11曲目2
「過労ですね」
診察室で、医師はそう言った。
「点滴をしながら一日、二日眠れば快復します。すぐに退院できるでしょう」
あれから、大変だった。
救急車を呼んで、付き添ってくれる家族のアテもなかったので、バンドメンバーの中で最も頼りになるイナズマちゃん先輩と、男手が必要なときに、ということで俺が同行した。
アオ先輩は入院することになった。
二日以内に退院できるという話ではあったが、『緊急搬送で入院』という字面に、俺もイナズマちゃん先輩もすっかり衝撃を受けてしまった。
「……知らなかったンだ」
集合病室に運ばれ、点滴を受けているアオ先輩の手を握りながら、イナズマちゃん先輩が言った。
「コイツが、ここまで思い詰めてただなンて」
アオ先輩は、眠っている。
点滴を受けながら、すぅすぅ、すぅすぅと眠っている。
「もっと早く力になってやるべきだった。俺が気付いてやるべきだったのに」
イナズマちゃん先輩は、泣きそうな顔をしている。
「イナズマちゃん先輩の所為では……」
月並みな言葉しか浮かんでこない。
思えば俺は、イナズマちゃん先輩やシロ先輩と、言うほど深い関係を築けていない。
「あぁ、クソッ」
そのとき、イナズマちゃん先輩が衝撃的な一言を発した。
「誰か、ライブハウス枠と中庭枠をトレードしてくれねぇかな」
「えっ!?」
青天の霹靂。
稲妻ではないが、本当に、頭の上にカミナリが落ちたような衝撃だった。
「そんなことが!?」
「んをっ? あぁ、過去に例がねぇわけじゃねぇンんだ。特に、ライブハウスは人気があるからな。昼間でも色とりどりの照明バチバチで飾れるし、スモークも拡散しねぇし、音は良く響くし。純粋に音だけを聴かせたいなら、ぶっちゃけ中庭なンかよりライブハウスの方がよっぽど良い。そりゃあ客足は中庭に劣るが、ガッツリ音を聴いてくれる身内客なンかにゃ、ライブハウス枠の方がウケは良い。だから過去にも、中庭枠をゲットしつつもライブハウス枠のバンドとトレードした例があるンだ」
「それだ!」
俺は立ち上がる。
「イナズマちゃん先輩、行ってきます!」
「んををっ? 何だ何だ」
「アオ先輩を、お願いします。俺は俺で、できることをやりたいと思います」
「ん。それはアオの、『キング・ホワイト・ストーンズ』のためになることなのか?」
「はい。恐らくは、ですけど」
「そうか」
イナズマちゃん先輩が、二カッと笑った。
相変わらず、どこまでもイケメンな人だ。
ちっさい体に、おっきな心。
天晴イナズマ。
『キング・ホワイト・ストーンズ』の支柱。
「なら、後は任された。行ってこい!」
「はい!」
♪ ♪ ♪
向かった先は、キャンパスだ。
俺はスマホと足を最大限に使って、軽音楽部のオーデ上位五位バンドのバンマスたちを探し出す。
『キング・ホワイト・ストーンズ』の学祭ライブハウス枠と、彼らの学祭中庭枠を交換してもらえないか、頼み込むためだ。
キャンパスに着いたのが、ちょうど正午。
そこから部室や部室棟、メインキャンパスなどを走り回ること数時間。
俺は、すべてのバンドのバンマスたちと話をすることができた。
……結果は、ダメだった。
皆やはり、この大きな舞台のために、一年以上、人によっては二年も三年も掛けて努力し続けてきた人ばかりであり、『あり得ない』と断られた。
アオ先輩がショックのあまり倒れたことを知っている人もいたが、
『可哀想だが、それはそれ、これはこれ』
というような返事だった。
こちらも、アオ先輩と父親の確執までもを話すわけにはいかなかったため、アオ先輩の壮絶な覚悟までは相手に伝えきれなかった。
中にはアオ先輩を暗に常識知らずと批判する人もいたが、そこは、
『あくまで俺の独断専行ですから』
と念押しした。
『倒れたアオ先輩を見るに見かねて』
と説明することで、何とか溜飲を下げてもらった。
事実、これは俺の暴走なのだ。
正攻法のやり方じゃない。
何にしても、俺の行動は不発に終わってしまった。
が、
「まだ……まだ、手はある」
中庭出場者たちから話を聞く中で、俺はとあるバンドが中庭枠を掴んだことを知った。
軽音楽部とはまた別の軽音サークルに所属しているそのバンドの名は、『サンオブサン』。
そう、四月の頭に俺を追放した、夏野太陽のバンドだ。
アイツに、中庭枠をトレードしてもらえるように頼み込むのだ。
正直俺は、アイツが怖い。
アイツに真正面から威圧されただけで、ちょっと詰められただけで、震えそうになってしまう。
だけど。
くれなゐは、戦った。
アオ先輩も、戦った。
次は、俺が戦う番だ。




