9曲目2
そんなわけで、人生二人目の彼女が爆誕した。
いや、くれなゐ先輩曰く先輩は俺の元カノだから、二度目にして一人目なのか。
ただ、くれなゐ先輩には本当に本当に申し訳ないんだけど、何しろ十年近くも前のことだから、俺は付き合っていた頃の記憶が曖昧なんだ。
その所為か、くれなゐ先輩が元カノということに妙な違和感を覚えている。
まぁ、昔のことは置いておこう。
今の話をしよう。
そう、くれなゐ先輩が、俺の彼女になってしまったのである!
「すみません、私、指硬くて」
いつものフリフリな地雷系ファッションに身を包んだくれなゐ先輩が、俺を見上げてくる。
「もっと女の子っぽい手指の方が男の子は嬉しいんでしょうけど……」
「そ、そんな! 全然気にならないです!」
くれなゐ先輩は俺より背が低い。
俺は一七一センチで、くれなゐ先輩は一六〇センチくらいだろうか。
あの後、なし崩し的にくれなゐ先輩の告白を受け入れてしまった俺の手を取って、くれなゐ先輩が歩き出したのだ。
向かう先は中央広間に面した講堂。
一回生・二回生共通の『一般教養』の講義が行われる場所だ。
俺たちは同じ講義を取っている。
だから、付き合いはじめて早々、授業デートというわけだ。
「嬉しい」
くれなゐ先輩が、ぎゅっと俺の手を握る。
夢にまで見た恋人繋ぎだ。
「ずっとずっと夢だったんです。やっちゃんとこうして、再び彼氏彼女になるのが」
「は、はい」
「カレカノなんだから、敬語は禁止です。先輩呼びも禁止」
「くれなゐ先輩も敬語ですけど」
「私のはキャラ付けだから」
「自分で言っちゃうんですか」
「うふふ。ほら、やっちゃん」
「は――う、うん」
「~~~~っ!」
くれなゐ先輩――くれなゐが頬を染め、最高の笑顔を見せてくれる。
マジか。
マジでくれなゐが、このめちゃくちゃ美人でギターも上手い女性が、俺の彼女になったのか。
くれなゐは人目を惹く。
今も、キャンパスを歩く男子たちがチラチラとくれなゐを見ている。
ふ、ふふふ、ふはははは!
世界よ、この子は俺の彼女だぞ。
灯くれなゐ二十歳。
俺の、彼女だぁああああああああああああ!
……正直、告られて熟考もせずに受け入れてしまったのは、我ながらちょっと軽薄じゃないかと思った。
俺の恋愛経験の少なさからくる価値観かもしれないけど、『付き合う』というのは相手の人生を背負うレベルの決断だと思うからだ。
けれど俺は、その場で受け入れてしまった。
くれなゐは俺の元カノらしいし、
前世で世界を救ったくらいの善行を積まなきゃ付き合えないレベルの美少女だし、
それに、地雷系でときどきメンタルがヤバくなるものの、くれなゐが実はメチャクチャ健気で良い子で、誰よりも努力家だということを、この四ヶ月を通して俺は知っているし。
そして、何より。
「くれなゐ、好きだよ」
「私もです!」
この、穴を。
胸にぽっかりと空いた、凍えそうなほどの隙間風を生み出す穴を、何とかして塞ぎたかったから。
俺の心は今、ぐちゃぐちゃだ。
海野アオに裏切られて、手酷いトラウマを植え付けられて。
三日や四日、寝て起きたくらいでは、まったく回復しなかった。
一週間経っても、一ヶ月経っても、一年経っても立ち直れないのではないだろうか、と怖かった。
心の拠り所が欲しかった。
情けない話だけど、寄りかからせてくれる存在が欲しかったんだ。
ぎゅっと、手を握った。
くれなゐが微笑んで、その手を握り返してくれた。
大丈夫。
くれなゐがいてくれる。
くれなゐの温かな手が、俺をちゃんと、ここに繋ぎとめてくれている。
だから大丈夫。大丈夫。




