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炭鉱町のガベル  作者: 稲村某(@inamurabow)


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14/18

(2)ー②



 結局、目新しい異変も無かったのでガベルとルモは真っ直ぐ宿屋に戻る。街同様に住人達も多少の動揺はあったのかもしれないが、何せ普段から互いに不干渉を貫いている連中である。二階の廊下はしぃん、と静まり返っていた。


 「何かあったら報せてくれ」

 「そうね……でも、それはお互い様よ?」


 そう言い交わしてルモと別れて部屋に戻ったガベルは、それまでずっと感じながら彼女に告げていなかった疲労感で部屋の中に膝を着く。


 (……な、何だこれは……?)


 過去に例を見ない身体の変調に、冷や汗をかきながらガベルは困惑する。そして肺の障害が深刻化したのかと暗澹な気分になりながら、それにしては呼吸の辛さが無い。気を鎮める為に深呼吸し、ゆっくりと息を吐いてみるが痛みも無い。


 「……落ち着いてきたのか、それとも……」


 ルモに心配をかけたくなかったガベルはどうしようかと躊躇うが、嘘をつきたくない彼は着替えてから彼女の部屋のドアを叩いた。



 「……ここは平気?」

 「ああ、別に痛くはない」


 変装から見慣れた普段のスカート姿に戻ったルモは、再度訪れたガベルの話を聞いて背中や胸を優しく叩いて具合を見る。無論、医学的な知識が有る訳でない彼女に詳しく見立てが出来る事はないが、ガベルは素直に答えながら身を委ねた。


 「それにしても……実は私もちょっと気が抜ける感じがしてたの」

 「君もか」

 「ええ、でも何て言ったらいいかな……そう、息を止めた後にスーッと意識が遠のくのに似てたかも」


 彼女の話を聞いたガベルは、二人だけそうだったかまで判らず互いの顔を見合う。


 「……地鳴りと失神もどきに、何か因果関係があったのだろうか」

 「そこまで判らないけど、でもガベル……ちゃんと報せてくれたのね」


 ルモはそう言って微笑み、ガベルはまるで子供を褒めるような言葉に少しだけ恥ずかしさを覚えた。



 ガベルはその日のうちにギルド会館に行き、ロキシー達にも話を聞いてみる。そしてロキシーの反応は彼と同じだったが、アルマは全く違った。


 「何だかフニャーッてして、魂がふにゅ〜って抜けちゃいそうになりましたよっ!!」


 力が抜けて貧血みたいになった、と言いたかったアルマだが、彼女の証言はかなり抽象的で判り難い。しかし、元々外的要因に敏感な猫人種のアルマだからなのか、


 「……でも、どちらかと言うと……()()()()()()()()()()って感じなんですよねぇ〜」


 と言ったのでガベルとロキシーはまさかと軽く笑った後、ほぼ同じ事が気に掛かり笑えなくなる。


 ……世界中から何らかの力が無くなったとしたら、自分達はどうやってそれを知る事が出来るのか、と。




 この世界に於いて、人々の拠り所として機能している組織はおおよそ三つある。


 一つは国家。大小の違いや権力中枢、運営母体といった様々な形態は異なるが、古くから機能し文明維持の基盤として栄えている。


 一つは宗教。その出自は実に多彩で土着信仰から故人崇拝と清濁入り乱れながら、中には信徒数で既存の国家を軽く上回る越境宗派も多く存在する。


 そしてもう一つは魔導。魔導を操る【魔導士】を束ね人知を超えたその技は人々から恐れられた。だが魔導士を管理する魔導協会は、国境に囚われず各地に支部を置き、国家を牛耳る権力者すら彼等を操る事が出来なかった。


 国家は【人々】を束ね、宗教は【信徒】を束ね、魔導は【魔導士】を束ねる。一見、統一性の無い各組織だが一つだけ共通点が有る。それは目には見えないが確かに存在する【大いなる力】が有るからこそ、長くそして広く継続出来たのだ。




 互いの話題も尽き、話が途絶えたそのタイミングでロキシーがガベル、お前に聞いてもらいたい話があると言い出した。


 「……【大地の慈母】教会?」

 「そうだ、誰でも知っているそこの事さ」


 ガベルにロキシーがそう説明すると、彼は今更何を言い出すのかと訝しむ。この世界で人々が信仰している宗教は数多あれど、【大地の慈母】教会は土着の旧き神々の中でも特に信徒数の多い宗派である。その経緯や現況を正確に知る者は少ないが、しかしどの町にも教会が有り老若男女問わず広く信仰されている。だからこそ、ギルド協会直々の依頼として舞い込んだこの案件にガベルは眉を寄せる。


 「わざわざ俺達にさせなくても正式に問い合わせれば済む話じゃないか」

 「そう思うだろう、だがな……今の【大地の慈母】本部教会は面会謝絶を貫いているよ」


 ロキシーの面会謝絶、という言い回しにガベルは再び表情を変える。


 「来るものは拒まず、ってのが教会の基本だろう。それを捨て去ったら新たな信徒が来なくなる」

 「ガベル、【大地の慈母】教会は信徒数を増やさなくても十分やっていける。それだけ喜捨の額は膨大なんだが……とにかく、ギルド協会の使者は門前払いされた」


 事の始まりは【大地の慈母】本部教会がある街、マルリッジのギルド協会に信徒達が押し寄せ、中に入れないのでどうにか話を付けてくれと持ちかけてきたのだ。そしてギルド協会から派遣された二人が教会本部に着くなり、今は非常に重要な案件が山積みで対応出来ない、事態が安定したら必ず知らせるので今日はお引き取り願いたいの一点張りで帰されたそうだ。


 「……そこまで突き返される理由が判らんな」

 「一応、ギルド協会としては事態を静観すると教会には伝えたらしい。だが、それは表向きの話だ」


 二人の話はそこで一旦区切りが着くが、続けてロキシーはガベルに向かって小声で囁いた。



 「……ギルド協会は、【大地の慈母】教会が聖なる力を失ったかもしれないと危惧している。それを確かめられれば何らかの強みを得られるかもしれん」




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