14曲目3
「五分もある!」
アオ先輩が、俺たちが敬愛して止まないバンドリーダーが、叫んだ。
「一曲目『モヤシマシマシロックンロール』のAメロ・Bメロ・サビ! ドラムソロ一小節で300bpmにリズム変、二曲目『青天の霹靂』に繋いで――」
アオ先輩が、天才ミュージシャン『青子緑子』が、残り四分三十秒で完結可能な極上のメドレーをその場で組み立ててしまった。
最高だ。
最高だよ『青子緑子』!
俺はスティックを振り上げる。
演奏が始まる。
「――もももも・ももも・ももももやし♪ もやしマシマシロックンロール♪」
一秒も、1bpmもムダにはできない。
ただ慌てて走って演奏すれば良いというわけではない。
各曲には、理想のテンポが、理想のbpmがある。
この演奏には、アオ先輩の将来が懸かっているんだ。
人ひとりの人生の懸かった、五分間なんだ!
「――イケメンな彼女を恋に落とす衝撃♪ セイテンノヘキレキ♪」
イナズマちゃん先輩が飛び跳ねながらベースを演奏する。
「――キミのホワイトアウト溶かしてみせるよ♪」
シロ先輩のシンセサイザーはいつだって冷静で安定していて、暴走しがちな俺たちの演奏を優しく包み込んでくれる。
「――血豆だらけの手指でギターかき鳴らし♪」
くれなゐ先輩が情熱的なギターを奏で上げる。
「僕の音楽でキミの心に火を灯す血とくれなゐ♪」
くれなゐ先輩ってば、また左手から血を流してる。
痛いだろうに、あれで笑顔だってんだから恐れ入る。
やっぱり、少年ジャンプの主人公なのかもしれない。
「――生れ落ちる前からキミのことが好きだった♪ 一生をかけてキミを探してきた♪」
アオ先輩の歌声が聴こえる。
半年前、入部試験のときに聴き惚れて、練習の度に惚れ直し、半年もの間聴き続けているにもかかわらず、飽きることができなかった声。
一日として忘れることのできなかった声。
今なお俺を夢中にさせ続ける歌声。
「――曲がり角は全て曲がった♪ 祈るような気持ちで探し続けた♪」
アオ先輩!
アオ!
「――キミだけがボクの居場所だった♪ さまよい込んだキミのココロ、海の中、ボクはやっと、ボクの居場所を見つけた♪ 0と1、生と死、青と緑のハザマで♪」
カンペキなリズム、カンペキなbpm。
カンペキなバンドメンバー、カンペキな演奏。
アオ先輩が歌いきるのとまったく同時に、全ての機材が沈黙した。
外部バッテリーが、役目を終えたのだ。
いつしか、空は晴れていた。
――ワァアァアアアアアアアア~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!
割れんばかりの歓声と拍手を耳にして、俺は俺が、自分の仕事を果たせたことを知った。
アオ先輩と目が合った。
アオ先輩が、大きく口を開けて笑っている。
俺は大急ぎで立ち上がり、中庭の片隅のテントを見る。
「あぁ、良かった」
厳しそうな男性――アオ先輩のお父さんが、そっと拍手しているのが見えた。




