1曲目4
「ほら、行くよ」
食べ終わるや否や、アオ先輩が立ち上がった。
「エッドコヘ!?」
「部活」
「アッソノゥ……僕、授業あるんですけど」
「でもキミ、ボクのハダカ見たよね」
「さっきのは不可抗力と言いますか……」
「見たよね?」
「アッハイ」
北向きのアパートを出て、大学へ向かう。
徒歩五分。
僕が正門に入ろうとすると、
「こっちだよ」
アオ先輩が僕の手を引く。
引っ張られるままついていくと、
「ここは……」
「部活棟」
ところどころにひびの入った、年季モノの三階建て。
「こっち」
薄暗い階段を上り、二階、三階へ。
じょじょにタバコ臭くなっていって、同時に僕の緊張が高まっていく。
その緊張が頂点に達したときに、
「おっせーぞゴルルルルルルァア!」
「ンヒィ!?」
ドスの利いた声に怒鳴りつけられ、僕は悲鳴を上げた。
「もう試験は始まってンだぜ!? バンマスなら時間くらいちゃんと守れってンだよアオ!」
声の主は、少女だった。
いや、ここにいるってことは大学生なんだろうけど、何というか全体的に『小さい』んだ。
その少女が僕に向かってニカっと笑い、
「んお、わりぃわりぃ。おめーに向かって言ったんじゃねぇから気にすンな」
「そうだよ、気にしないでね」とアオ先輩。
「てめぇは気にしろよ!」と少女。
「あはは、ゴメンゴメン」
まるで悪びれる様子もなく、アオ先輩。
相変わらず口だけで笑う。
何というか、漫才を見せられているような気分だ。
少女の隣では、昨日会った『でかい』女性――白玉シロ先輩が微笑んでる。
シロ先輩のすぐ横に立っていることもあって、この少女がことさら小さく見える。
大きな二重まぶたの目、人形みたいに整った顔立ち、気の強そうな眉。
背中まで伸びた長い金髪のツインテール。
金髪ツインテール!?
改めて字面にしてみると、すごいな。
ゲームかアニメの世界かよ。
身長は、僕よりも頭一つ分も低い。
一四〇センチあるかないか。
上はぶかぶかなパーカー、下は何を履いているのか見えない。
そして、細いナマ足の先にあるのはドでかいバッシュ。
極めつけに、少女が武器みたいに肩に担いでいるのは、通常のものよりもひと回りもふた回りも大きなベース。
な、な、なんというか、
「……サイズギャップ萌え?」
「おおおっ!?」
少女が駆け寄ってきた。
僕の肩をバンバンと叩く。
「分かってんじゃねぇか! そうそう、サイズギャップ萌えだぜ! ガールズバンドなんて所詮は見た目が命、曲なんて誰も真剣に聴いちゃいねーんだからよ、こうやって工夫してンだ」
「イナズマちゃん、誰も聴いてない、は言い過ぎ」とアオ先輩。
「けどよアオ、可愛いバンドとダサいバンドがあったら、どっち見に行くよ?」
「可愛いバンド」
「だろー?」少女――イナズマちゃん? が僕に再び笑いかけてきて、「俺様ぁ性格がこんなんだからよ、せめて色目使ってバンドに貢献しようとがんばってやってンだ。だっつーのに肝心のバンマス様は遅刻しやがるし……」
はぁ~と大げさにため息をついてみせるイナズマちゃん先輩。
なるほど、このバンドにおけるツッコミ役兼苦労人枠はこの人らしい。
前のバンドの駿河九郎くんと同じポジションだ。
「ところで赤ちゃんは?」
アオ先輩が廊下を見回しながら言う。
「赤ちゃん?」
「あぁ、うん。ウチのもう一人のメンバーなんだけど」
「赤ちゃんはアカンわぁ~」
シロ先輩がスマホから顔を上げた。
手で涙を作ってみせて、
「心が風邪引きサ~ンバ」
「また? 長いね」
「まぁ『今日』の『結果』が出るまでは、さすがになぁ~」とシロ先輩。
「俺様ぁ赤の気持ち分かるけどな」とイナズマちゃん先輩。
「あはは。イナズマちゃんってば言動おっさんなのに心は乙女だよね」とアオ先輩。
「てめーは心がおっさんだけどな」
女三人寄ればなんとやらで、ずいぶんと姦しい。
けど今、『遅刻』って言わなかったっけ?
「アッソノゥ……それで今から、何が始まるんです?」
三人が一斉にこちらを向いて、
「「「入部テスト――だよ」だぜ」やで~」




