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無限の容れ物

 しかし、お前の病室は殺風景だな。


 そうかしら、ベッドがある、医療機器がある、棚がある、そして何より私がいる。


 おお、絶望している割にはたいそうな自信だな。


 それくらいしか私は持てないもの。書き残す指も、何かを抱く腕もないんだから。


 しかし、妙だなあ。絶望している人間ほど、藁でもなにかを持とうとするもんなのに。悪魔に願う人間だって何かをほしがるばっかりだ。


 それこそ、人によりけりよ。何かを持っていることこそ、不幸である場合だってあるわ。


 そうかね?持っていて得はあっても、後悔することはないんじゃないか?


 そうね……じゃあ今夜は、多くを持たされた箱について話しましょうか。



 






 あるところに、何でも容れることができる箱があった。


 誰が造ったものかは定かではないわ。神様が忘れていった箱という伝説もあれば、悪魔……が造ったものという言い伝えもあった。


 その箱にはなんでも容れることができた。人間も、書物も、街も、山も。人が崩したり、持てるものならなんでもね。


 そして何より、記憶や感情もいれることができた。誰かに対する憎しみや、自身を傷つけるような哀しみ、今にも命を絶つ理由になる記憶なんてものもね。


 だから人間たちは、その箱に自分のいらないものをどんどん容れていった。


 勿論、その容れた物を忘れようとしたわけじゃないわ。ただ「後でなんとかしよう」って思っていただけ。


 ほら、部屋を片づけるときに、必要かわからない物を一カ所にまとめたりするじゃない?ちょうどそんな気持ちで、人間たちは箱に自らの業を詰めていった。


 戦争の負債、憎しみの連鎖、不要なゴミ。形ある物もない物も、今はどうしようもないと思ったらまよわずそこに詰めていった。


 もちろん、捨てたわけじゃないわ。


 「後からなんとかしよう」って思っていただけ。


 当然、その「後」は訪れなかった。誰だってみたくないと箱に詰めた物を、改まって見たいなんて思わないもの。


 その箱に詰められていった負債は、もはや誰もわからないレベルになっていった。箱の口は怨嗟に満ち、新たに捨てようとした人を発狂させるほどになっていった。


 人々はそれを封じた。開けてしまえば世界が滅ぶ災厄の箱として、忌み嫌った。結局は自分たちが容れたものなのにね。


 皆はそれを忘れ、長閑に暮らしたわ。負債を清算することなんてなく、ただ忘れて自分たちは不幸と思いながら。


 悠久のときが流れたとき、その箱が考古学者によって発見された。


 学者は、その何かわからない箱をたたえたわ。人類が残した貴重な歴史の足跡だと、偉大な資料だと。


 全人類が注目するなか、その箱が開けられた。


 どうなったかって?大したことじゃないわよ。


 不幸だと思っていた人類たちが、さらに不幸になっただけ。


 自分たちが棚上げしていたことも忘れて、こんなものを遣わした神を罵りながら、解決できない大きさの災厄をただ受け入れるしかなかった。


 まだまだ、箱の中には、「遺産」が残っている。


 おしまい








 つまりこれは、お前流のパンドラの箱ってことか?


 そんな大層なもんじゃないわよ。それにね。その箱には希望なんて入ってないわ。


 わずかにでもか?


 ええ。そんなものあったら、箱に大切にしまう前に使ってしまうわよ。人間は。だから身に余る願いをあなたのようなモノに願うんじゃない。


 はは。それは間違いない。大切なものを湯水のように使って、なくなってからぎゃーぎゃーわめくんだよなお前たちは。


 まあね。ただ一ついえるとしたら。希望があったとしたら。負債があったという事実が現れたことかも。たぶんね。


 ま。俺は負債があるほうが、うれしいがね。そんなのにまみれているからこそ。俺が人間に呼ばれるわけだから。


 なるほどね。じゃ、今宵はもうおしまい。どこかで災厄につぶれそうな人間を食べにいったらどう?


 ふむ。そうだな。まだお前より美味しそうな魂がそこらじゅうにいる。次の夜まで腹ごしらえといくか。


 お腹を壊さないことね。人間の災厄って、見た目からは腐り具合はわからないものだから。


 へいへい。じゃ、次の夜に。


 ええ。




 

ネタがすでに浮かばなくなってきた

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