1曲目6
(何だ、コイツ……)
ドラムパートリーダーは目を疑った。
軽音学部で一番上手いはずの自分ですら叩けないルーディメンツマシマシのえげつない16ビートを、貧乏ゆすりボーイが寸分たがわず叩ききっている。
貧乏ゆすりボーイの左足が、ハイハットペダルを保持している足が、激しく振動している。
メトロノームかと思うほど正確に振動している。
(そう、そうだ。上手いドラマーは、必ず左足でテンポを取る。左足でテンポが取れないヤツは、安定しない。アップテンポな左足は、貧乏ゆすりのように見える。というか、貧乏ゆすりをして足首と膝を鍛えるんだ。先代のドラムパートリーダー、ゴッド先輩のように!)
ドラムパートリーダーは、もちろん耳も疑った。
だが、耳よりもなお疑ったのが、目だ。
(アオが……笑ってる)
あの、気難しいことで有名なアオが。
リズムキープにメチャクチャうるさくて、数bpmでもズレようものなら、途端に顔をしかめるアオが!
かく言うドラムパートリーダーも、つい先日、アオのバンドを追い出されたばかりなのだ。
(は、ははは……お前、ついに理想のドラマーを見つけたんだな!)
ちょんちょん、と隣のサブパートリーダーが肩をつついてきた。
彼女は青い顔をして、パートリーダーにメトロノームを見せる。
216bpm。
演奏と、メトロノームの針の動きが完全に一致している。
彼は数秒待つ。
針の動きは演奏と完全に一致している。
さらに数十秒待つ。
やはり寸分の狂いもない。
……結局、演奏が終わるまでメトロノームを見つめ続けたが、最後の最後まで1bpmすらズレなかった。
(人間業じゃない)
パートリーダーは恐怖する。
(絶対おかしい。こんなの、人間ができることじゃない。コイツ、天才だ。リズムキープの、天才。リズムキープ力の――…バケモノ)
♪ ♪ ♪
演奏が、終わった。
僕は顔を上げる。
いつの間にか、全身汗だくになっていた。
アオ先輩が、振り向いた。
アオ先輩が笑っている。
顔が、全身が、喜びを表現している。
「「「「「わぁあああああああああっ!」」」」」
大歓声が沸いた。
上級生たちが、新入生たちも、さっき落ちたドラム志望の人すらもが、熱狂しながら拍手をしている。
それは、そうだろう。これほどの演奏だ。
土台を守りつつギターの代わりまで務めるイナズマちゃん先輩の鋭いベース。
ギター不在で足りない音域をさり気なくカバーしつつ、けっして邪魔にならないよう裏方に徹するシロ先輩のキーボード。
そして何より、ぞっとするほど可愛くて艶やかな声から繰り出される、聴く者の心を虜にさせるボーカル。
216bpmという早口な歌なのに、ただの一度もつっかえることなくスラスラと、それでいて情熱的に歌い上げたアオ先輩。
この拍手は、賞賛は当然だ。
――ドワワァァアア~~~~ンッ!
視線がドラムパートリーダー先輩に集まる。
先輩が大きく息を吸って、
「――合格っ‼」
たくさんの拍手。
それは、抑圧されたバンド生活しか知らなかった僕にとって、生まれて初めて得られた快感だった。
脳が痺れる。
全身がゾクゾクする。
高揚感で頭がパンクしそうだ。
「ようこそ」
アオ先輩が、汗だくで微笑んでいる。
そうして、手を差し出してきた。
「ようこそ、ボクたちのバンド――キング・ホワイト・ストーンズへ! 今日からキミが、ウチのドラマーだ。最高の演奏を頼むよ?」
「はい!」
僕はその手を取った。
じんわりと、二人分の汗が混じり合う。
そんな感覚すら、愛おしくて誇らしい。
「アオ先輩のご期待に添えるよう、全力を尽くすと誓います!」




