(2)ー⑬
ガガン、ガン……とレールの継ぎ目が振動となり、ガベル達が乗る軌道車は停車するまで上下に揺れる。速度が出ている時は気にならなかったそれは、停まる寸前には段差を乗り越える程にはっきりと感じられた。
「呼び出し方が露骨だな、これじゃ客車は大騒ぎになってるんじゃないか?」
「そうかもしれませんが、でも行かないと契約違反になりますよ」
車両が停まると同時にガベルとリンベルは席から立ち上がり、他の者達と共に先頭車両へ向かう。他のギルド所属者もガベルと同様に軽装だったが、その中でもリンベルの身軽さは群を抜いている。果たして彼女は何を頼りにギルドで活動していたのか、ガベルは気になったが敢えて口にしなかった。
「止まって大丈夫なのか?」
「……露骨な妨害だろう」
「でも、止まらなかった大事故になったんじゃないか?」
騒然とする客車内の通路を抜けながらガベルと他の警備担当者が先頭車に辿り着くと、軌道車の車長が眉を寄せながら窓越しに前を睨んでいた。
「……急に呼び立てて済まん、だがアレを何とかしなきゃ先に走れんのでな」
そう言いながら線路の先を指差すと、集まった面々もその指の先を見る。
「……倒木だろうが、不自然だな」
「林からあれだけ離れた場所だろ、怪し過ぎるぜ……」
ざわつく面々の言う通り、線路を跨ぐように人の胴回り程の太さの木が横たわっている。当然だが線路を敷設した際に残された類いではなく、離れた林から伐り出して転がした物だろう。だが、問題はその意図である。
「軌道車の運行を妨げる目的で塞いだのなら、取り除けばよかろう。邪魔されなければ作業出来るのか」
ガベルが車長にそう告げると、彼は係員専用の伝声筒の蓋を開けて口を当て、
【 よし、ヘルガーとアダマンは手斧を持って行け。集まった警備員と一緒に行って直ぐ取り掛かれ 】
そう命じるとガベルに向かって頷く。
「すまんが、除去作業を妨害する奴等が出たら追い払ってくれ。但し、くれぐれも無茶はせんようにな」
ガベルが車両の出入り扉から伸びる梯子を使い、線路の脇に降りる。だが、その彼の横にリンベルは梯子を使わずふわりと羽根のように着地する。
「……おっ?」
「あ、驚かせちゃいました!?」
「いや、案外身軽なんだな……」
その身のこなしは全く重力を感じさせず、それが優れた体幹から成し得る技と理解したガベルは一瞬目を見張った。先程、危うく落車しかけたリンベルと同一人物かと彼は訝しむが、
「ええ、そうですけど……たまに失敗して大変な目に遭っちゃうんですよ?」
軽い調子でそう答えると、リンベルは地に着けた足先を回しながら身体を伸ばし、ぐるりと首を巡らせる。
「さて、それじゃ先に行ってます!」
そしてそう言い残すと軽く身を弾ませるよう跳躍し、その勢いを殺さず走り出す。
「おい、ちょっと……やれやれ」
だが脱兎のように遠のいていくリンベルの後ろ姿に溜め息交じりで呟いてから、ガベルも彼女を追って走っていった。
停まった軌道車から暫く走り、ガベルは問題の倒木箇所に到着する。だが、辿り着いた時点でリンベルは既に周囲の偵察を済ませていたらしく、
「お疲れ様です! 周りに待ち伏せしてるヒトも居ませんでした!」
快活な声でそう告げながらリンベルは遅れてやって来た保線係員の二人を出迎え、彼等が安全に作業出来るよう周囲を警戒する。と、その時点で彼は気付く。
(……リンベルは周囲に待ち伏せする相手が居ないと言っていたが、そんな時間があったのか?)
不意にガベルは彼女が敵対的な何者かが送り込んだ工作員かもしれないと怪しみ、もし内通者だったらどうしたら判るのかと考えてみる。
「どうしたんですか、ガベルさん?」
「……いや、ちょっと考え事をしていた」
そんな彼に屈託ない様子でリンベルが話し掛け、ガベルは自分の心配が只の余計事であれと祈った。
カンッ、カンッ、と乾いた音を立てて左右から手斧で次々と叩かれていた倒木だったが、やがて中心から二つに割れかける。そこまですれば、軌道車の先端に付いた駆除柵で容易に分けられるだろう。
「……これでよし、あんたらありがとうな」
「しぶとい木だったが、何とかなりそうだ!」
二人の保線係員の手で作業が完了し、ガベル達は周辺警戒の役割りを終える。
「ところでリンベル、聞いても良いか」
「何ですか、ガベルさん?」
保線係員の二人がゆっくりと進んで来る軌道車を先導する様子を眺めながら、ガベルがリンベルに問い掛ける。
「……さっき、周辺に誰も居ないと言っていたが、随分と早いうちに見回ったな」
「それがどうしたんですか?」
ガベルに向かってそう聞き返すリンベルだったが、彼の意図を理解してそれでしたら、と言いたげに答える。
「御覧のように、私の取り柄なんて……良く見て、良く聞き、良く探す、なんですよ!」




