↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炭鉱街のガベル  作者: 稲村某(@inamurabow)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/37

(3)ー①



 ガベルはルモの事を知らなかった。いや、正確には【彼女の出自や過去】を知らなかった、である。そもそも、互いを好い合っていても全てを知っている訳で無く、その微妙な間柄に二人は過度な進展を望んでいなかったからだ。


 無論、ガベル自身はルモの過去に全く興味が無い訳ではない。




 「……護衛?」

 「そう、護衛。というより用(・)心(・)棒(・)って言った方が良いかな」


 女性らしい丈の短いスカートを穿いたルモがそう言うと、ガベルは彼女の装いに目を奪われながら返答する。


 「ギルドを介して正式に依頼してもらっても、個人的に請け負っても金額は変わらない」

 「じゃあ、ギルドを通したら良いかな? その方が両方の株が上がるね」



 ルモが働いている娼館【常緑の庭】亭は本来、専属の用心棒を雇っている。その用心棒が辞めてしまう為、代わりが見つかるまで代替要員を探しているらしい。そしてルモが知り合いに腕利きが居ると楼主に話した所、直ぐ会いたいから連れてきてくれと頼まれたそうだ。


 「ただ、用心棒はやったことが無い」

 「難しい事なんて無いし、ただ椅子に座ってそれっぽくしてればいいわ」

 「……それっぽく、か」


 ガベルがそう答えると、ルモはちょっとだけ困った顔で呟いた。


 「……でも、モテちゃったら嫌かも」



 「ガベルが用心棒か、なるほどね。確かにうってつけだろう」


 ギルド会館に仲介を頼む為、ルモはガベルを伴いロキシーとアルマに詳細を話した。


 「ガベルさん、用心棒ってした事無かったんですか?」

 「ああ、そういう仕事は内々で話を纏める事が多いからな。俺みたいに娼館と面識の無い奴に仕事は回ってこない」

 「なるほどね! で、期間はどの位です?」

 「それは【常緑の庭】に行って聞かないと判らん」


 アルマはルモから聞き取りしつつ用紙に記入し、最後の欄にガベルのサインを記してもらう。


 「……では、これで正式に依頼と受注が終わりました! それでは行ってらっしゃいませ!」


 アルマに見送られ、ガベルとルモがギルド会館を出ようと踏み出しかけた時。ふとロキシーの視線を感じてガベルが振り向くと、


 「ふむ、こうして見るとお似合いの二人だな」


 等と余計な事を言っているので、ルモは怒ったような恥ずかしいような顔でガベルに早く行こうと急がせた。



 「……中に入るのは初めてだ」

 「そうだったっけ?」


 ルモの働く【常緑の庭】亭に着いた二人は、ルモを先頭に店内へと入る。まだ開店前という事もあり、灯りは控えめで薄暗いが何も見えない訳では無い。客を迎えるエントランスホールは広く、幾つかのテーブルや椅子が壁際に並んでいるが調度品は少ない。あくまでこの空間は訪れた客の好みを聞いたり良からぬ類いの者を選別する為のスペースで、いわば緩衝地帯として機能しているのだろう。


 「……あら、早かったわね。そちらが例の用心棒さん?」


 そう言いながら現れたのは、この娼館の主《あるじ》、楼主のキーリエである。


 「初めまして、いつもルモがお世話になっているそうね?」

 「いや、そうと言えばそうだが……」

 「ふふっ、そうなの? では、細かい事はあちらでお話しましょう」


 キーリエがそう言いながら目配せするとルモは一礼して下がり、ガベルは彼女に誘《いざな》われて奥へと進んで行く。娼館の中は独特な香気のせいか言いしれぬ雰囲気が漂い、客として招かれていないガベルでも妙に動悸が高まる気がする。


 「さあ、そちらにお掛けになって」


 キーリエの部屋に案内されたガベルが勧められた椅子に腰掛けると、そこは窓から日が射し込み平穏な空気に包まれていた。


 「……何かお飲みになる?」

 「いや、仕事だからお気遣いなく」


 ガベルがそう答えるとキーリエは頷き、自分用の机の椅子に腰掛けて口を開いた。


 「お仕事は難しい事も無いの、誰にでも出来る簡単な内容よ」


 彼女はそうあっさり言い、緩やかに身を包む薄衣姿を静かに揺らす。


 「……このお店もそうだけど、この界隈には独特のルールがあるわ。揉め事は起きないし、起きても領主やお歴々に知れ渡る事は無いの。何故だか、判るかしら?」

 「聞いた事がある、自(・)浄(・)作(・)用(・)とか何とか……だったか?」

 「あら、物知りね。その通りよ……」


 キーリエはガベルの言葉に感心したように肯定し、にこりと微笑む。彼が口にした自浄作用、とは色街特有の言い回しで商売の邪魔になる存在を排除する意味を指している。


 例えば、色街の娼館で店の御法度破りをする客や、文無しで逃げようとする不届き者が現れたらその場で捩じ伏せ、通りに放り出す。すると何処からとも無く顔役の差配で動く者達が集まり、二度と近付きたくなくなるような目に遭わせる。大抵は手足のどれかを砕くか、折るかして色街から叩き出して締めにする。流石に殺すような事はしないにしても、大抵の者は懲りて二度と現れなくなるだろう。


 「……だから、ここでは問題が起きなければ只の不寝番があなたのお仕事。運が良ければ、何もしないで終わるかもね」


 キーリエにそう言われ、ガベルは少しだけ安堵する。不慣れな職場で荒事ばかりの日々を過ごす訳ではないようだ、とその時は思ったのだが……果たして、その通りになるのか。


 「……改めて、宜しく頼みます。自分はガベル、この炭鉱街ギルドで働く者です」

 「ガベル、こちらこそ宜しくね。そうそう……あなた、この店で働く上で一つだけ守って欲しい約束があるのよ」


 ガベルが自己紹介すると、キーリエは真面目な顔でそう付け加える。



 「……この店の娼婦は、全員うちの大切な商品なの。だから、働くうちは誰にも手を出しちゃ、駄目よ?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。