて自己紹介をしようか。ボクは海野碧、ハタチ。見てのとおりの美女で才女。趣味は作詞作曲と動画UP。好きなミュージシャンはボク自身。スリーサイズは上から――」




