1曲目2
「「「「「カンパ~イ!」」」」」
「ね、モヤシちゃん。飲んでるかい?」
酒が入ると、アオ先輩はすごくなった。
「飲んでませんよ! まだ十九ですよ、僕」
「ふふん。ボクの酒が飲めないっていうのかい?」
「だから飲めませんって」
アオ先輩が僕にもたれかかってくる。
僕は緊張して、貧乏ゆすりをしてしまう。
「なんだか暑いなぁ」
アオ先輩がもぞもぞと革ジャンを脱ぎはじめる。
「キミも脱ぎなよ」
「や、ちょっ」
「引き締まった体をしてるねぇ。モテるんじゃないのかい?」
「モテませんよ。僕はモヤシ野郎だから……」
「そうかい? お腹なんて、ずいぶん鍛えられてるようだけど」
先輩が僕のTシャツをまくり上げてきて、指先で僕の腹筋を撫でさすってくる。
「何かスポーツは?」
「ヤ、ヤッテマセン」
先輩の指が僕の太腿にまとわりつく。
「つまりこの腹筋も、太腿の筋肉も、ドラムで鍛え上げてきたってわけだ」
「えっ!? 何で――」
僕がドラムをやっていることを、アオ先輩にはまだ話していないのに。
「そりゃ、分かるよ。これだけ見事な貧乏ゆすりを見せられればね」
どどどどういうこと!?
僕が混乱していると、
「新入生による一発芸大会~!」
宴会場の中心で司会進行をしているシロ先輩が、とんでもないことを言いはじめた!
「エッ、イッパツゲイ!?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
いけしゃあしゃあと言ってのけるアオ先輩。
「聞いてませんケド!?」
「大丈夫だよ。その貧乏ゆすりを見せれば、絶対にウケるから」
どういうことだよ……。
「はい、ギターパート志望の■■くんでした~! 次は誰かなぁ~? 我こそはという人!」
「はーい」
「ンヒィ!?」
何てこと! アオ先輩が僕の手を持ち上げて、僕の声マネをしやがった!
「おっ、アオが連れてきた子やなぁ。ほら、立って立って~。前出てきて~」
「あ、ああぁ……」
言われるがまま、宴会場の中心に立たされる僕。
新入生と上級生、数十人もの視線にさらされて、僕は気絶寸前だ。
「何をやってくれるんかな~?」
「アッソノォ……」
「貧乏ゆすりやりまーす」
またしても、アオ先輩による声マネ。
「あ、じゃあこのイスに座って~。はい、三・二・一・Q!」
あぁもう! どうなっても知らないからな!?
♪ ♪ ♪
……ウケた。
新入生にはそうでもなかったけど、上級生たちには馬鹿みたいにウケた。
みんな、
『はえぇえ~~~~っ!』
『すげぇ! 速過ぎて見えねぇ!』
みたいな感じてめっちゃ喜んでた。
謎だ。
大丈夫なんだろうか、この部活。
僕が席に戻るときにも、
『お前ドラマーだろ!?』
『ウチのバンドに入ってくれ!』
みたいな声をたくさん掛けられた。
そのたびにアオ先輩が、
『ダ~メ。モヤシちゃんはボクのだよ』
って牽制していた。
そうして、今。
「ボクの目に狂いはなかったよ」
さらに酒が入ったアオ先輩が、僕にしな垂れかかっている。
「ね、軽音部に入ってよ。ボク、キミとセッ――がしたいな。キミはしたくない? ボクと」
「セッ!? セッ――っていうと、ままままさか」
「ふふふ、そのまさかだよ」
アオ先輩が、僕の耳元で囁く。
「セ・ッ・ショ・ン♡」
「セック――んんんっ! あわ、あわわわわ」
で、ですよねー。
セッ――ション。
セッションか。
でも、先輩の美声でドラムが叩けたら、きっとメチャクチャ気持ちが良いんだろうな。
「あはは。リアルに『あわわ』って言ってる人、生まれて初めて見た」
緊張で喉がカラカラだ。
僕は、ちょうど目の前にあったコップをあおる。
すっかり飲み干してしまってから、気が付いた。
「あ、コレ、中身――」
途端、目が回った。
そこから先の記憶はない。
♪ ♪ ♪
「あれ? コイツ寝ちゃってるよ」
「いいよ。この子はボクが連れてくから」
……眠い。
頭が働かない。
「をいをいをい男を家に連れてくのか!? さすがにヤベーだろ。俺ん家に連れてくぜ」
「ダ~メ。そんなこと言って、この子を取っちゃうつもりなんでしょ? この子はボクのだから。ボク専属のドラマーにするんだから」
誰かに背負われているような。
甘い匂いがする。
眠すぎて、目を開けることができない。
♪ ♪ ♪
……チュン、チュンチュン
「――――はっ!?」
飛び起きた。右を見て左を見る。
知らない部屋だ。
「昨日、軽音部の飲み会に行って……それで? うっ」
頭が痛い!
それに、
「トイレ!」
足の踏み場もないほど散らかった六畳間を抜け、トイレと思しきドアを開くと、
「やっちゃん!? ――あっ」
「きゃあ~~っ!?」
お風呂上がりの――全裸のアオ先輩に出くわして、僕は悲鳴を上げた。
「わっ、わっ」
なぜだか先輩が、カラダではなく両手を背中に隠そうとする。
そんなわけだから、僕は先輩の見事と言うほかないバストをたっぷり堪能する羽目になってしまった。
僕は大慌てで背を向けようとして、
「へぶ!?」
思いっきり、鼻先をドアの角でぶつけた。




