5曲目2
「戦いはトーナメント形式で行われます」
部室棟三階の片隅で、アオ先輩が丸めたノートをマイク代わりにアナウンスする。
「優勝者には、『青子緑子』のキーホルダーが進呈されます。非売品だよ」
「くれ!」
「ウチも欲しいわ~」
「……私も!」
「あ、えっと、ぼ、僕も!」
ヒット曲『青と緑のハザマで』のイメージキャラクターが印刷されたキーホルダーを見て、全員が目の色を変えた。
僕はもちろんのこと、イナズマちゃん先輩、シロ先輩、くれなゐ先輩も『青子緑子』の熱狂的なファン――有り体に言って信者だ。
先輩方は、普段こそアオ先輩に友人として接しているけど、その根底にあるのは『青子緑子』に対する強い強い憧れだ。
「では」
アオ先輩がノートPCを開き、カタカタカタカタカタッターン!
「これがトーナメント表。気になる一回戦は――、くれなゐ! VS、モヤシちゃん! だぁ~~!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
「う、うおおお、です」
皆、ノリ良いなぁ。
♪ ♪ ♪
「「にらめっこしましょ♪ わろたら負けよ♪ あっぷっぷ!」」
くれなゐ先輩の美少女顔を至近距離で見つめる。
目ぇでっか。
睫毛なっが。
見れば見るほど美少女だ。
地雷系特有のキツめのメイクが目を引くけれど、すっぴんでもメチャクチャ可愛いんだろうな。
彼氏とかいないんだろうか。
いや、僕が元カレなんだ。
記憶はないんだけど。
「んふふふ」
くれなゐ先輩が笑いはじめた。
同時にクネクネする。
「モヤシくんが私だけを見つめてる。あぁ、なんて情熱的な瞳! こんな目で見つめられたのなんて十年振り――」
「はい、くれなゐの負けー」
と、審判役のアオ先輩。
「えええっ、どうしてですか!?」
「いや、笑ってたし」
「がーん!」
とオノマトペを口で言うくれなゐ先輩。
意外とお茶目なところもあるらしい。
「ふふっ」
そんなくれなゐ先輩がなんだか妙に可愛らしくて、思わず笑ってしまった。
「あ、モヤシくんも笑いましたね」
くれなゐ先輩が微笑む。
優しい笑顔だ。
二人、至近距離で見つめ合う形になったけど、不思議と恐怖はなかった。
♪ ♪ ♪
「お次はイナズマちゃん VS モヤシちゃんだ!」
「にらめっこ――」
僕が歌いはじめるのをよそに、イナズマちゃん先輩がツインテールを解きはじめた。
何だ何だ、ドキドキするじゃないか。
イナズマちゃん先輩が長い金髪を顔の前に垂らして、
「貞子!」
「んっふ」
わ、笑わないぞ。
先輩、今度は髪をかき上げ、毛先をクルンとさせて顔の前に持ってきて、
「板垣退助!」
あれか、明治時代に流行った、尖ったヒゲに見立てているのか。
でもこれ、にらめっこじゃなくて一発芸大会になってないか。
「イタガキシストモジユウハシセズ!」
イナズマちゃん先輩、渾身の裏声!
「ぶふぅっ」
その、謎の勢いに乗せられて、僕は思わず吹き出してしまった。
「は、反則ですって!」
「がっはっはっ。俺様の勝ちだぜ」
心底楽しそうなイナズマちゃん先輩とも、間近で見つめ合う形となる。
けれど、不思議と恐怖はなかった。
♪ ♪ ♪
「お次はシロ VS モヤシちゃん」
「「あっぷっぷ!」」
次の瞬間、信じられないことが起こった。
「くわっ」
とオノマトペを口で表現したシロ先輩が、
あぁ、あぁ、あの、いつも糸目のシロ先輩が、
開・眼、したのだ!
「!?」
つられて僕も目を見開いた。
「……んっ、ふふ」
糸目に戻ったシロ先輩が、笑いはじめた。
「も、モヤシちゃん、そこまでびっくりせぇへんでもええやんか~。あーあ、ウチの負けやわぁ」
そう言っていつもの糸目に戻り、にへらぁと笑うシロ先輩は優しげで、至近距離で見つめ合っても、夏野を前にしたときのような恐怖はなかった。
♪ ♪ ♪
「あっぷっぷ! 先手必勝! うりゃりゃっ」
「ちょっ、あひゃっ、あひゃひゃっ。くすぐるんは反則やって~イナズマちゃん!」
なんて言いながら、メチャクチャ嬉しそうなシロ先輩。
何だろう、やはり百合の波動を感じる。
「はい、イナズマちゃんの勝ちー。ラストはボクとモヤシちゃんだね」
「はい」
僕はアオ先輩と向かい合う。
「「にらめっこしましょ♪ わろたら負けよ♪ あっぷっぷ!」」
次の瞬間、再び、信じられないことが起こった。
アオ先輩が、あの、クールでビューティーでダウナーでミステリアスなアオ先輩が、
あぁ、あぁ、本当に、もう本当に信じられないほどの、
ヘン顔を、した!
「んふっ、んぶふぅっ、あはっ、あははははははははははっ! ひーっ、ひーっ」
「はい、ボクの勝ちー。優勝はボクだったね」
「つまんねー! キーホルダーよこしやがれ!」
「せやせや~」
「……ほんそれ、です」
「分かった、分かったよ。じゃあ、じゃーんけーん」
「「「ぽんっ」」」
笑い転げている僕の横では、息ぴったりな先輩たちがグーチョキパーで戦っていた。
「どうだい? だいぶほぐれてきたんじゃないかな?」
勝負を終わらせたアオ先輩が、近付いてきた。
「って、まだ笑ってるのかいモヤシちゃん。さぁ、次のステージに進むよ」
「ひーっ、ひーっ。まだ何かやるんですか?」
「路上ライブだよ」
「……………………え?」
「人の目に慣れるには、衆目にさらされるのが一番。多少、荒療治の感はあるが、なぁに大丈夫さ。この、天才美少女ボカロPボーカルバンマス美少女のアオ様が付いているんだから」
美少女って二回も言いましたよね、とか。
そんなことをツッコむ余裕なんて一ミリもなかった。
鏡がなくても分かる。
僕の顔は、哀れなほどに凍りついていた。




