突風
カンカンッ
静寂の中木槌を打ち鳴らす乾いた音が響く。
「これから、律刀の裁判を始める。」
木槌の音の余韻が残る中、裁判官が重々しく告げた。
「罪状を読み上げる。」
淡々と裁判が続いてゆく。その中律刀は何処か他人事で眺めていた。あの事件から、自分の身体が自分のものではないように感じている。
「被告人、何か伝えておく事はあるか。」
律刀からの返事がない。魂が抜けたような顔だ。
「被告人!!」
大声を出されてようやく気付いたようだ。
「あぁ…すみません…。私から言いたいことはございません。」
「では判決を伝える………」
律刀は何度目になるかわからないため息をついた。牢の中で。本当ならば、騎士団全滅は一番罪の重い自刃だが、今までの功績を考えて、無期懲役になった。ただ、妖の武具に無期懲役を課すと永遠の苦痛を伴う。なぜなら自分の武具が無いと、死ぬことができ無いから、永遠に牢の中に囚われることとなるからだ。
「もう、無にも帰れない…。」
「なんだぁ。そんなにつらいことでもあったのかぁ?」
向かい側の牢に入ってる背は低いがガタイが良い男が話しかけてきた。
「え?ああ、自分か?そうだな、永遠にこの牢の中と考えれば辛いが。」言葉を探すように少し空を仰ぐ。「…でも、自分の罪と比べれば辛くはない。」
「あんちゃん若いのにたいへんだなぁ。俺の名前はアマティアだ。あんちゃんの名前はぁ?」
「律刀。自分は妖の武具だから、見た目と年齢は合ってないんだ。少し長い付き合いになりそう。よろしく。」
「そんな律儀にありがとなぁ〜律刀はんはぁ、妖の武具なのか…じゃあ、無期懲役なんて、魂も消滅できねぇじゃねぇか。」
「そうだが、自分にできる償いはない。死んでも自分達の罪は償えないんだ。」
「律刀はんも大変だなぁ」
アマティアと律刀の牢の中での奇妙な付き合いが始まった。
アマティアは話好きで、看守から聞いた色々な話を律刀にもしてくれる。例えば、最近城内をうろつく可愛い犬がいるだの、見えざる刃と呼ばれるやつが城下町の住人を切り裂いているだの、今見回りに来ている看守は恋人がいて最近喧嘩して別れそうだだの牢の中での退屈を紛らわせてくれるような話をしてくれる。
いつものようにアマティアは話をし始めた。
「律刀はんは、こんな噂知ってるか?また看守から聞いたんだけど、最近最強と名高い騎士団の沈丁花団が、全滅したらしいなぁ」
いつもたのしそうにあいづちをうっている律刀だが、今回ばかりは聴いているのかわからない顔をしている。アマティアは話し続ける。
「なんでも、団長達が裏切ったとか。都市伝説とされていた沈丁花団第八団長が実際にいて、そいつが黒幕だったとかなんとか…」
「やめろっ!」
アマティアが聞いたことないほど大きな声で律刀が話を遮る。
「おいっ!私語は慎めっ!」
看守から注意された。
「申し訳ないアマティアさん。ただ、その話はやめてくれ。」
「すまんなぁ。律刀はん。嫌な話をしちまったなぁ。」
律刀は沈黙が流れたままアマティアに背を向けて、気まずい空気のまま話が終わってしまった。
鉄格子がはまった小さな窓から律刀は陽が沈んで星が瞬き陽が登ってくるのを眺めている。
いつもならアマティアが話しかけ始めてくる時間になっても静かだ。それだけではなく他の音も聞こえない。まるで全てが死んでしまったかのように。
「おかしい。音がしない…」
律刀はアマティアの牢屋を覗き込んだ。
「……………っ。」
アマティアは無惨にも切り刻まれていた。看守などが自分よりも早く見つけるはずのアマティアだったものがそこにあった。
「だれか来てくれ!看守はっ!囚人が!」
看守が来る気配がない。それどころか他の囚人の音もしない。まるで全員がいないかの様に。
(本当はこんなことしたくないけど…緊急時だ仕方ない。)
一つ深呼吸をして律刀は自分の腕ほどの太さの鉄格子に手をかけた。
「ふんっ!」
みるみるうちに鉄格子は飴細工のようにぐんにゃりと曲がってゆく。
人間ならできるはずのない芸当だが、律刀は妖の武具だ。だからいとも簡単に曲げてゆく。そしてほんのわずかな時間で人一人通れるくらいの隙間を作る。するりとその隙間から抜け出し、隣の牢を覗き込んだ。
「…こちらもか。」
ポツリと呟いた言葉はアマティアと同じように切り刻まれた死体に吸い込まれた。
確認したところ、自分以外の囚人は切り刻まれていた。それどころか常駐している看守も見回りに来た看守も倒れていて、切り刻まれていた。
「………見えざる刃。」
アマティアから聞いた噂を思い出す。律刀は一晩中起きていた。人の気配は察知することが出来る律刀でも感じることが出来なかった何か。
きゅっと心臓が縮み、暴れ出す。
その時だった。
コツーン コツーン コツーン
誰かが地下牢の石畳を歩いてくる音がする。
律刀は自分の依代も武器も取り上げられて丸腰だが、素手でも戦えるように構える。
コツーン コツーン コツーン
近づいてくる。
コツ
音の主が視界に入った。気だるげな様子を常に纏うが、風の扱いでは並ぶものはいない虹玉七刀が一振。虹玉翠刀であった。




